許し難き相手を前に、毅然(きぜん)と立ち向かう彼女は、ジャーナリスト・伊藤詩織。理不尽な性暴力、理不尽な司法制度に抗(あらが)うべく名前と顔をさらして自らの性被害を世界へ訴えた彼女は、時折現れる忌まわしい事件の記憶に取り込まれないよう、被害者・伊藤詩織とは別人の、ジャーナリストという人格で事件と向き合っていた。

 被害者のままでは立ち向かうどころか生きることさえままならない。けれど、しまい込んだはずの被害者・伊藤詩織の孤独な魂は、映画の中をずっと浮遊している。ひとりぼっちは寂しくて寒い。映画全体が冷え切っている。
 ある日、証言者の一人からかけられた強く温かい言葉に、彼女は激しく泣きじゃくった。優しさが、伊藤にも映画にも体温を与えていく。
 彼女の傷が、温かな優しさで少しずつ癒えていってほしい。そう願わずにはいられない。
(桜坂劇場・下地久美子)
◇桜坂劇場で上映中
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