「グリコ・森永事件」は1984年から1985年にかけて発生した未解決の企業脅迫事件。犯人は「かい人21面相」を名乗り、江崎グリコ、森永製菓、丸大食品などの大手食品メーカーを標的に、経営者の誘拐や製品への毒物混入を予告した。独特の文体の脅迫状、子供と思われる金銭取引に関するテープ音声、毒入菓子を棚に置く野球帽の男の映像、「キツネ目の男」と呼ばれる事件に関わるとされる不審者の似顔絵公開ほか印象的な事柄も多く、警察やマスメディアを巧みに挑発する手口から評論家が名付けた「劇場型犯罪」としても注目された。
警察庁広域重要指定114号事件に指定されるが2000年にすべての事件の公訴時効が成立となり、警察庁広域重要指定事件としては初めて犯人検挙に至らない「完全犯罪」の「未解決事件」となっている。事件の衝撃度は大きく、真相を追求する関連書籍や映像作品、創作物なども多数生まれている。
今回の舞台はこれを題材にした、劇作家・野木萌葱が書き下ろしたオリジナル作品。初演は2006年、同氏主宰の劇団「パラドックス定数」版。その後2017年に和田憲明氏演出によるウォーキング・スタッフプロデュース版にて第25回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞し、多くの注目を集め た作品になっている。
■あらすじ
「どくいり きけん たべたら 死ぬで」。
とある建物の一室。人を喰ったような凶悪かつふざけた文面が、一文字ずつタイプされていく。部屋に出入りしているのは4人の訳ありな男たち。
「けいさつの あほども え」。大胆かつ緻密に遂行される幾つもの犯罪はことごとく捜査の網をすり抜け、ワイドショーから株価まで、日本中を振り回し脅かすほどの大事件となっている。しかし外界の騒動とは裏腹に、この部屋にあるのはどうしようもない閉塞感と、膨大な言葉の応酬と、各々が抱える葛藤の積み重ねだ。動機は? 目的は? 彼ら4人の関係は。移りゆく季節の中、この犯罪シナリオのエンドマークは何処に?