原作・村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)を、岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市らの出演で映画化した井上剛監督の最新作『アフター・ザ・クエイク』が16日、アジア最大級の映画祭である「第27回上海国際映画祭」(6月13日~22日)に新設されたAsia Now部門でワールドプレミア上映された。

 世界中で翻訳される村上作品は、中国圏でも高い人気を誇る。
独特な文体と世界観、ユーモアが若者世代に支持され、今もなお新作が発表されるたびに“村上ブーム”が巻き起こる。そんな村上作品の実写映画化となり、300席の会場のチケットは完売。現地での注目度の高さがうかがえた。

 本作の原作は、村上が阪神・淡路大震災後に著した短編集。今年3月にNHKで放送されたドラマ『地震のあとで』(全4話)とは趣の異なる、ひとつづきの作品。

 上映中には、佐藤演じる片桐とかえるくんのユーモラスな掛け合いに会場から笑いも起き、上映後のQ&Aでは、主演の渡辺、井上監督、脚本の大江崇允、プロデューサーの山本晃久が登壇。渡辺は『アフター・ザ・クエイク』のTシャツ姿で登場し、中国語で観客にあいさつも。村上春樹ファンや井上作品の愛好者など若い観客から次々と質問が寄せられた。

 「春樹さんは言葉の力でより良い世界を創ろうとしたが、現実には美しくない面もある。理想とのずれをどう考えるか」という問いに対し、井上監督は「美しい世界とそうでない世界、両方があるのが“世界”。日本は30年かけてそのことに気づいてきた。今こそその記憶を振り返りたかった」と答え、「面白かったですか? メッセージ、伝わりましたか?」との問いには、客席から「伝わりました!」と大きな声が上がった。


 脚本の大江は「目に見えない想像力が人生を左右する。良い想像力を持って多くの人に作品を届けたい」と熱く語った。

 “神のこども”として育てられた宗教二世の青年・善也を演じた渡辺は「満員の会場に温かく迎え入れられ、日本映画への期待を肌で感じられた」と語り、「この映画の大事なテーマは“共感”。天災や大事件で不安定な状況にある今こそ、共感力が大切だと伝えたい。日本特有の題材であっても海外の方々にしっかり伝わったことがうれしい」と感想を述べた。

 25年前の原作ながら現代性を帯びた本作に、上映後のSNSでは「ラストに心を打たれた」「新たな価値観を考えるきっかけをくれた監督に感謝!」「どん底から抜け出せたかどうかに関わらず、明日は必ずやってくるのだと勇気をもらった」などの感想が相次ぎ、映画祭ならではの熱気に包まれたワールドプレミアとなった。

 映画『アフター・ザ・クエイク』は、10月3日より都内のテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国で公開される。
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