自閉スペクトラム症(ASD)の長女との日常を描いた漫画エッセー「個性の塊!うちの子がゆく」を沖縄タイムス社から出版したSAKURAさんと、同書を監修した城間直秀医師(医療法人愛燦会発達神経クリニックプロップ理事長)。出版を記念した座談会では、SAKURAさんが夫とともに試行錯誤した子育ての歩みや具体的な実践、医療や福祉との関わり方などについて話していただきました。
(司会進行=出版コンテンツ部・城間有)

自閉スペクトラム症の子育てについて語るSAKURAさん(右、イラスト)と城間直秀医師=1月11日、沖縄タイムス社

「漫画」で伝えたかった思い
司会:本が出た感想をお聞かせください。
SAKURA: 出版の企画が通ったと聞いた時から、「ドッキリでした」と言われるのではないかと信じられない気持ちや、期限までに描ききれるかという不安と闘っていたので、本当にここまで来たんだ、できた、という安心感が大きいです。
城間直秀: SAKURAさんはこれまでにも本(『うちの子、個性の塊です』2016年、すばる舍)を出していますが、今回の本との違いは何ですか?
SAKURA:前回の書籍は、娘が赤ちゃんの時からのことをまとめたものでした。葛藤しながら前向きに過ごしてきた日々をリアルに描いたもので、困りごとに私が試行錯誤してきた日常を詳しく描いていました。でも文章がメインだったので、出版後に、ファンの方から「漫画を読みたかった」という感想をいただいて、次は漫画で出したいと思っていたんです。今回の本は絵をたくさん描けることがうれしかったので、モチベーションがだいぶ違いました。文章は苦手で書き直しが大変でしたが、絵は不思議と私、何度直してくれと言われても全然嫌じゃないんですよ。楽しかったです。
城間先生: 僕は長年発達の分野に関わっていますが、監修をしたのは今回が初めてで。コラムも担当させてもらい、「あ、自分の考え方はやっぱりこうなんだな」と、体系的に確認できてよかったと思いました。
SAKURA: 先生のコラムはとてもわかりやすかったです。ご自身が今までお医者さんとして実践されてきたことから、就学までの流れも解説してくださってうれしかったです。
私自身、誰も教えてくれず分からないまま、流れに乗せられて気づいたらここまで来ていた、という感じなので。
城間先生: 書いたかいがあります。漫画に乗せた教科書みたいになっていて、すごくいい本になっていると思います。

個性の塊!うちの子がゆく

司会: SAKURAさんが漫画を書き始めたきっかけは?
SAKURA: 娘が2歳を過ぎたころ、「発達が遅れてますよ」って言われて、「これから先、どうしたらいいんだろう…」って、落ち込んだんですけど、やってみたら療育も意外と楽しいこともいっぱいあるし、「結局考え方の違いだな」と思ったんです。娘に障害があるかもって言われた時に、落ち込んで不幸なまま過ごすのか、それともそれを楽しむのかって考えた時に、楽しく過ごしている人の本があれば、「あ、こんな人もいるんだ」って思えるんじゃないかなと思って。だから私は落ち込んだり、けんかしても、とにかく明るく捉えて描こうと思っています。もちろん、全部が全部明るく過ごせるわけじゃなくて、しんどい部分もあるんですけど、そこはリアルに描きつつ、漫画の終わりも実際のやりとりもなるべく暗くならないように意識しています。
 きっかけをつくってくれたのは夫ですね。私は子どものころから漫画を描くのが好きだったんですけど、周りにいっぱいうまい子がいて、こんなうまい人でも漫画家を目指してないのに、私なんかが、と思って諦めていた。でも絵は好きで、裏紙とかにたまにらくがきみたいに描いていたんです。それを夫が見て、「なんで絵うまいのに発信しないの?」と言われて。「創作漫画じゃなくて、娘のことを描いて絵日記にしてみたら?」と、私が返事をする前に、勝手にタブレットを買ってきたんです。

司会: 優しいですね!
SAKURA: 紙に描くのと違うので、最初はとっても下手だったと思うんですけど、夫が「上手だよ」ってものすごく褒めてくれました。「すごいよ、もっと書いたらいいよ」っていう夫の言葉で調子に乗って描いてきました。
城間: 漫画に描けなかったエピソードはありますか?
SAKURA: 描けなかったことはあまりないかもしれません。基本的には経験したことは全部書ける。
司会: へぇー! 人に言えない恥ずかしいこととか、ものすごく怒ってしまって表に出せないこととか…
SAKURA: あ、描けます、描けます! 私もかなり感情で怒ってますからね。思い返すと恥ずかしかったりするんですけど、それってみんなあることでしょう? 感情に任せて怒らないお母さんとかいなくないですか? だからむしろ出します。私、こんなんですよ!って。何でも漫画にしちゃうので、娘には下描きの時点で「これ結構激しいけど、描いても大丈夫?」って聞きますが、たいてい「全然平気」とか言われます。

自閉スペクトラム症の子育てについて語るSAKURAさん(右、イラスト)と城間直秀医師=1月11日、沖縄タイムス社

家庭での工夫
司会: 漫画には自閉スペクトラム症の特性を踏まえた対応の仕方がたくさん描いてあって参考になります。
SAKURA: 大人って、子どもが転ぶ前に助けようとして助言しがちですよね。でも子どもは「こんなことしたらこうなるよ、だからこうしなさいよ」って言っても、絶対に聞かないじゃないですか。自分で経験しないと分からないと思うから、よほど危険でない限りはさせます。
失敗したら、「どうしてこうなったと思う?」と、ちゃんと確認します。(定型発達の)息子たちの場合は自分で「俺がこうしたからこうなったんだね」と言ってくるので、「その通りです」って言うけど、娘は「これをしたからこうなった」っていうのが頭でつながらない。だから会話したり、あと書きます。例えばテストで悪い点を取った、と結果を紙の真ん中に描いて、「はい、これはなぜ起きたでしょうか」と考えさせると、「夜更かししてスマホ見てたから」とか「勉強しなかったから」などの原因を出してくるのでそれを周囲に書いて、これが起きないために次はどうするのかを書いていきます。
城間先生: あ、それいいです。本人の思考を手伝ってあげていますね。たいていは大人が「スマホの見過ぎでしょう、夜更かしし過ぎたからでしょう」って、理由をパッとひとこと言って終わる。これでは、本人に叱られた、だけ残って理由と結果がつながらない。言葉だけでは難しいと思います。
SAKURA: 昔は私も娘と何度もぶつかっていました。発達外来の主治医の先生から書くことを進められて、そこから段々とうまくいくようになってきました。今ではいつも付箋紙が近くにあって、娘が理解しにくいと感じたら、ピってすぐ書きます。
耳から聞いて、考えて、しゃべるって、私たちにとっては日常なんですけど、娘にとってはこの順序がめちゃくちゃ難しいんだなっていうことに気づきました。
幼少期の葛藤
SAKURA: 娘の1歳半健診の時、私1人で連れてったんですよね。もうひどかったです。走り回って止まらないし。赤ちゃんが寝ているのも関係なしで走り回って。私は娘の服を引っ張って、捕まえて止めたら、制止されたことで、癇癪(かんしゃく)を起こしてそこら中に転がって泣き叫んで…。私も泣いて夫に「もう嫌だ!」って電話しました。うちの子が普通だと思っていたので、よその子が座っておもちゃで遊んでるのが信じられなかった。
城間: 周りに声を掛けてくれる人はいなかったんですか?
SAKURA:この時に声を掛けてくれる人はいなかったんですけど、私の受け答えの時のダークさが伝わったんでしょうね。そのまま別室に通されて、カウンセラーが出てきて、「お母さん、大丈夫?」って私の方が心配されました。娘の発達に触れられたのは、2歳を超えて「母子相談」に行った時です。定期的に体重測定に行っていたんですけど、そこで初めて引っかかったんです。
娘は2歳を過ぎているのに「パパ」と「ママ」の2語ほどしか出ていなかった。私は相談員の方に「2語文出ませんね」とケロッとして話したら、「ちょっとお母さんいいですか? あの、予約取りますので」って言われカウンセリングを受けたら「コミュニケーション能力が実年齢に達していない」と。「お母さんの言うことを全然理解してないです」って言われて、衝撃を受けました。その時に初めて「そういえば、『椅子に座って』って言った時に椅子の周りを回って戻ってくるな」と思い出して、「あれはそういうことか」と思いました。それからはどんどん、「次ここ行ってください、次ここ行ってください、ここに電話してください」と、「療育ゾーン」を通ってきました。
城間先生: この本には、クリニックでもよく相談を受けるエピソードがつづられています。ただ、沖縄には、シングルマザーが多い、ワンオペが多い、貧困、虐待という課題もある。その場合に社会全体で養育者を支える重要さを、コラムに書きました。
司会: 本を手に取るところまでたどり着けずに悩んでいる方もいらっしゃるかもしれませんね。
城間先生: 本を読んでくれると、子育てに悩んでるお母さんたちの支えになるかなと思います。

「個性の塊!うちの子がゆく」に掲載の城間医師のコラム

医療にかかるタイミングと福祉の役割
SAKURA: 娘が通っていた幼稚園は、年次を超えて同じ先生が担任するのはあまりないことだったのですが、娘は変化が嫌いなので、園長先生にお願いして3年間同じ先生に担任してもらえました。娘は不安を感じると壁に向かって独り言を言っていたんです。
初めて見る人は「何?」って思うじゃないですか。でも先生は3歳の時からずっと見てくれているので、そのモードに入った時はそっとしておいてくれて助かりました。「次は園庭に行きますよー」という指示も、娘は聞き取れず、教室でずっとウロウロしていたら、それも先生が理解しているので「次、園庭だよ」と個別で声かけしてくれました。先生は娘をいつも「頑張ってますよ」とほめてくれて、救われました。私のこともほめてくれるんですよ。「お母さんもよく頑張ってるー」って。
 おむつの替え方から載ってるような、分厚い育児書を買って持っていたんですが、まあ、あの通りにはいかない。本では寝返りは早い子は3カ月って書いてあるけど、うちの子は7カ月。「この頃にはお母さんの言うことを理解して、『うー、あー』と声を出すようになります」みたいなことが書いてあるけれど出さない。「なんで、なんでうちの子はこの通りにならないの」と、本と闘っていました。離乳食の本も買ったんですけど、食べない。1人目がこの定型発達で、2人目とか3人目に障害があったら余計追い詰めていたかもしれません。その時は下の子が生まれていなかったので、娘にたくさんの時間を使えました。言語訓練も行ったし、毎日公園に連れてって、五感を刺激しようといろんなものを触らせて。すごい頑張りましたね。
 城間先生に質問ですが、お母さんたちって成長の過程で「うちの子ちょっと言葉が遅いかも」とか気づく方もいると思うんですけど、どこが医療にかかるタイミングなのかを知りたいです。
城間先生: 心配があったら、その時点で市町村の保健相談には行ったほうがいいと思います。保健相談や子育て相談、月に1回心理士が対応する市町村も多くなってきています。様子をみるにしてもまずは相談したほうが安心すると思うんですね。どのぐらいまで待つか、目安をちゃんと伝えてもらうというのが、望ましい。あとは保育園に入っていたら園と共有するのも大事です。「園の先生はうちここが心配なんですけど、園ではどう考えて……どう見えていますか?」とか。
SAKURA: でも園の先生ってそういうことを親に話す時、気を使いますよね。親が発育の遅れを気にしてないのに、こっちから指摘したらまずいかもと考えていると思うので、こう…ずばっとは言えないですよね。
城間先生: 保育士さんも大変ですよね。どうしても支援が必要なお子さんに対しては、主任レベルや園長などの役職の人から言うのが原則です。心を鬼にして、発達の困りごとは保護者へ伝えたほうが良いと思います。保育士の試験でも今では子どもの発達を学ぶことが必須になっています。保育士さんは最初に気づく人たちですからね。小学校の先生も知っててしかるべきことになっています。
発達障害と医療
司会: 医療にかかるタイミングについて、城間先生は本のコラムで「必ずしも医療にかかる必要はない」と書かれていますね。
城間先生: 診断自体が、「困っている」ことを基準にしているんですね。本人も親も学校も、誰も困っていないのに、気になる、というだけで診断するのは難しいんです。だから医療にかかるタイミングっていうのは、基本的には本人が困っていれば、本人でなくても家族に悩みがあったら、家族の相談という形で医療機関につながる必要はあると思います。本人も家族も困っていない、学校だけが困っているというときは、教育行政に巡回相談という事業があります。あとは福祉の力。放課後等デイサービスや、保育所等訪問という福祉サービスがあります。
司会: 福祉サービスを受けたいとか、投薬治療が必要だとか、障害者手帳や療育手帳を申請するときに医療にかかる、ということですね。
城間先生: はい。ただ最近、福祉サービスを希望する方が多くなってきて、医療を介さずに手帳を発行する手続きが徐々にできるようになってきています。ですが、2025年度から、児童デイの利用日数が一律14日に減りました。国が「適切に、その子によって支給するように」って通達を出したらどの市町村も14日にしたんです。日数を増やすためには診断書が必要となっているようです。14日は、少ないですよね

「個性の塊!うちの子がゆく」の内容

司会: 先生は放課後等デイサービスの役割が重要になっているということを本のコラムに書かれています。
城間先生: はい。今は体験を重視してくれるような集団が少なくなってきていますので。小さい頃は言葉の訓練とか、運動など、療育の要素が入っていて良いんですけど、小学生以上は余暇を広げる体験を放課後等デイサービスは担ってほしい。家族だけでは難しい体験もありますから。
卒業後の不安と余暇活動の重要性
SAKURA: 娘は来年度から高校生なので、「バイトがしたい」って言うんですけど、コミュニケーションが苦手な娘が、一般的な仕事をこなしていけるのか、不安があるんです。調べたら、就労移行支援※を必要としないけれど、不安を抱えている子向けの福祉サービスがないらしいんですよ。知的障害はないけど、コミュニケーションがどうしても苦手な子っているじゃないですか。いきなり社会に送るしかないらしくて。普通の労働者として受け入れられたら、理解されるかどうか不安です。雇い主が、そういうことに理解がある方かどうかもわからないじゃないですか。娘が苦手なことで、怒られたりすることは辛いですし…。そういう人向けの支援がほしい。
城間先生: 東京都では、二十歳まで使える居場所のサービスがあります。知的障害のある子が、支援学校を卒業したら、「働くか働かないか」しか選べないのはかわいそうだと思います。バイトするとか自分探しをするとかの選択肢がなく、就労だけなんですよ。興味があるんだったらいいですが、選択肢があまりに少ない。一般就労も難しい。B型事業所※とかに行っても、やりたい仕事があるわけではない。勉強と働くっていうことしか教えられないので、自分の興味を広げるとか趣味を広げるとか、余暇の広がりが少ないんですよ。また見ていない世界とか、見ていないものがたくさんあって。もしかしたらそれに響くかもしれないし、それは職業に結びつくかもしれない。例えばコーヒーが好きになって、コーヒー農園を開きたいって言うかもしれないし。だから余暇を広げる活動を本当に大事にしてほしいなと思います。
SAKURA: でも、子どもの得意と好きを探すのって難しいですよね?
城間先生: とりあえず小さい頃から何でも体験させて、広い世界を体験させてほしい。習い事もそう。どこで花が咲くか分からないので。親が提案したいものがあれば、子どもは親が楽しんでいるものを見て楽しむようになるので親も一緒に楽しんでやってみせるといいと思います。
SAKURA: 最近夫が「これどう、これどう」っていろんな習い事を提案しているんですが、ことごとく娘にはね返されるんですよね。先生の話を聞いたら、私が先にやっちゃおうかな、と思いました。親が先に楽しむのもありですね。
※就労移行支援 障害がある人が一般企業への就職を目指し、必要な知識やスキルを身につけるための福祉サービス。
※B型事業所 就労継続支援B型事業所。障害や難病により一般企業での雇用契約が困難な人が、雇用契約を結ばずに自分のペースで作業訓練を行い、成果に応じて工賃を得る福祉サービス。
「個性の塊!うちの子がゆく」はA5判、132ページ、1760円(税込み)。全国の書店、ネット書店、沖縄タイムスの本で販売中。
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