沖縄戦から80年となった今年は、若者たちが遠い記憶を自ら学び、残された教訓を考え、次に伝える活動の広がりを感じる一年でもあった。
 首里高の「Neo同好会」の5人は、「学びっぱなし」にするのではなく、考え続ける新スタイルの平和学習に取り組んだ。

 沖縄戦などに関する研修を受け、体験者の話を聞き、県外や韓国の高校生と意見を交わした。その後、県内の中学校でワークショップを開き、学んだことを継承している。
 ワークショップでは沖縄戦の真っただ中に生きていると想定する。岩穴に隠れている際、米兵に「出てこい」と呼びかけられたらどうするか。家族の中で自分だけ疎開船に乗ることを告げられたら疎開するか。
 答えは一つではなく、どれを選んでも生き残れるとは限らない。戦時下という極限の状態に置かれた当時の人たちの悩み、迷いを少しずつ追体験する。
 中学生たちは「戦争を体験していなくても、伝えることはできる」と感じ取った。高校生は自分の考えたことを言葉に出すことで学びを深めた。
 戦争からの年代的な距離は「語る資格」に影響しない。Neo同好会の活動は記憶を風化させない現実的な対抗策を教えてくれる。
 映画や演劇、音楽など、かつての戦争を伝える形は多様化してきた。

 さまざまな世代が、さまざまな場所で沖縄戦を継承する重層的な取り組みは、平和な社会を実現するための「導きの糸」を紡いでいくことになる。
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 県内では、戦前戦中に生まれた80歳以上の人口が1割を切った。
 高校生を対象にしたアンケートでは、家族や親族で沖縄戦について話す人が「いない」との回答が、5年前より6・7ポイント増の58・9%に上った。
 ただ、沖縄には県史をはじめ、市町村史、字史など、体験者の証言に触れることができる資料がたくさん残っている強みがある。
 県教育委員会は「県史ビジュアル版沖縄戦」を新たに刊行した。写真や図をふんだんに取り入れた理解しやすい入門書だ。
 ページをめくり、親族や同じ地域に住む人たちの戦争体験を見つけると、より「自分事」に引き寄せることができる。
 体験者の声は、遠のくことはあっても失うことはない。その継承の在り方を一つ一つ確かめる作業が重要になる。
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 史実をゆがめ、戦争を美化して、かつての道に戻そうとする政治家などの言動は後を絶たない。
 だからこそ、血を吐くような思いで体験を語ってくれた人たちの証言を、反芻(はんすう)し、繰り返し学ぶ意義はますます高まっている。
 その時代における解釈ではなく、事実に根差した言葉を土台とする歴史を社会全体で共有することは、大きな力になる。

 それを戦後90年、100年へ受け継いでいくことは、今を生きる私たちの使命であり、責任である。
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