ハンセン病への差別と偏見に満ち、後に違憲と判断された特別法廷での審理を巡り、やり直しを求めた人々の声は届かなかった。
 ハンセン病患者とされた男性が隔離された特別法廷で死刑判決を受け、1962年に執行された「菊池事件」で、熊本地裁は再審を認めない決定をした。

 男性は村役場の元職員を殺したとされたが、無罪を主張していた。第3次再審請求が棄却された翌日、死刑が執行された。
 特別法廷は、ほぼ非公開で行われた。男性は無罪を訴えたが、弁護人の十分な弁護も受けられなかった。
 判決では、審理に重大な違憲があり事実誤認を来す場合は再審を開始すべき余地があるとした上で、事実認定への大きな影響を認めなかった。
 再審請求では(1)違憲の裁判が再審理由となるか(2)無実を示す新証拠があるか-の2点が争点となった。
 特別法廷が違憲かどうかが争われた訴訟で、熊本地裁は2020年「人格権を侵害した不合理な差別で憲法違反」と判断した。
 今回、地裁は20年に続き特別法廷は違憲とした一方で、それが再審開始の理由にはならないと退けた。弁護側が示した凶器や親族の供述に関する新証拠も理由にならないと指摘した。
 憲法違反について「確定判決の事実認定に誤認を来すとは認められない」とするが、本当にそうなのか。当時の法廷の雰囲気や世情を考えれば、判決が公平公正な審理に基づいたものだったのか、疑問が湧く。
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 当時の法廷内では被告の男性以外は予防衣を着用し、裁判官は手袋をして割り箸で証拠品をつまんだとされる。

 元書記官は後に「弁護人でさえも差別と偏見を持って裁判にあたり、事務的に進められた。誰も男性を人間として扱わなかった」と証言している。
 家族崩壊や一家離散にまで追い込まれるほど激しい差別を受けながら、21年に第4次再審請求に踏みだしたのは、無罪を信じる遺族や支援者だ。司法自ら、当時の法廷は違憲だったと認めた事実があったはずだ。
 再審への扉が開かず期待を裏切られた元患者の一人は「お前たちは人間じゃないんだよ、という意味だ」と憤りをあらわにした。
 弁護団は即時抗告する方針を示している。司法は自らの過ちと向き合い、再審を開始するべきだ。
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 ハンセン病の国立療養所は全国に13カ所あり、そのうち県内には沖縄愛楽園と宮古南静園の2カ所がある。家族への偏見差別被害を訴えた家族訴訟の原告の約4割は、県内在住者だった。
 国の隔離政策を「違憲」と断罪した熊本地裁判決は2001年。あれから約4半世紀がたつが、厚労省が24年に実施した初の全国意識調査では、約4割が偏見差別について「今もあると思う」と回答した。さらなる人権教育の重要性も浮き彫りとなった。
元患者の名誉回復のために、やるべきことはまだ多い。
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