再審開始までの審理の長期化の問題が改めて浮き彫りになった。事件を検証し再審制度の見直しに反映させなければならない。

 滋賀県日野町で1984年に起きた強盗殺人事件で無期懲役が確定、服役中に亡くなった阪原弘さんの遺族による再審請求を巡り、最高裁は再審を認める決定をした。検察側の特別抗告を退けた。
 死刑や無期懲役が確定した戦後の事件で、本人の死後に再審が認められたのは初めてだ。
 2018年に大津地裁が再審開始を認めてから約7年半。この間、検察側は2度の不服申し立てを行っており、長期化の要因となっていることは明らかだ。
 「日野町事件」と呼ばれるこの事件では、酒店を経営する女性が殺害され、手提げ金庫が奪われた。常連客だった阪原さんが「自白」したとして逮捕されたが、一転、裁判では「自白は強要」として無罪を訴えた。
 一審判決は自白は客観的状況との矛盾が多く信用できないとしたものの、遺体発見現場の実況見分の際に阪原さんが「ここですわ」と説明したとの捜査書類や、阪原さんのアリバイ主張を否定した知人の証言をよりどころに有罪とした。
 一、二審ともに無期懲役を言い渡され、2000年に最高裁で確定した。
 阪原さんが再審請求に挑んだのは翌年のことだ。
 だが、壁は高く手続き中の11年に病気で亡くなった。再審請求の審理で検察が証拠を開示する義務はない。
なぜ有罪となったのか被告側には知るすべがなく、再審の道を阻んでいる。
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 検察側が証拠開示に応じたのは、遺族による第2次再審請求審が始まってからだ。実況見分の様子を撮影した写真のネガには、捜査員が阪原さんを誘導するような場面が写っていた。
 裁判所に提示されていた写真は一部で、誘導するような写真は省かれていたのである。もはや捏造(ねつぞう)と言われても仕方がない。
 アリバイを裏付けるような新証言も出て地裁が再審開始を認めた経緯がある。
 それにもかかわらず検察が最高裁まで争い、再審開始までに7年半を要したのである。今後、地裁の再審公判で無罪となる公算が大きい。
 長期化の一因は裁判所にもある。遺族の再審請求から地裁の決定までに6年4カ月を要した。迅速な名誉回復に裁判所の運用改善も求められる。
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 再審制度の見直しを巡り、政府は証拠開示を「請求理由に関連する証拠」に絞り、検察による抗告も維持する内容で刑事訴訟法改正案を取りまとめる方針だ。

 だが、元死刑囚の袴田巌さんや福井市の女子中学生殺害事件で服役した前川彰司さんなど過去の冤罪(えんざい)事件の教訓が十分生かされているとは言い難い。
 ましてや阪原さんは亡くなってしまった。遺族も高齢になっている。
 冤罪救済には抗告を禁止して速やかに法廷に移る制度設計こそが求められる。
[社説]日野町事件 再審開始 重い教訓 改革に生かせの画像はこちら >>
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