■出演者と観客と一体となれる空間だから、愛される番組が作れると実感
石橋アナウンサーが『うたコン』の司会に就任すると発表されたのは、今年2月12日のこと。
「『うたコン』の司会が決まったときは、本当にうれしかったですね。これまでは報道番組に関わることが多かったのですが、もともと私の趣味はミュージカル作品を鑑賞することで、ステージ上で繰り広げられるエンターテインメントに大きな憧れを持っていました。ですから、いつの日かステージで展開される音楽番組に携わりたいなと、ひそかに思い描いていたんです。音楽番組の司会に決まって、なんて幸せ者なのだろうと感じたのですが、その一方で、自分が『うたコン』の司会を担うことになるなんて信じられない! という気持ちも強かったですね。まさに望外の喜びとはこういうことかと実感しています」
『うたコン』は、「生放送」「生演奏」のコンセプトを貫き、演歌・歌謡曲からポップス、洋楽、ミュージカル音楽まで、多彩なジャンルの音楽を届けている伝統ある音楽番組だ。
「昨今の音楽番組は、一般的に最新のヒットチャートをにぎわせている楽曲を集めた番組や、視聴ターゲットが絞られたプログラムが多いように感じています。その点、『うたコン』は出演してくださるアーティストの方の年代も幅広く、ご披露いただく楽曲も昭和歌謡から令和の最新曲まで網羅されていて、さまざまな世代の視聴者の方にお楽しみいただける音楽番組なのかなと、一視聴者として思っていました。実は司会として『うたコン』を担当する直前の3月に、公開生放送の様子を客席から見学させてもらったんです。そのとき、生演奏・生歌唱の大迫力に感激して涙が出そうになりました。このライブ感は『うたコン』ならではのもので、なんて素敵な番組なのだろうと、改めて実感しました」
石橋アナウンサーが初めて『うたコン』の司会を務めたのは4月1日。「はじまりの季節に贈る歌」と題して放送された。
「当日はバタバタしすぎて、とにかく進行することで精一杯だった印象があります。そんななかで、放送中に『よろしくお願いします!』と挨拶をした私に、ゲストの皆さんが拍手をしてくださって、その拍手が私を歓迎してくださっているように感じて、とてもうれしかったなという記憶は今でも鮮明に覚えていますね」
『うたコン』を担当するにあたり、前任の赤木野々花アナウンサーからは最重要タスクを引き継いだ。
「赤木アナウンサーには、放送時間内に番組を収めることの大変さについて、しっかり教えてもらいました。視聴者として『うたコン』を見ていたときは、赤木アナウンサーがスマートに進行していたので気づきませんでしたが、時間の管理は想像以上にシビアでしたね。舞台裏では1秒2秒を争う中で進行していたのか! と衝撃を受けました。ゲストの方たちの歌が入りきらなかったら大惨事です! きっちりとした時間の管理はステージ番組ならではですし、アナウンサーが非常に重要な仕事を任されているのだなと痛感しています。歌と歌の間にゲストの方とお話する時間にトークが盛りあがると、観客の皆様も喜んでくださって、私自身もうれしいですし楽しいのですが、頭の片隅ではいつも時間の管理について考えている状態です」
さらに、音声表現のバリエーションも模索している。
「スタッフの方々からは『こんなMCスタイルで進行してほしい』といった注文は特に受けていません。温かく見守ってくださっているのですが、それはきっと『石橋亜紗なりの形でまずはどうぞ』ということなのかなと解釈しています。ただ、放送回をひとつこなすたびにスタッフとの反省会のようなものがあって、以前『曲振りひとつで番組の空気感が変わるから、“お聴きください”というひと言だったとしても、そこからどのように曲に持っていくかが大事だ』といった課題をいただきました。その指摘を受けて、アナウンサーとして音声表現はしっかりこだわってやっていかなければならないと改めて感じましたし、それも私の大きな仕事だなと考えるようになりましたね。どこまで成功しているかはわかりませんが、アーティストの方たちのリハーサルを拝見して、イントロから歌の出だしの雰囲気やたたずまいなどを直接感じて、『この曲はかっこいい感じで曲振りをしようかな』とか『高めのトーンで入ったほうが盛り上がるかな』とか、そんな計算をしながら言葉を紡いでいるつもりです」
石橋アナウンサーが『うたコン』の司会を担当して約2ヶ月。
「“生演奏”による音楽はこれほどまでに胸を打つのかとつくづく思います。ステージの上からお見受けする観客の皆さんのお顔も印象的ですね。時折歌手の方と一緒に口ずさんでいる方や涙ぐんでいる方がいらっしゃって。ステージに立っている出演者だけではなく、観客の皆さんと一体となれる空間だから、長年皆さんに愛され続ける番組を作ることができるのだなと思っています。観客の方たちのリアクションをリアルタイムで感じられることが私のやりがいにもつながっていますし、皆さんの反応によって私の言葉も良い方向に変わっていくという相乗効果も大いに感じています!」
■『うたコン』の大黒柱である谷原章介に頼りつつ、番組を盛りあげていきたい
4月にMCに就任して以来、石橋アナウンサーの1週間は『うたコン』を中心に回りはじめた。
「次週に放送する楽曲のラインナップがわかったら時間を見つけてその曲を聴くようにしたり、アーティストさんの情報を調べたり、ほかの音楽番組に出演されていたら拝見したりもします。火曜日の本番に向けて、自分の気持ちを盛りあげていくような感覚はありますね。本番当日は、特に決まったルーティンはありません。なにかこだわりがあったりすると、それができずに本番を迎えることになったらむしろ焦ってしまうかもしれないので、自然体がベストなのではないかと思っています」
彼女が自然体でいられるのは、やはり“歌のコンシェルジュ”として「うたコン」を支える谷原章介の存在が大きい。
「谷原さんは、皆さんのご想像通りの方で、正真正銘のジェントルマンでいらっしゃいます。たとえば、舞台袖にアーティストの方が退場されるときに足が当たらないようにテーブルをすっと下げてくださるなど、ゲストの方々への細やかな心配りを忘れませんし、私に対しても台本を読んで打ち合わせをしているときに『この言葉、言いづらくない?』などと気にかけてくださるんです。
毎週火曜の夜を、アーティストの熱唱で彩ってきた『うたコン』。今後も注目のゲストが登場する予定だ。
「とにかく素敵な生演奏のステージを、観客の皆さんと視聴者の方に楽しんでいただきたいですし、アーティストの方にも気持ちよくパフォーマンスを披露していただきたいと考えています。豪華なゲストの方たちのお力を借りて、10年目を迎えた『うたコン』をさらに盛りあげていけるよう尽力したいと思います。私も谷原さんと一緒に、ゲストの皆さんのパフォーマンスを全力で楽しみたいですね」
NHK歌番組の伝統を大切にしつつ、現代の風も取り入れて放送する『うたコン』。ベテラン船長の谷原章介が舵を取る大船に乗りこんだ石橋アナウンサーは快調に船出した。この先も、火曜の夜を彩る素敵な歌の旅が楽しみだ。
取材・文:森中要子
■石橋亜紗アナウンサー プロフィール
所属局:東京・アナウンス室
出身地(生育地):東京都 主に東京
入局年度:2014年度
趣味、特技:ミュージカル鑑賞(学生時代はミュージカル部)、歌、ダンス
心身リフレッシュ術:アイドルソングやミュージカルソングで歌い踊ること
<番組情報>
『うたコン』
NHK総合 毎週火曜 19:57~20:42
【司会】谷原章介 石橋亜紗