不死身ともいえる戦いぶりで、ほぼ無傷のまま終戦を迎えた駆逐艦「雪風」。その知られざる史実を背景に、太平洋戦争から戦後、そして現代へとつながる激動の時代を懸命に生き抜いた人々の姿を、壮大なスケールで描いた映画『雪風 YUKIKAZE』が公開中だ。
本作が描くのは、戦争の中でも人の命を守り抜くという強い意志。艦長・寺澤一利を演じた竹野内豊、先任伍長・早瀬幸平を演じた玉木宏が、役作りの背景や現場での気づき、そして作品のテーマである「助け舟」に込めた思いを語った。その精神は、戦後80年を経た現代にこそ確かに響く。
――竹野内さんが演じた寺澤は、史実上6人の艦長の在任期間を一人に集約した架空の人物でしたが、どのようにアプローチしましたか?
【竹野内】自分なりに艦長像を作り上げなければなりませんでした。戦争を知らない自分が、もし本当にこの立場に立ったら、どんな心持ちでいるだろうか――いくら考えても、撮影に入るまでは答えを見出すことはできませんでした。けれど、実際に撮影に入り、制服を着た大勢の乗員たちの前に立ち、そのひとりひとりの凛とした眼差しを見た時、いつの間にか艦長としての自分がそこにいました。乗組員役のキャストの皆さんによって私は艦長にしていただけたと感じていますので皆さんには頭が下がる思いでいっぱいです。
また、現場では護衛艦「みょうこう」の元艦長が常に立ち会ってくださいましたし、クランクイン前は、横須賀基地へ見学に行き、護衛艦「やまぎり」の現役艦長にもお会いすることができました。お二方が共に「艦長の私たちが護るのは乗組員たちの命だけではなく、ご家族や彼らに関わるすべての大切な人たちを護る責任があることを、常に腹の底に置かなければならない」と仰っていたのがとても印象的で、その揺るぎない艦長たる信念を私自身も胸に刻み、演じていました。
――玉木さんが演じた早瀬先任伍長は、「雪風」の最古参として隊員たちから厚く信頼される人物ですね。
【玉木】先任伍長には明確な持ち場がありません。艦長のように指示を出す立場ではありませんが、現場のまとめ役としての意識が必要だと考えました。
――お互いの印象に残った場面はありますか?
【竹野内】一つに絞るのは難しいですが、早瀬が妹のサチさんからの手紙を読む場面での玉木さんの表情がとても心に残っています。当時限られた通信手段の中、やっと届いた手紙を噛みしめる。明日生きられるかわからない最前線の艦上で唯一、平和な日常を感じられる瞬間だったのではないかと思うと、なんとも言えない気持ちになりました。
【玉木】現場では妹役の方(當真あみ)に一度も会っていないんですが(笑)。穏やかな気持ちで手紙を書いているところを想像して演じました。今回の寺澤艦長と竹野内さんは重なる部分が多いと思います。艦長たるもの、何が起ころうと一喜一憂してはいけない。常に穏やかでいる姿勢を竹野内さんから感じられ、それが大きな安心感になりました。
――予告編にも使われている寺澤のせりふ「普通がいい」については?
【竹野内】自分や家族、大切な人たちと一緒に一日を過ごし、翌朝に「おはよう」と言い合える――そんな何気ない日常こそが何より大切。戦争という極限状態でその思いを語るからこそ、言葉に重みがあると思います。
――完成した作品を観て感じたことは?
【竹野内】武士道を重んじる寺澤だけでなく、作品全体を通して武士道がテーマになっていると感じました。本作は「必ず生きて帰る、生きて還す、命をつなぐ」という信念に重きを置いて描かれています。完成した映画を観た時に、今まで何気なく日常で使っていた「助け舟」という言葉の真の意味を、改めて知ることができました。
【玉木】敵味方関係なく一人残さず救い上げ、命をつなぐ、「雪風」の姿勢は今の時代にも通じると思います。困っている人がいれば手を差し伸べるというメッセージが、冒頭の救助シーンからしっかり伝わると思います。戦争映画でこうした救助シーンが描かれるのは珍しいと思います。撮影では漁港を借り、海に入った人たちを引き上げましたが、片手で人を救い上げるのは想像以上に大変でした。
■映画だからこそ残せる戦争の記録
――お二人は過去にも太平洋戦争を扱った作品に出演されていますが、俳優として、戦争の悲惨さや平和の大切さを、作品を通して伝える役割を担うことについて、どのようにお考えでしょうか。
【竹野内】何よりも、私たちは実際に戦争を経験された方々から、直接話を聞くことが難しくなってきた今、戦争という現実味が薄れていく中で、歴史を知識として学ぶだけではなく、あの時代を全身全霊で生きた人々の「心情」を、映画として皆さんと一緒に体感することで、人々の心に「情景」としてより深く刻めるのではないかと思いました。今回、戦後80年というタイミングで「雪風」を再び世に送り出し、一人でも多くの方々に知って感じていただくことはとても意義のあることだと思います。
【玉木】教科書や資料からは戦争があった事実は分かりますが、その時代を生きた人々の感情や日常までは伝わりません。そこを届けられるのが映像作品の強みです。俳優を通して生身の息づかいや生活を描くことで、資料にはないリアリティが生まれる。悲惨さだけでなく、当時の人々の日常や心情を立体的に描き、それをきちんと届けることが、自分の役目だと思っています。
本作が描くのは、戦争の中でも人の命を守り抜くという強い意志。艦長・寺澤一利を演じた竹野内豊、先任伍長・早瀬幸平を演じた玉木宏が、役作りの背景や現場での気づき、そして作品のテーマである「助け舟」に込めた思いを語った。その精神は、戦後80年を経た現代にこそ確かに響く。
――竹野内さんが演じた寺澤は、史実上6人の艦長の在任期間を一人に集約した架空の人物でしたが、どのようにアプローチしましたか?
【竹野内】自分なりに艦長像を作り上げなければなりませんでした。戦争を知らない自分が、もし本当にこの立場に立ったら、どんな心持ちでいるだろうか――いくら考えても、撮影に入るまでは答えを見出すことはできませんでした。けれど、実際に撮影に入り、制服を着た大勢の乗員たちの前に立ち、そのひとりひとりの凛とした眼差しを見た時、いつの間にか艦長としての自分がそこにいました。乗組員役のキャストの皆さんによって私は艦長にしていただけたと感じていますので皆さんには頭が下がる思いでいっぱいです。
また、現場では護衛艦「みょうこう」の元艦長が常に立ち会ってくださいましたし、クランクイン前は、横須賀基地へ見学に行き、護衛艦「やまぎり」の現役艦長にもお会いすることができました。お二方が共に「艦長の私たちが護るのは乗組員たちの命だけではなく、ご家族や彼らに関わるすべての大切な人たちを護る責任があることを、常に腹の底に置かなければならない」と仰っていたのがとても印象的で、その揺るぎない艦長たる信念を私自身も胸に刻み、演じていました。
――玉木さんが演じた早瀬先任伍長は、「雪風」の最古参として隊員たちから厚く信頼される人物ですね。
【玉木】先任伍長には明確な持ち場がありません。艦長のように指示を出す立場ではありませんが、現場のまとめ役としての意識が必要だと考えました。
映画の現場に例えると、助監督のような役割。「雪風」のことを誰よりも熟知しているという自負があり、艦長に意見をぶつける場面もある、強い責任感を持った人物です。全体を見渡し、必要なところに声をかける――若い乗員も多い中で、“お母さん”みたいな存在でした。撮影では皆で汗を流し、一体感のある現場を体験できたと思います。
――お互いの印象に残った場面はありますか?
【竹野内】一つに絞るのは難しいですが、早瀬が妹のサチさんからの手紙を読む場面での玉木さんの表情がとても心に残っています。当時限られた通信手段の中、やっと届いた手紙を噛みしめる。明日生きられるかわからない最前線の艦上で唯一、平和な日常を感じられる瞬間だったのではないかと思うと、なんとも言えない気持ちになりました。
【玉木】現場では妹役の方(當真あみ)に一度も会っていないんですが(笑)。穏やかな気持ちで手紙を書いているところを想像して演じました。今回の寺澤艦長と竹野内さんは重なる部分が多いと思います。艦長たるもの、何が起ころうと一喜一憂してはいけない。常に穏やかでいる姿勢を竹野内さんから感じられ、それが大きな安心感になりました。
――予告編にも使われている寺澤のせりふ「普通がいい」については?
【竹野内】自分や家族、大切な人たちと一緒に一日を過ごし、翌朝に「おはよう」と言い合える――そんな何気ない日常こそが何より大切。戦争という極限状態でその思いを語るからこそ、言葉に重みがあると思います。
――完成した作品を観て感じたことは?
【竹野内】武士道を重んじる寺澤だけでなく、作品全体を通して武士道がテーマになっていると感じました。本作は「必ず生きて帰る、生きて還す、命をつなぐ」という信念に重きを置いて描かれています。完成した映画を観た時に、今まで何気なく日常で使っていた「助け舟」という言葉の真の意味を、改めて知ることができました。
【玉木】敵味方関係なく一人残さず救い上げ、命をつなぐ、「雪風」の姿勢は今の時代にも通じると思います。困っている人がいれば手を差し伸べるというメッセージが、冒頭の救助シーンからしっかり伝わると思います。戦争映画でこうした救助シーンが描かれるのは珍しいと思います。撮影では漁港を借り、海に入った人たちを引き上げましたが、片手で人を救い上げるのは想像以上に大変でした。
■映画だからこそ残せる戦争の記録
――お二人は過去にも太平洋戦争を扱った作品に出演されていますが、俳優として、戦争の悲惨さや平和の大切さを、作品を通して伝える役割を担うことについて、どのようにお考えでしょうか。
【竹野内】何よりも、私たちは実際に戦争を経験された方々から、直接話を聞くことが難しくなってきた今、戦争という現実味が薄れていく中で、歴史を知識として学ぶだけではなく、あの時代を全身全霊で生きた人々の「心情」を、映画として皆さんと一緒に体感することで、人々の心に「情景」としてより深く刻めるのではないかと思いました。今回、戦後80年というタイミングで「雪風」を再び世に送り出し、一人でも多くの方々に知って感じていただくことはとても意義のあることだと思います。
【玉木】教科書や資料からは戦争があった事実は分かりますが、その時代を生きた人々の感情や日常までは伝わりません。そこを届けられるのが映像作品の強みです。俳優を通して生身の息づかいや生活を描くことで、資料にはないリアリティが生まれる。悲惨さだけでなく、当時の人々の日常や心情を立体的に描き、それをきちんと届けることが、自分の役目だと思っています。
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