◆ふるさと納税の楽しみ方を追求した先にある体験型返礼品に先陣を切ったふるさとチョイス
――本企画が実現した経緯を教えてください。
「10月よりふるさと納税のポイント付与が禁止となりますが、地域貢献といった制度本来の趣旨を大切にしている『ふるさとチョイス』では、基本的に独自ポイントの付与はしていません。それでも寄付者の皆様に『ふるさとチョイス』でしかできない『地域体験』をしていただくための方法を検討する中で、制度趣旨を損なわない新しい楽しみ方として、応援の熱量が高い『推し活』やスポーツとのコラボレーション企画を2年前より実施してきました。エンタメコンテンツを提供する側の団体や自治体と協力しながら、ふるさと納税を通じて応援の力を地域の力にも変えていくもので、ポータルサイトの中でも先駆けた取り組みです」
――これだけ大きなタイトルマッチとの契約にはハードルもあったのではないでしょうか。
「関係各所の意向やイベント運営側からの規制もあるなか、観戦チケットの返礼品化に留まらず、ふるさと納税の仕組みをどのように地方創生につなげるかを意識しました。通常のチケット販売とは異なる寄付金になるため、地域社会への貢献意識と新しいことにチャレンジしていくワクワク感が関係各所にもあったように感じます」
――地域ごとのプロスポーツチームの試合などはすでに返礼品としてあります。その次のステップが井上尚弥選手の世界タイトルマッチだったのでしょうか。
「もちろん地域に密着するクラブチームの試合やイベントチケットの返礼品もあります。ひとくくりにイベントといっても規模感によって役割が異なり、集客のターゲットも変わります。今回のような大型イベントでは観客が全国から地方に集中します。
◆ふるさと納税は“地域応援”のための制度、ポイント付与廃止でより多様化していく返礼品
――今後の取り組みとして考えていることはありますか?
「次世代の井上尚弥選手になるネクストモンスターの育成を、ふるさと納税でも担うことです。井上尚弥選手所属の大橋ボクシングジムには、若手を含めて有望な選手がたくさんいます。私たちは夢に向かって奮闘する若い方々など次世代への支援も重視しています。まずは、ふるさとチョイスの寄付者の皆様に向けた情報発信から取り組んでいこうと考えています」
――こうした大型イベントの返礼品は、これから増えていきますか?
「ふるさと納税への興味関心の入口を作るために、これからもチャレンジしていきます。そして大切なことは、寄付者の皆様へのアフターコミュニケーションです。ふるさと納税を初めて経験する方にはその意義を理解いただくことが必要ですし、繰り返し地域に寄付いただけるように他の自治体や返礼品の情報も届けることが、次にやるべき役割です。最近は、返礼品として『モノ』ではなく宿泊券やチケットなど『体験型』の種類を増やしている自治体も多くなっていますし、実際にそういった返礼品を選ぶ方も増えていますね」
――井上尚弥選手の前日計量のように、音楽ライブ鑑賞に加え、アーティストとのミート&グリートが付加価値になりそうですが、ビッグネームのアーティストでは難しいのでしょうか。
「基本的にふるさと納税と相性が良いのは、地域密着のスポーツチームやご当地アイドルなどになるでしょう。クラウドファンディングを含めて多様な返礼品を生み出すことができますし、実現しやすい。とはいえ、地方のアリーナに人気アーティストを呼んで人流を促すことは可能だと思いますし、ふるさと納税としても地域に足を運ぶ人が増えるため有益です。今回は名古屋市がIGアリーナを中心にスポーツで地域を盛り上げていきたいという思いがあり、結果的にフィットしました」
――「大阪や名古屋、広島飛ばし」といったワードをよく聞きますが、ビッグマッチや音楽コンサートも首都圏に集中しがちです。ふるさと納税による地域活性化を手がけるなか、この状況をどう見ていますか?
「都市部も、郊外も、地方も、いずれも“ひとつの地域”であり、エリアを問わず、外から人を呼び込みたいという熱意のある自治体や事業者と一緒に取り組みたいと考えています。
――ふるさと納税での推し活についてはいかがですか?
「ふるさと納税は地域への応援であり、大きな枠で推し活のひとつともいえます。地域でがんばる方々を応援したり、地域の課題解決を支援できたりという点がこの制度のユニークさであり、それを楽しんで寄付してくださっている方も多くいます。返礼品をもらうことで、地域の事業者の収入が増えて地元経済が活性化し、にぎわう地域に人々が移り住んでくることによって持続可能性が高まります。
10月からポイント付与が禁止となりますが、改めてふるさと納税は地域を応援するための制度であり、手法だということを謳っていきたい。エンターテインメント分野では、ご当地アイドルやアニメの聖地巡礼などへと対象を広げながら、どんな取り組みが地域の後押しになるかを考えていきます」
◆地域特性に応じたオーダーメイド型の返礼品開発も…推し活やクラウドファンディングもそのひとつ
――エンターテインメント分野の返礼品は増えていきますか?
「さまざまなパートナーとコミュニケーションを取っていますが、知名度や売上を上げたいというよりも、取り組みの先にある地域社会への貢献を大切にしているのを感じます。地域の特性に応じてオーダーメイド型で返礼品開発に伴走していくことで、こうした取り組みを推進していきます。推し活を楽しむ方の熱量はとても大きく、特にアニメ、声優やアイドルは、人の動きを作るほどの大きな力があります。プレイヤーやパートナーと一緒になって、新しい取り組みを生み出し、地域に足を運び、認知度を上げることを一気通貫で進めていきたいと考えています」
―― 一方、10月から始まるポイント付与廃止による影響をどのように見ていますか?
「ふるさと納税はポイントの付与がなくても税控除が受けられたり、返礼品をいただけたりして、生活者にとって魅力的な制度です。本来の趣旨に照らしていえば、納税者自ら納める税金をどこでどのように使ってほしいのかを指定することができる、唯一の制度でもあります。近年、災害発生時におけるふるさと納税の活用が浸透してきており、昨年の能登半島地震には全国から20億円以上の寄付金が集まりました。こうした動きから考えても、ふるさと納税を利用する方が減ることは想定しづらいと思います」
――今後については、どのように変わっていくと考えていますか?
「これからのふるさと納税は、ふるさとチョイスが従前から提唱してきた本来の制度趣旨に沿った活用がされていくと思います。また、以前は年内の寄付締め切りとなる年末に一気に寄付する方が多かったものの、最近では年間通じて寄付をし、お米や日用品などを返礼品でいただく方が増えています。
――どのような取り組みになるのでしょうか。
「体験価値や興味関心を返礼品のラインナップに揃え、寄付が最終的に地域貢献につながったことを実感してもらうサイト設計をすることです。そこを踏まえて、たとえポイントがなくても、ふるさと納税の意義を感じ、楽しんでもらえる方を増やしていきたいです」
――他プラットフォームのポイントによる販促をどう見ていましたか?
「他社の取り組みについて言及はいたしませんが、一般論としてポイント付与があることによって寄付者層が拡大したという効果はあると思いますし、ポイントを楽しみに寄付する方もたくさんいらっしゃったと思います。ここからは新しいふるさと納税の選び方が生まれてくると思います」
――競合との差別化や強みは?
「全国の自治体の95%を超える1730以上の自治体とのネットワークがあり、また、自治体が課題解決のためのプロジェクトを立ち上げて寄付金を募る『ガバメントクラウドファンディング』の仕組みを作ったのはふるさとチョイスです。最近では『チョイスAI』を導入し、76万点超の返礼品の中から選択に迷う方に向けて、チャット形式で希望のお礼の品をAIが提案します」
――ふるさとチョイスの現状の課題はありますか?
「地方創生は待ったなしの課題です。ふるさと納税の本来の趣旨を伝えて、地域のファンを生み出していく取り組みに終わりはありませんし、ふるさと納税はあくまで地方創生のための手段の1つです。当社が掲げる『自立した持続可能な地域をつくる』というビジョンの実現に向けて、さまざまな手法を組み合わせながら、1つひとつの地域に伴走し、課題解決に取り組んでいきます」
◆学校教育にもふるさと納税を…母校や部活動への応援で地域の課題解決を
――今後、推し活領域での競合が増える可能性もあります。そのなかで独自性はどう考えていますか?
「Bリーグをはじめ、エンタメ市場とふるさと納税をいち早くクロスさせた自負がありますし、実績や、皆様と築いてきた信頼関係もあります。スポーツ、アニメやアイドルなど、それぞれのファンの皆様が『推し活を最も応援しているのがふるさとチョイスだ』と認識し続けていただけるよう、今後もスピードを緩めずに取り組んでいきます」
――今回はNTTドコモをパートナーとしたプロジェクトでしたが、地域企業との官民一体になる取り組みについてはどう考えていますか?
「アライアンスパートナーは欠かすことができない重要な位置づけです。NTTドコモやBリーグのほか、これまでのプロジェクトは多様なパートナーと一緒だからこそ実現できたものばかりです。当社は大規模な経済圏を持つグループに属していない独立系であり、自前のアセットソリューションでの完結がなかなか難しいからこそ、いろいろなパートナーとの連携が生まれ、それぞれの強みをクロスしていくことで価値を最大化できます。
今回の井上尚弥選手の世界戦は、モバイル経済圏や人々が熱狂する熱量など関係各所それぞれの強みをクロスしていった結果、ふるさと納税の返礼品としてコンテンツ化できたと考えています。今後もこうした各ステークホルダーとの組み方や強みの活かし方を広げていきます」
――旅行業界はアニメやアイドルの聖地巡礼といった推し活をツアーに取り込んでいます。地方創生と観光業界は親和性が高いように感じます。旅行業界とのクロスも広がっていきますか?
「そういう動きをしていきたいと考えているところです。地域側のニーズも大きく、自治体はふるさと納税課や観光課、シティプロモーション課や移住定住課などそれぞれの部署に役割がありますが、ふるさと納税はそこに横串を刺します。観光やシティプロモーションに資する取り組みを旅行会社と一緒に作ることには意義がありそうです」
――これから新たに広げていきたい分野はありますか?
「7月にエール&レスポンスプロジェクトを立ち上げました。『好きを応援したい』という文脈のなかでは、母校や部活動などもその枠に入ります。学校や教育という分野に興味関心を持つ寄付者の皆様に知っていただきたい取り組みであり、地域が抱える課題に紐づきます。例えば、学校には指導者の地域移行や予算の問題がある一方、引退したアスリートにもセカンドキャリアが見つかりづらいという課題があり、それらをふるさと納税で結び付けることで、解決する可能性が生まれます。学校応援や部活動支援に向き合っていくと、結果的にさまざまな地域課題の解消に取り組んでいくことになります。それはまさにふるさと納税の本来の意義に資するもの。ひとつでも多く形にしていきたいです」
(文/武井保之)