『日本おもちゃ大賞2025授賞式』が21日、都内で行われ、タカラトミーの『トミカ』が2部門の大賞に選ばれた。近年、玩具業界は市場の拡大が続き、成長をけん引する“キダルト”や“ニュースタルジア(懐かしくて新しい)”といったキーワードに注目が集まるが、玩具そのものはどのように進化しているのだろうか。
発売から55年を経てなおその勢いを増す『トミカ』をはじめ、ロングセラー商品『リカちゃん』『プラレール』、全世界で大ヒット中の『ベイブレード』『トランスフォーマー』など、日本を代表する玩具の最新事情とトリビアを追った。

■1.8秒に1台が売れている『トミカ』、最も長く販売されているのはロンドンバス

 おもちゃ業界の活性化と良質な玩具の開発・普及を目的に、2008年に創設された『日本おもちゃ大賞』。17回目を迎える今年、44社350点の応募からエデュケーショナル部門の大賞に選ばれた『トミカ・プラレールブロック のりものブロックタウンボックス』は、組み立てる段階でのりものの特徴や仕組みを理解できることが評価された。アクション部門の大賞を受賞した『グランドモールトミカビル(トミカ55周年記念特別仕様)』は、立体的に遊べる大型ショッピングモールビルで、他の「トミカワールド」ともつなげて遊べる点が支持を集めた。

 350点に及ぶ玩具の中から2部門の大賞に輝いた『トミカ』は、外国製のミニカーが全盛だった1970年、「日本の子どもたちに、もっと身近な国産車のミニカーで遊んでもらいたい」という思いから誕生した。日本初の手のひらサイズの国産車ダイキャスト製ミニカーシリーズとして6車種を発表以降、現在までに国内外累計10,000種以上の車種を発売。累計台数はなんと10億台(2024年12月時点)を超える。これは、およそ1.8秒に1台売れている計算になる。

 定番120種の中でもっとも長く販売されているのは、1977年から現在まで48年間ラインナップされている『ロンドンバス』で、販売台数ランキング1位はこれまでに400万台以上を売り上げている『日野はしご付消防車』だ。トミカの名前の由来は「発売当時の会社名トミー(TOMY)に車のカー(CAR)」を合わせたもの」(タカラトミー・トミカ事業部担当者/以下同)という。

■実車をリアルに再現も“サイドミラー”はなし、そのワケは?

 そんな『トミカ』の魅力は、子どもの手のひらに収まる全長7cm台という小型サイズでありながら、細部までリアルに表現されていることだが、もうひとつ特筆すべきは、発売以来、変わらずに守り抜いている安全性へのこだわりだ。例えば、子どもが握りしめてもケガをしないよう、サイドミラーはついていない。
また、ボディデザインについても「実車をそのまま小さくするのではなく、ボディに丸みを持たせるなど、車本来のカッコよさは残しながら安全面に配慮している」という。

 変わらぬ配慮がある一方、子ども心をくすぐるギミックは進化。No.87『散水車』の水が噴き出して見えるアクションや、No.127『三菱ふそう スーパーグレートコンクリートポンプ車』のブームが大きく上に伸びるアクションのほか、大人向け「トミカプレミアム」シリーズから出ている「43 トヨタ アルファード」では後部両側のスライドドアが可動するなど、細やかな作り込みで実車同様のリアルさを実現。子どものみならず大人もワクワクさせる仕上がりとなっている。

 新商品は毎月第3土曜日に発売され、定番120種に関しては2車種が新商品と入れ替わる。新車種の選定は「実際の新車情報やトミカの定番ラインナップにはない“はたらく車”などから、シリーズがバリエーション豊かになるよう考えている」そうだ。

 発売から55年目を迎え、定番120種のほか、“トミカが夢のコラボレーション!”をコンセプトに人気コンテンツとコラボした「ドリームトミカ」シリーズに1.5歳から遊べる『はじめてトミカ』、よりリアリティを追求した大人向けシリーズの『トミカプレミアム』『トミカプレミアムunlimited』『tomica+』など、さらなる広がりを見せる『トミカ』の世界。今後は、これまで以上に年齢問わず楽しめるブランドを目指す一方で、「中国やアジアを中心にブランドの発信拠点として公式ブランドストア『TOMICA BRAND STORE』の展開を拡大していく」とトミカ事業部担当者。海外展開もさらに加速させていく予定だ。

■SNSを駆使し、宅配ボックス&ビルドイン食洗器のある家に住む“令和のリカちゃん”

 タカラトミーのロングセラー商品の中で国民的人気を博している玩具といえば、1967年に誕生した着せ替え人形『リカちゃん』の存在も大きい。その時代のファッションやライフスタイルを取り入れ、進化を続けているリカちゃんだが、注目すべきは“コミュニケーションツール”の変化だろう。

 リカちゃんは電話を通じてファンとの交流をはかってきた。
かつて多くの子どもたちが夢中になった「リカちゃんでんわ」は、1968年に正式に開設され、今年で57年目になるが、驚くべきことに、今なお健在。毎月およそ4万件、多い時には7万件を超える電話がかかってくるという。電話での交流を続けるリカちゃんが、近年積極的に活用しているコミュニケーションツールがSNSだ。

 2010年からX(旧Twitter)での情報発信を開始し、2015年にInstagramを開設。2025年8月現在、YouTubeチャンネルを含めると総フォロワー数は28万人に達する。さらに今月下旬には、新たな交流の場となるコミュニティ『リカちゃんポータル(LICCA PORTAL)』を開設する予定だ。ここ数年、リカちゃんを通じて自分らしさを表現したり、コーディネートや写真撮影を楽しむ大人のファンによる「リカ活」が活発化している。こうした背景を受け、『リカちゃんポータル』では登録なしでリカちゃんに関する情報やコンテンツを閲覧でき、ファン同士が交流できる掲示板も設けられる(※)。

 リカちゃんの進化といえば、『リカちゃんハウス』も見逃せない。1967年のリカちゃん登場と同時に発売され、マンション価格が1億円を突破した80年代後半のバブル期には『ひろびろオクション』、六本木ヒルズができた2003年の翌年には『ハートヒルズマンション』が登場するなど、常に時代の社会状況や流行を反映してきた。今年10月に発売される最新版『おしゃべりオートロック 2階建てのグラン・メゾン』は、「オートロック」「インターフォンモニター」「宅配ボックス」「ビルトイン食洗器」など、家具や家電がアップデートされ、共生社会とエコを意識したサステナブルな家であることが大きな特徴だ。

 例えば、「ごみは分別して捨ててね!」など環境に配慮するためのアドバイスやセリフのサウンドが搭載されており、パッケージや商品の紙には適切に管理された認証森林から生産される木材等を原材料としている森林認証紙を使用している。
さらに、視覚障害のある子どもたちの意見を反映し、テーブルに並べた食器が倒れないようにダイニングテーブルに凹みを設けたり、床のタイルやカーペットの触り心地を変えたり、エレベーターが各フロアに着く際に音が鳴るようにするなど、障害の有無にかかわらず楽しく遊べる配慮がなされた共遊玩具としても進化。この点が評価され、「日本おもちゃ大賞2025」の共遊玩具部門で大賞を受賞した。

■筋電義手の訓練から宇宙探査、スポーツ化も…さまざまな展開をみせる玩具の可能性

 国立障害者リハビリテーションセンターにその特性が評価され、今年、大阪・関西万博の同センターブース内の「こどもの義手」コーナーで紹介されたおもちゃもある。1959年の発売以来、最新の新幹線や話題の車両、絵本などで人気の車両などをラインアップに加えて、いつの時代も子どもたちを夢中にさせてきた『プラレール』だ。

 先天性上肢欠損の子どもが筋電義手の動かし方を楽しみながら習得できるよう、国立障害者リハビリテーションセンターは、『プラレール』の遠隔操作システムを活用した訓練を行っている。生まれた時から手が無い未就学期の子どもにとって、筋電義手の動かし方を習得するのは難しい。10年ほどの研究の結果、プラレールが最適だと分かったという。使用されているのは「グリップマスコン」シリーズで、鉄道車両の運転台にある車両操作装置「マスコン」を模した片手サイズのコントローラーを使って、スピード調整や加速・前進・停車・バックなどを自由自在に操作できる。この取り組みでは腕にセンサーを取りつけ、筋肉を適切に動かすと発生する電気信号によって車両を動かすことができ、身近な『プラレール』をコントロールすることで、楽しみながら筋電義手の操作技術を習得できる仕組みになっている。

 おもちゃの技術が他分野にも活用された例では、昨年、日本初の月面着陸を成功させた探査機『SLIM(スリム)』に搭載された世界初・世界最小最軽量の変形型月面探査ロボット『SORA-Q(ソラキュー)』の開発に、変形ロボットキャラクター『トランスフォーマー』やリアルムービングキット『ZOIDS』のノウハウが活かされたことも大きな話題となった。

 ちなみに『トランスフォーマー』は、ハリウッド映画のヒットから、海外発祥と思われがちだが、実はタカラトミーが生み出した日本発の玩具。これまで130の国と地域で7.3億個以上を販売する大人気商品だ。


 世界的な人気を誇るおもちゃとして、1999年誕生以来、4つのシリーズを通して世界80以上の国と地域で累計5.5億個以上が出荷されている『ベイブレード』も挙げられる。

 日本の伝承玩具であるベーゴマを現代風にアレンジしたこの対戦型おもちゃは、現在、第4世代まで進化。最新シリーズの『BEYBLADE X(ベイブレードエックス)』は、第1世代『爆転シュート ベイブレード』の「改造やバトルの楽しさ」、第2世代『メタルファイト ベイブレード』の「メタルの激しいぶつかり合い」、第3世代『ベイブレードバースト』の「相手を破壊するバーストギミック」といった要素をすべて継承しつつ、新たなギミックで歴代モデル最速のアタックを実現。言葉、体格、性別、年齢に関わらず誰もが対等に楽しめる“スポーツへ”と進化を遂げ、今年10月に開催される世界大会も注目を集めている。

 令和のおもちゃの進化はまだまだ語り尽くせない。8月30、31日に開催される国内最大規模の玩具展示会「東京おもちゃショー」で、ぜひその目で確かめてほしい。55周年を迎える『トミカ』ブースでは、トヨタ自動車・日産自動車・ホンダ技術研究所・三菱自動車工業・スズキによる『トミカ』のためだけの特別デザインのトミカと実車両5台も展示される予定だ。

※8月下旬、リカちゃん公式HPからアクセス可能

(取材・文/河上いつ子)
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