今年ソロデビュー40周年を迎えるシンガー・ソングライターの岡村孝子。昨年末に東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催したクリスマスコンサートの模様を収めたBlu-ray『ENCORE X ~OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic~』が、5月14日にリリースされた。
■ステージの上で歌えたこと、今ここにいることを幸せに感じた『Christmas Picnic』
「Blu-rayのサンプル映像を見ていたら、昨年のクリスマス前後の心情がいろいろと思い出されました。ツアーへの思い、急性白血病を患って臍帯血(さいたいけつ)移植をしてから5年が経ったのだなという感慨深い気持ち……。正直なところ、入院・治療をしていたときは、5年後はこの世に自分が存在しないのではないかと思っていたんです。年末恒例の『Christmas Picnic』のステージで歌えたこと、そして今ここにいられるのは本当に幸せなことだと感じながら、コンサートの映像を振り返りました。一方で率直な感想としては、舞台上の自分があんなにゆったりと進行しているとは思いもしませんでしたね。ステージの上にいるときは、自分と観客が一緒にいる空間として捉えているので、瞬間を切り取られるとこんなに感覚が違うものなのかと驚きました」
岡村孝子の年末の風物詩ともいえる『Christmas Picnic』は、1988年にスタートした。途中、出産などにより何度か開催を見送り、さらに白血病闘病により2018年の公演をもって再び開催を見合わせていたが、2022年より復活。昨年のライブの模様を収めたBlu-rayには、クリスマスシーズンを彩る「天使たちの時」「クリスマスの夜」をはじめ、コンサートで披露した15曲に加え、公演に向けて書き下ろした新曲「未来の扉」のスペシャルバージョンがラインナップされている。
「『Christmas Picnic』というコンサートなので、私が書いたクリスマスの雰囲気を感じていただける歌を散りばめました。それから、やはり5年前からの闘病生活があって今の私がいると思っているので、闘病中から支えてくださったファンの方や医療従事者の方、そして娘など、皆さんへの感謝の気持ちを込めた『女神の微笑み』もメインの楽曲として据えています」
もともと『Christmas Picnic』を開催することになったのは、23歳で地元の愛知県から上京した彼女の、切ないクリスマスエピソードがきっかけだ。
「23歳でソロデビューし、上京して独り暮らしを始めた私は、その年のクリスマスに、誰かからお誘いの声がかかることを信じて、掃除をして部屋で待っていました。
『Christmas Picnic』も回を重ねるうちに、コンセプトが変化している。
「若いころは、ダンサーさんを入れたりしておもちゃ箱をひっくり返したような賑やかなコンサートを開催していました。でも最近は、ファンの方も私と同年代の方が多いですし、どこかに不調を抱えていたり、痛いところがあったりすると思うんです。私もそうでしたが、女性の方は少し前まで家事や子育てが忙しかっただろうと想像しています。そんな皆さんと、1年間いろいろあったけれど無事に年末を迎えられてよかったねと、目と目を合わせて生存確認をするようなコンサートになっていますね。1年の労をねぎらいつつ、皆さんが元気かどうかを確かめつつのクリスマスプレゼント、といった感じでしょうか(笑)」
昨年末の『Christmas Picnic』では、新曲「未来の扉」も初披露された。
「久しぶりの新曲を、CDで聴いていただくのではなく、コンサートで初めて披露しました。実はコンサートの1曲目の『リベルテ』からドキドキ、そわそわしていて、『早く“未来の扉”を聴いていただきたいな』という気持ちをずっと抑えながら歌っていたんです」
「未来の扉」を作ったきっかけは、アルバム収録曲の「金色の陽ざし」と闘病生活だった。
「30代のころ、作家の五木寛之さんと対談をした際、『君は(古代中国の五行思想にもとづいた四季の表現で“現役世代”を表す)“朱夏”の人だね』と言われたことがあったんです。
ところが、そこからまた時間が経ったら、本当ならば“白秋”の先へ行ってきれいな終着点を迎えなければいけないのかもしれないけれど、まだ迷ったり悩んだり転んだりしてみたいと思うようになったんです。闘病生活を経験して、時間が有限だということを感じたことも大きいと思いますが、今をもうちょっと賑やかに楽しみたいなと思って作った曲が『未来の扉』です」
彼女が作る曲は、散歩をしている際に鼻歌で浮かんできたメロディをもとに紡がれた歌も多いという。
「りりぃという名前のチワワを飼っていたときは、彼女と散歩しているときにふと思いついたメロディや、散歩中に見た風景が蘇ってきたときに思い浮かんだメロディを、数日熟成させてからコードを当てて作曲するというパターンが多かったですね。りりぃは今年の2月に亡くなってしまいましたが、ちょうど昨年末の『Christmas Picnic』の最中に彼女も闘病生活を送っていたんです。1時間おきにりりぃの様子を見に行っていたので、ちょっとしんどかったなと思っています。でも、もともと自分の作る音楽は絵日記のようなもの。きっと何年か後に、『ENCORE X ~OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic~』を見たり、『未来の扉』を聴いたりしたときには、去年のクリスマスのころの出来事が思い出されるのだろうなと感じています」
■「ひとりじゃない」と気づいて暗闇の向こうに見つけた明るい希望
岡村自身も、白血病とのつらい闘いを通してさまざまな思いが去来した。
「急性白血病と聞いたときは、これまで頑張ってきたし最悪の事態を迎えることになったとしても仕方ないのかなと思ったんです。でも、お医者様から治療方針などを一緒に聴いていた娘が、『自分のために頑張って闘病してほしい』と懇願してきて、それで闘病生活に臨むことになりました」
しかし、闘病生活は本当に過酷だったと振り返る。
「薬の副作用で髪の毛が抜けてムーンフェイスになって、音楽なんて聴きたくないという状態にもなりました。
昨夏、白血病治癒の目安といわれる5年が経過。今も2~3ヶ月に1度、定期健診を受けている。
「直近の定期検診はクリアしましたが、病によって体がいろいろと変化して、目がパチッと開かないことをはじめ、さまざまな症状に襲われています。それは病気が原因ではなく、単純に加齢のせいなのかもしれませんが、そういったことも含めて、私はずっとすべてありのままにお見せするというスタンスで時間を重ねてきました。病気も加齢も生きていく中での過程。全部見てもらっちゃえばいいかと、自分を納得させています」
そんな彼女は、今年10月にソロデビューから40周年を迎える。
「デビューしたとき、アルバムを3枚作ればプロとして合格、という暗黙の了解がありました。
“T’s GARDEN”が始まる直前の5月14日にBlu-ray『ENCORE X ~OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic~』がリリースされた。つらい闘病生活を経て、元気に歌っている彼女の近況報告にもなった同作を見れば、今を受け入れつつ頑張っていくことで楽しい未来の扉が開くと信じられるはずだ。
文・森中要子
■『ENCORE X OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic』
【収録内容】
01. リベルテ
02. クリスマスの夜
03. 天使たちの時
04. 満天の星
05. あの日の風景
06. 夢見る瞳
07. 大切な人
08. ミストラル ~季節風~
09. adieu
10. 女神の微笑み
11. 金色の陽ざし
12. Baby, Baby
13. 夢をあきらめないで
14. 未来の扉
15. 世界中メリークリスマス
Bonus Track
未来の扉 ~Special Version
■コンサート『OKAMURA TAKAKO CONCERT “ T’s GARDEN ” 』
5月17日(土)千葉・森のホール21
5月30日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月29日(日)兵庫・ポートピアホール
7月20日(日)広島・東広島芸術文化ホール くらら大ホール
2019年に大病を患ってから5年を経た、彼女の“今”を伝える作品だ。
■ステージの上で歌えたこと、今ここにいることを幸せに感じた『Christmas Picnic』
「Blu-rayのサンプル映像を見ていたら、昨年のクリスマス前後の心情がいろいろと思い出されました。ツアーへの思い、急性白血病を患って臍帯血(さいたいけつ)移植をしてから5年が経ったのだなという感慨深い気持ち……。正直なところ、入院・治療をしていたときは、5年後はこの世に自分が存在しないのではないかと思っていたんです。年末恒例の『Christmas Picnic』のステージで歌えたこと、そして今ここにいられるのは本当に幸せなことだと感じながら、コンサートの映像を振り返りました。一方で率直な感想としては、舞台上の自分があんなにゆったりと進行しているとは思いもしませんでしたね。ステージの上にいるときは、自分と観客が一緒にいる空間として捉えているので、瞬間を切り取られるとこんなに感覚が違うものなのかと驚きました」
岡村孝子の年末の風物詩ともいえる『Christmas Picnic』は、1988年にスタートした。途中、出産などにより何度か開催を見送り、さらに白血病闘病により2018年の公演をもって再び開催を見合わせていたが、2022年より復活。昨年のライブの模様を収めたBlu-rayには、クリスマスシーズンを彩る「天使たちの時」「クリスマスの夜」をはじめ、コンサートで披露した15曲に加え、公演に向けて書き下ろした新曲「未来の扉」のスペシャルバージョンがラインナップされている。
「『Christmas Picnic』というコンサートなので、私が書いたクリスマスの雰囲気を感じていただける歌を散りばめました。それから、やはり5年前からの闘病生活があって今の私がいると思っているので、闘病中から支えてくださったファンの方や医療従事者の方、そして娘など、皆さんへの感謝の気持ちを込めた『女神の微笑み』もメインの楽曲として据えています」
もともと『Christmas Picnic』を開催することになったのは、23歳で地元の愛知県から上京した彼女の、切ないクリスマスエピソードがきっかけだ。
「23歳でソロデビューし、上京して独り暮らしを始めた私は、その年のクリスマスに、誰かからお誘いの声がかかることを信じて、掃除をして部屋で待っていました。
ところが、待てど暮らせど誰からもお誘いがなかったんです。ひとりで過ごすクリスマスの寂しさに、恐怖さえ覚えました(笑)。二度とあんな思いはしたくないと痛感して、クリスマスはみんなで楽しく過ごしたいなと、年末にコンサートをするようになったんです。18回も皆さんと一緒にクリスマスを過ごしてこられたのは本当にうれしい限りですね」
『Christmas Picnic』も回を重ねるうちに、コンセプトが変化している。
「若いころは、ダンサーさんを入れたりしておもちゃ箱をひっくり返したような賑やかなコンサートを開催していました。でも最近は、ファンの方も私と同年代の方が多いですし、どこかに不調を抱えていたり、痛いところがあったりすると思うんです。私もそうでしたが、女性の方は少し前まで家事や子育てが忙しかっただろうと想像しています。そんな皆さんと、1年間いろいろあったけれど無事に年末を迎えられてよかったねと、目と目を合わせて生存確認をするようなコンサートになっていますね。1年の労をねぎらいつつ、皆さんが元気かどうかを確かめつつのクリスマスプレゼント、といった感じでしょうか(笑)」
昨年末の『Christmas Picnic』では、新曲「未来の扉」も初披露された。
「久しぶりの新曲を、CDで聴いていただくのではなく、コンサートで初めて披露しました。実はコンサートの1曲目の『リベルテ』からドキドキ、そわそわしていて、『早く“未来の扉”を聴いていただきたいな』という気持ちをずっと抑えながら歌っていたんです」
「未来の扉」を作ったきっかけは、アルバム収録曲の「金色の陽ざし」と闘病生活だった。
「30代のころ、作家の五木寛之さんと対談をした際、『君は(古代中国の五行思想にもとづいた四季の表現で“現役世代”を表す)“朱夏”の人だね』と言われたことがあったんです。
それから年月が経って作った『金色の陽ざし』(2019年にリリースされたアルバム『fierte』の1曲目)は、なんとなく“朱夏”の次の時期に当たる“白秋”を意識して書いたんですよね。それまではファンの方とワイワイしながら前を見つめて一生懸命山登りをしていたのだけれど、ここでほっと一息ついて、これからは皆さんと楽しんでお話をしながら景色を眺めて折り返していくのだな、という気持ちを歌った曲です。
ところが、そこからまた時間が経ったら、本当ならば“白秋”の先へ行ってきれいな終着点を迎えなければいけないのかもしれないけれど、まだ迷ったり悩んだり転んだりしてみたいと思うようになったんです。闘病生活を経験して、時間が有限だということを感じたことも大きいと思いますが、今をもうちょっと賑やかに楽しみたいなと思って作った曲が『未来の扉』です」
彼女が作る曲は、散歩をしている際に鼻歌で浮かんできたメロディをもとに紡がれた歌も多いという。
「りりぃという名前のチワワを飼っていたときは、彼女と散歩しているときにふと思いついたメロディや、散歩中に見た風景が蘇ってきたときに思い浮かんだメロディを、数日熟成させてからコードを当てて作曲するというパターンが多かったですね。りりぃは今年の2月に亡くなってしまいましたが、ちょうど昨年末の『Christmas Picnic』の最中に彼女も闘病生活を送っていたんです。1時間おきにりりぃの様子を見に行っていたので、ちょっとしんどかったなと思っています。でも、もともと自分の作る音楽は絵日記のようなもの。きっと何年か後に、『ENCORE X ~OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic~』を見たり、『未来の扉』を聴いたりしたときには、去年のクリスマスのころの出来事が思い出されるのだろうなと感じています」
■「ひとりじゃない」と気づいて暗闇の向こうに見つけた明るい希望
岡村自身も、白血病とのつらい闘いを通してさまざまな思いが去来した。
「急性白血病と聞いたときは、これまで頑張ってきたし最悪の事態を迎えることになったとしても仕方ないのかなと思ったんです。でも、お医者様から治療方針などを一緒に聴いていた娘が、『自分のために頑張って闘病してほしい』と懇願してきて、それで闘病生活に臨むことになりました」
しかし、闘病生活は本当に過酷だったと振り返る。
「薬の副作用で髪の毛が抜けてムーンフェイスになって、音楽なんて聴きたくないという状態にもなりました。
そんなとき、娘が『退院したらコンサートをするのだからセットリストを考えたら』と言って、ポータブルのオーディオプレーヤーを差し入れてくれたんです。それとほぼ同じ時期に、BS-TBSで私が出演したときの『LIVE ON! うた好き☆ショータイム』という番組が再放送されました。そのOAをたまたま病室で見ていたら、本放送にはなかった『岡村孝子さん、闘病頑張ってください』というテロップが入っていて、涙があふれてしまって……。闘病は孤独でしたし、誰にも思い出されずに消えていくのだなと思っていたときだったんです。でも、その番組を見て、千羽鶴やお守りの写真が何枚も私のスマートフォンに届いていることも思い出して、見守ってくださる方、頑張ってと応援してくださる方もいるんだと感じました。『ひとりじゃない』と、その時に気づいて、暗闇の向こうに白い明かりが見えて、そこに向かって歩いていくイメージで闘病生活を乗り越えられたんです」
昨夏、白血病治癒の目安といわれる5年が経過。今も2~3ヶ月に1度、定期健診を受けている。
「直近の定期検診はクリアしましたが、病によって体がいろいろと変化して、目がパチッと開かないことをはじめ、さまざまな症状に襲われています。それは病気が原因ではなく、単純に加齢のせいなのかもしれませんが、そういったことも含めて、私はずっとすべてありのままにお見せするというスタンスで時間を重ねてきました。病気も加齢も生きていく中での過程。全部見てもらっちゃえばいいかと、自分を納得させています」
そんな彼女は、今年10月にソロデビューから40周年を迎える。
「デビューしたとき、アルバムを3枚作ればプロとして合格、という暗黙の了解がありました。
音楽の道は険しいですから、1年に1枚作って3年後も音楽の世界にいられたらいいなと思った記憶があります。そんなデビューから気づけば今年で40周年を迎えることができます。5月からはコンサートツアー『OKAMURA TAKAKO CONCERT “T’s GARDEN”』が始まります。松戸を皮切りに、相模原、神戸、東広島と、新曲の『未来の扉』を披露できるのが楽しみですね。“T’s GARDEN”は、『皆さんのご自宅の近くで岡村孝子がコンサートをするので普段着で遊びに来てください』というコンセプトで開催するカジュアルなコンサートです。皆さんと近い距離でお会いできるので、歌はもちろん、私も皆さんとお会いできることを楽しみにしています」
“T’s GARDEN”が始まる直前の5月14日にBlu-ray『ENCORE X ~OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic~』がリリースされた。つらい闘病生活を経て、元気に歌っている彼女の近況報告にもなった同作を見れば、今を受け入れつつ頑張っていくことで楽しい未来の扉が開くと信じられるはずだ。
文・森中要子
■『ENCORE X OKAMURA TAKAKO Special Live 2024 Christmas Picnic』
【収録内容】
01. リベルテ
02. クリスマスの夜
03. 天使たちの時
04. 満天の星
05. あの日の風景
06. 夢見る瞳
07. 大切な人
08. ミストラル ~季節風~
09. adieu
10. 女神の微笑み
11. 金色の陽ざし
12. Baby, Baby
13. 夢をあきらめないで
14. 未来の扉
15. 世界中メリークリスマス
Bonus Track
未来の扉 ~Special Version
■コンサート『OKAMURA TAKAKO CONCERT “ T’s GARDEN ” 』
5月17日(土)千葉・森のホール21
5月30日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月29日(日)兵庫・ポートピアホール
7月20日(日)広島・東広島芸術文化ホール くらら大ホール
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