デビュー45周年、そして70歳を迎えたシンガーソングライター・竹内まりやが、全国ツアー『souvenir2025 mariya takeuchi live』を開催した。6月4日、その終盤となる神奈川・横浜アリーナ公演が行われた。
今回のツアーでは、夫の山下達郎がバンマスを務め、熟練のバンドメンバーたちがバックを固めた。曲ごとのグルーヴ、音の奥行き、絶妙な間合い――すべてが“生”で紡がれる職人芸。竹内が長年育んできた極上のポップスの数々が、その場限りの呼吸と温度をまとい、より豊かに、より鮮やかに立ち上がってくる。すべての音が、この場所で鳴らされているという生演奏の魅力に満ちていた。
■山下達郎バンドの鉄壁の演奏 横浜アリーナへの想い
冒頭は「アンフィシアターの夜」。竹内がストライプの衣装で登場し、タイトなドラムのリズム、そして山下のロックなギターフレーズで幕を開けた。ギター・鳥山雄司がソロに入る瞬間に竹内が「HEY!」と力強く煽る場面もあり、“ロック”な竹内に早くもクギ付けになる。ベースの伊藤広規もブリブリと唸るプレイで演奏を引っ張り、最後はキーボードの難波弘之のローリングするピアノで熱気をまとって終了した。
続く「家に帰ろう」では、竹内はスーツ系の衣装に早着替えし、テレキャスターを抱えた姿はブリティッシュ系ミュージシャンさながら。3曲目の「マージービートで唄わせて」では、英リヴァプールの映像を背に、まさにブリティッシュな世界観が演出された。
最初のMCでは、「この日がくるのを心待ちにしていました!」と、11年ぶりのツアー開催を改めて喜び、「一緒に素敵な時間を過ごしましょう」と笑顔で呼びかけた。観客の年齢層をスタッフに聞いたところ、60代が43%、50代が26%だったとのことで「ほぼ70%ですね!」と驚きをみせ、少数だったという10代、20代にも「センスいい!」との言葉を贈り盛り上げた。
横浜アリーナは竹内にとって思い出深い場所でもあるという。1997年に“達郎”とKinKi Kidsの公演を観に訪れ、山下が作曲した「硝子の少年」を観客が大合唱する光景に鳥肌が立ったと語った。1991年にはジョージ・ハリスンがエリック・クラプトンのバンドを引き連れて開催した来日公演を同地で鑑賞し、本人と直接話を交わし、ビートルズが音楽を志したきっかけだと伝えることができたというエピソードも明かされた。
■ドゥーワップのスペシャルパフォーマンス 輝き放つ歌声
「Forever Friends」では山下がキーボードを演奏し、竹内はステージを歩きながら優しく歌いかける。そのまま新作『Precious Days』収録曲「歌を贈ろう」へ。包容力あふれる山下のアコースティックギターの演奏とともに、大人のグルーヴが空間を包み込む。デビュー当時の楽曲が並ぶセクションで披露された「五線紙」では、鳥山のジャズギターにあわせてムーディーな雰囲気たっぷりに歌い上げた。
ここで雰囲気が一変。続く「リンダ」はアカペラによるドゥーワップスタイルで披露された。3人のコーラス隊(ハルナ、ENA、三谷泰弘)とともに、山下もベースパートで参加するスペシャルな演出となり、竹内の歌声の魅力が引き立った。
そして、夜景の映像とともに始まった「ブルー・ホライズン」では、サックスの宮里陽太のブロウが炸裂。山下が惚れ込んでバンドに誘ったという若き名手は、都会的でエモーショナルなソロで観客を魅了した。ソロ回しでは、難波も雰囲気たっぷりのジャズフレーズを聴かせ、多彩なプレイを見せてきた柴田俊文(オルガン、シンセサイザー)はファンキーなフレージングで楽しませた。伊藤のソロはなかったものの、時折聞かせるやんちゃなアドリブを効かせたベースプレイがこのバンドのノリを生み出していることは明らかで、ドラムの小笠原拓海は安定感たっぷりの洗練された演奏で全体を支えていた。
衣装チェンジを経て、爽やかに届けられた「象牙海岸」。そして「元気を出して」のイントロでは、山下と鳥山がアコースティックギターのかけあいを見せる。歌が始まると、空気は一変。一瞬で「竹内まりやの曲」になってしまう魔法のような瞬間だった。
「元気を出して」の前のMCでは、「セットリストはやりたい曲ばかりで、達郎に相談したら“この曲は再現が難しいからやめとこう”と却下されたりもしました」と裏話を明かした。
■竹内まりやのブルースハープ そして名曲「プラスティック・ラヴ」へ
続く「告白」は、マツコ・デラックスがこの曲が好きだと言っていたという理由から、ライブで初めてフルサイズでの披露となり、浅田真央のソチ五輪での演技にインスパイアされたという「静かな伝説」では、竹内がブルースハープを演奏。ビブラートも入れたブルースマンさながらの“吹きっぷり”で、マイクに向かう姿は非常にクールだ。後半は山下のコーラスも加わって会場が一体となる歌唱が生まれ、感動的な瞬間となった。
白いワイシャツにチェンジし、始まったのは「カムフラージュ」。おそらくこの曲のみ、一部コーラスに同期音源が使用されていたが、同曲以外はおそらくすべて生演奏で貫かれていた。だからこそ、この一曲の特別さも際立った。
MCでは、同曲が主題歌に起用されたドラマ『眠れる森』の打ち上げで、中山美穂さんと木村拓哉とこの曲を歌った思い出を語り、「若い人が先に旅立ってしまうのは寂しい。でも亡くなった人のぶんまで、私はがんばって歌います」と今は亡き中山さんへの想いを述べた。
また、バンドメンバーの紹介では、バンドメンバーひとりひとりを丁寧に紹介し、バンドメンバーの活動や、難波の娘の音楽活動までもしっかりと宣伝する姿が印象に残った。最後にバンマスとして紹介された山下は「人のライブではありますけど、50年間現役、みなさまのおかげです」と一言。竹内は「私のライブにはもれなく山下達郎がついてきます。
「このバンドで歌えるのは、幸せなシンガーです」という言葉のあとに始まった「幸せのものさし」では、ファンキーなリズムと竹内の軽やかなステップ、山下のコーラスが響き、大きな拍手が起きた。そして、ロックンロールな「J-BOY」に続き、「プラスティック・ラヴ」へ。圧倒的な演奏で会場の熱量が一気に上がり、山下も後半でボーカルを担当した。終盤は山下がメイン、竹内がコーラスといった立場がスイッチする構成となり、客席からは大歓声が巻き起こる。“シティポップブーム”で再評価されている同曲だが、単なるブームという枠に収めることはできない圧倒的な楽曲クオリティとパフォーマンス。若い世代にもこの最高の演奏を生で感じてもらいたいと願ってしまう瞬間だった。
■「またいつかお会いしましょう!」の言葉を残して
そして「人生の扉」へ。歌う前には、竹内があらためて70歳を迎えた心境を語った。「20代でデビューした頃、70歳の自分がこのステージに立ってるなんて思いませんでした。でもこうして続けてこられたのは、みなさんのおかげです」と語り、「人生というのはタイムリミットがあるからこそ、美しく見えるんだと思います」と締めくくった。
続く「駅」はシンプルな照明で披露され、本編は終了。
アンコールは微笑ましい夫婦デュエット「All I Have To Do Is Dream」でスタートし、会場総立ちの「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」と続き、ラストは竹内のみがステージに残って「いのちの歌」を真っ直ぐに歌唱。すべてを包み込むように締めくくられた。
最後までファンひとりひとりに語りかけるように、22曲を完璧に歌い上げた竹内は、「またいつかお会いしましょう!」とあいさつをし、ステージをあとにした。素晴らしすぎたライブの充実感とともに、またしばらくはライブが観られないのかもしれないという寂しさも込み上げてくるラストとなった。
■セットリスト
M01. アンフィシアターの夜
M02. 家に帰ろう ~マイ・スイート・ホーム~
M03. マージービートで唄わせて
M04. Forever Friends
M05. 歌を贈ろう
M06. 五線紙
M07. リンダ(アカペラ)
M08. ブルー・ホライズン
M09. 象牙海岸
M10. 元気を出して
M11. 告白
M12. 静かな伝説
M13. カムフラージュ
M14. 幸せのものさし
M15. J-BOY
M16. プラスティック・ラヴ
M17. 人生の扉
M18. 駅
M19. All I Have To Do Is Dream
M20. SEPTEMBER
M21. 不思議なピーチパイ
M22. いのちの歌
本人にとって横浜アリーナでの単独公演は初。「ライブを観に来ていた場所に、まさか自分が立つなんて」と感慨を込めたその舞台で全22曲のステージが繰り広げられた。
今回のツアーでは、夫の山下達郎がバンマスを務め、熟練のバンドメンバーたちがバックを固めた。曲ごとのグルーヴ、音の奥行き、絶妙な間合い――すべてが“生”で紡がれる職人芸。竹内が長年育んできた極上のポップスの数々が、その場限りの呼吸と温度をまとい、より豊かに、より鮮やかに立ち上がってくる。すべての音が、この場所で鳴らされているという生演奏の魅力に満ちていた。
■山下達郎バンドの鉄壁の演奏 横浜アリーナへの想い
冒頭は「アンフィシアターの夜」。竹内がストライプの衣装で登場し、タイトなドラムのリズム、そして山下のロックなギターフレーズで幕を開けた。ギター・鳥山雄司がソロに入る瞬間に竹内が「HEY!」と力強く煽る場面もあり、“ロック”な竹内に早くもクギ付けになる。ベースの伊藤広規もブリブリと唸るプレイで演奏を引っ張り、最後はキーボードの難波弘之のローリングするピアノで熱気をまとって終了した。
続く「家に帰ろう」では、竹内はスーツ系の衣装に早着替えし、テレキャスターを抱えた姿はブリティッシュ系ミュージシャンさながら。3曲目の「マージービートで唄わせて」では、英リヴァプールの映像を背に、まさにブリティッシュな世界観が演出された。
最初のMCでは、「この日がくるのを心待ちにしていました!」と、11年ぶりのツアー開催を改めて喜び、「一緒に素敵な時間を過ごしましょう」と笑顔で呼びかけた。観客の年齢層をスタッフに聞いたところ、60代が43%、50代が26%だったとのことで「ほぼ70%ですね!」と驚きをみせ、少数だったという10代、20代にも「センスいい!」との言葉を贈り盛り上げた。
横浜アリーナは竹内にとって思い出深い場所でもあるという。1997年に“達郎”とKinKi Kidsの公演を観に訪れ、山下が作曲した「硝子の少年」を観客が大合唱する光景に鳥肌が立ったと語った。1991年にはジョージ・ハリスンがエリック・クラプトンのバンドを引き連れて開催した来日公演を同地で鑑賞し、本人と直接話を交わし、ビートルズが音楽を志したきっかけだと伝えることができたというエピソードも明かされた。
■ドゥーワップのスペシャルパフォーマンス 輝き放つ歌声
「Forever Friends」では山下がキーボードを演奏し、竹内はステージを歩きながら優しく歌いかける。そのまま新作『Precious Days』収録曲「歌を贈ろう」へ。包容力あふれる山下のアコースティックギターの演奏とともに、大人のグルーヴが空間を包み込む。デビュー当時の楽曲が並ぶセクションで披露された「五線紙」では、鳥山のジャズギターにあわせてムーディーな雰囲気たっぷりに歌い上げた。
ここで雰囲気が一変。続く「リンダ」はアカペラによるドゥーワップスタイルで披露された。3人のコーラス隊(ハルナ、ENA、三谷泰弘)とともに、山下もベースパートで参加するスペシャルな演出となり、竹内の歌声の魅力が引き立った。
このシーンで特に感じられたが、竹内のボーカルの真骨頂は、言葉の一音一音にしなやかな情感を宿しながら、それでいて力まず自然体で届けられることにあると思う。低音域までカバーする音域の広さや発音の明瞭さはもちろん、語りかけるように届けられる“フレンドリー”な歌声が、深いぬくもりを感じさせる。年齢を重ねた今だからこそ生まれるさらなる深みが、竹内の歌をより味わい深いものにしていた。
そして、夜景の映像とともに始まった「ブルー・ホライズン」では、サックスの宮里陽太のブロウが炸裂。山下が惚れ込んでバンドに誘ったという若き名手は、都会的でエモーショナルなソロで観客を魅了した。ソロ回しでは、難波も雰囲気たっぷりのジャズフレーズを聴かせ、多彩なプレイを見せてきた柴田俊文(オルガン、シンセサイザー)はファンキーなフレージングで楽しませた。伊藤のソロはなかったものの、時折聞かせるやんちゃなアドリブを効かせたベースプレイがこのバンドのノリを生み出していることは明らかで、ドラムの小笠原拓海は安定感たっぷりの洗練された演奏で全体を支えていた。
衣装チェンジを経て、爽やかに届けられた「象牙海岸」。そして「元気を出して」のイントロでは、山下と鳥山がアコースティックギターのかけあいを見せる。歌が始まると、空気は一変。一瞬で「竹内まりやの曲」になってしまう魔法のような瞬間だった。
「元気を出して」の前のMCでは、「セットリストはやりたい曲ばかりで、達郎に相談したら“この曲は再現が難しいからやめとこう”と却下されたりもしました」と裏話を明かした。
そうして選ばれたのが、すべて“人力”で演奏可能な今回の楽曲たちだったのだろう。
■竹内まりやのブルースハープ そして名曲「プラスティック・ラヴ」へ
続く「告白」は、マツコ・デラックスがこの曲が好きだと言っていたという理由から、ライブで初めてフルサイズでの披露となり、浅田真央のソチ五輪での演技にインスパイアされたという「静かな伝説」では、竹内がブルースハープを演奏。ビブラートも入れたブルースマンさながらの“吹きっぷり”で、マイクに向かう姿は非常にクールだ。後半は山下のコーラスも加わって会場が一体となる歌唱が生まれ、感動的な瞬間となった。
白いワイシャツにチェンジし、始まったのは「カムフラージュ」。おそらくこの曲のみ、一部コーラスに同期音源が使用されていたが、同曲以外はおそらくすべて生演奏で貫かれていた。だからこそ、この一曲の特別さも際立った。
MCでは、同曲が主題歌に起用されたドラマ『眠れる森』の打ち上げで、中山美穂さんと木村拓哉とこの曲を歌った思い出を語り、「若い人が先に旅立ってしまうのは寂しい。でも亡くなった人のぶんまで、私はがんばって歌います」と今は亡き中山さんへの想いを述べた。
また、バンドメンバーの紹介では、バンドメンバーひとりひとりを丁寧に紹介し、バンドメンバーの活動や、難波の娘の音楽活動までもしっかりと宣伝する姿が印象に残った。最後にバンマスとして紹介された山下は「人のライブではありますけど、50年間現役、みなさまのおかげです」と一言。竹内は「私のライブにはもれなく山下達郎がついてきます。
バックで使えるギャラのバンドじゃないけど、夫婦(めおと)価格で安くしてもらってます!」と笑顔を添えた。
「このバンドで歌えるのは、幸せなシンガーです」という言葉のあとに始まった「幸せのものさし」では、ファンキーなリズムと竹内の軽やかなステップ、山下のコーラスが響き、大きな拍手が起きた。そして、ロックンロールな「J-BOY」に続き、「プラスティック・ラヴ」へ。圧倒的な演奏で会場の熱量が一気に上がり、山下も後半でボーカルを担当した。終盤は山下がメイン、竹内がコーラスといった立場がスイッチする構成となり、客席からは大歓声が巻き起こる。“シティポップブーム”で再評価されている同曲だが、単なるブームという枠に収めることはできない圧倒的な楽曲クオリティとパフォーマンス。若い世代にもこの最高の演奏を生で感じてもらいたいと願ってしまう瞬間だった。
■「またいつかお会いしましょう!」の言葉を残して
そして「人生の扉」へ。歌う前には、竹内があらためて70歳を迎えた心境を語った。「20代でデビューした頃、70歳の自分がこのステージに立ってるなんて思いませんでした。でもこうして続けてこられたのは、みなさんのおかげです」と語り、「人生というのはタイムリミットがあるからこそ、美しく見えるんだと思います」と締めくくった。
続く「駅」はシンプルな照明で披露され、本編は終了。
アンコール前のMCでは、山下が「50周年を迎えて『MELODIES』や『SONGS』などが再販されて、また『オリコン』のランキングに入りました。ありがとうございます」と会場に頭を下げると、ファンから温かな拍手が送られた。
アンコールは微笑ましい夫婦デュエット「All I Have To Do Is Dream」でスタートし、会場総立ちの「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」と続き、ラストは竹内のみがステージに残って「いのちの歌」を真っ直ぐに歌唱。すべてを包み込むように締めくくられた。
最後までファンひとりひとりに語りかけるように、22曲を完璧に歌い上げた竹内は、「またいつかお会いしましょう!」とあいさつをし、ステージをあとにした。素晴らしすぎたライブの充実感とともに、またしばらくはライブが観られないのかもしれないという寂しさも込み上げてくるラストとなった。
■セットリスト
M01. アンフィシアターの夜
M02. 家に帰ろう ~マイ・スイート・ホーム~
M03. マージービートで唄わせて
M04. Forever Friends
M05. 歌を贈ろう
M06. 五線紙
M07. リンダ(アカペラ)
M08. ブルー・ホライズン
M09. 象牙海岸
M10. 元気を出して
M11. 告白
M12. 静かな伝説
M13. カムフラージュ
M14. 幸せのものさし
M15. J-BOY
M16. プラスティック・ラヴ
M17. 人生の扉
M18. 駅
M19. All I Have To Do Is Dream
M20. SEPTEMBER
M21. 不思議なピーチパイ
M22. いのちの歌
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