8月25日、ロック界の“The Boss” ブルース・スプリングスティーンの不朽の名作『明日なき暴走(Born To Run)』が発売から50周年を迎える。この節目の年に、スプリングスティーンの若き日を描く映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』が11月14日に日本公開されることが決定した(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)。

 1975年8月25日、ロック界を揺るがす一枚のアルバムがリリースされた。スプリングスティーンの3枚目のアルバム『明日なき暴走/Born To Run』である。現在までに全世界で900万枚を売り上げた名盤中の名盤だ。

 その伝説には予兆があった。前年5月9日、ボストンで行われたライブで初めて数曲が披露され、「ローリング・ストーン」誌のジョン・ランダウは「私はロックンロールの未来を見た。その名はブルース・スプリングスティーン」と、その衝撃を伝えた。SNSが存在しなかった時代、このレビューは紙媒体を通して瞬く間にロックファンの間に広がっていった。

 1973年1月に『アズベリー・パークからの挨拶』でメジャーデビューしたスプリングスティーンは、同年9月発売の2作目『青春の叫び』でも評価は伸び悩み、レコード会社との関係も悪化していた。そんな中、起死回生をかけたサードアルバムの制作に臨み、歌詞やアレンジ、サックスの一音にまでこだわり抜いて徹夜のレコーディングを繰り返して完成したのが、『明日なき暴走』。

 リリースされるや一大センセーションを巻き起こす。10月にはビルボード3位にランクイン。さらに同月27日には「TIME」と「NEWSWEEK」の表紙を同時に飾るという快挙を成し遂げ、一躍時代の寵児となった。

 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』の舞台は、伝説誕生から7年後の1982年、ニュージャージー。『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』(1984年)で世界の頂点に立つ直前の若きスプリングスティーンは、成功の重圧と過去のトラウマに押し潰されそうになっていた。その孤独な時間から生まれたのが、簡素な録音で一人きりで作られた6枚目のアルバム『ネブラスカ』である。

 原作はウォーレン・ゼインズの「Deliver Me from Nowhere」。『クレイジー・ハート』のスコット・クーパー監督が脚本を執筆し、スプリングスティーン本人に直談判して映画化が実現した。

 ブルース・スプリングスティーン役を託されたのはジェレミー・アレン・ホワイト。テレビシリーズ『一流シェフのファミリーレストラン』(ディズニープラス)でゴールデングローブ賞テレビ部門主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を3年連続、エミー賞主演男優賞(コメディ・シリーズ部門)を2年連続受賞、同賞で4年連続主演男優賞ノミネートの快挙を成し遂げた、全世界が最も注目する俳優だ。ギター、ハーモニカ、歌唱トレーニングを続け、若き日のスプリングスティーンを体現している。

 マネージャー、ジョン・ランダウには、『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』(24年)で悪辣な弁護士ロイ・コーンを怪演し、2025年のアカデミー賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされたジェレミー・ストロング。

 ガールフレンドのフェイ・ロマーノにオーストラリア出身のオデッサ・ヤング、2025年エミー賞リミテッドシリーズ部門作品賞にノミネートされたNetflix『アドレセンス』での切実な演技で同賞主演男優賞にノミネートされたスティーヴン・グレアムが父親を演じている。そして、『ブラック・バード』でエミー賞・ゴールデングローブ賞テレビ部門最優秀助演男優賞受賞のポール・ウォルター・ハウザーがサウンドエンジニアのマイク・バトランに起用されている。

 『ボヘミアン・ラプソディ』(2019年)やエルトン・ジョンを描いた『ロケットマン』(19年)、『エルヴィス』(22年)、ボブ・ディランの若き日を綴った『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(24年)と、音楽界のレジェンドが映画化される流れの中で、本作は“次なる本命”と位置づけられている。世界最大級の賞レース予想サイト「GOLD DERBY」でも、16人中11人の記者がアカデミー賞有力候補に挙げている。

編集部おすすめ