[県歯科医師会コラム・歯の長寿学](370)
 沖縄は長年、「長寿の島」として親しまれてきた。その背景には食文化や人とのつながり、日々の暮らしの中の知恵があった。
その土台を静かに支えてきたのが、「口のはたらき」である。歯を失うことは噛(か)む力だけでなく、話す力や表情をつくる力にも影響し、生活の質を大きく左右する。
 虫歯や歯周病は、もはや口の中だけの問題ではない。歯周病菌が血流を介して全身に影響し、動脈硬化や糖尿病、認知症などとの関連が指摘されている。口の状態は、全身の健康と密接につながっており、歯や歯茎、舌、唇といった口の環境全体を整えることが重要である。近年特に注目されているのが、噛む・飲み込む・話すといった口腔(こうくう)機能の低下だ。
 これは高齢者だけの問題ではない。小児期に噛む回数が少ない食生活や口呼吸の習慣が続くと、顎や口の発達が不十分となり、発音や姿勢、集中力に影響することがある。一方、高齢期に歯周病などをきっかけとして口の機能が衰えると、食事が偏りやすくなり、低栄養や筋力低下を招く。さらに会話の機会が減ることで外出や人との交流が少なくなり、暮らしの活力そのものが失われていく。口の機能は、成長期から高齢期まで、体と社会をつなぐ重要な役割を担っている。
 だからこそ、歯科医療は歯を「治す」だけでなく、口の機能を総合的に「守り、支える」役割を担っている。
定期的なケアや口腔機能への意識は誤嚥(ごえん)性肺炎の予防につながり、食べる楽しみや人と語り合う時間を支えてくれる。食べる、話す、表情を交わすことは、人が人らしく生きる基本である。
 口は、日々の暮らしと人生を支える大切な入り口だ。自分の口で食べ、語り、笑いながら過ごす。その積み重ねこそが、誰にとっても身近で現実的な「健康長寿」の姿ではないだろうか。口の機能を大切にすることは、これからの人生を丁寧に生きることにつながっている。(大城健、ゼン デンタル クリニック=糸満市)
虫歯・歯周病と認知症や糖尿病との深い関係 歯科医「口の中だけ...の画像はこちら >>
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