■無糖トレンド拡大とともに“取り残されている層”「おいしさを決めるのは“果実感”」
商品名に「無糖」をうたったRTD飲料が売れている。飲料各メーカーが無糖カテゴリーに注力し、多種多様な商品を投入しているが、ツートップはやはり無糖チューハイの火付け役となったキリン『氷結無糖』と、果実本来のおいしさを引き出す独自の製法に強みを持つサントリー『-196無糖』だろうか。サントリーでRTD飲料の開発に携わる玉腰潤さんは、無糖缶チューハイが伸びている背景を次のように解説する。
「無糖RTD市場を牽引しているのが、日常的に酒を飲まれることの多い40~50代です。もともとこの世代に多かったビール支持層が、昨今こぞって無糖RTDに流入しているんです。これまで缶チューハイに根強かった『甘くて食事に合わない』というイメージが払拭されたこと、加えて、コロナ禍以降の健康志向の高まりを背景に、普段使いのアルコール飲料として無糖RTDを選択する方はどんどん増えています」
一方、無糖トレンドが拡大するとともに取り残されている層がいることも調査から浮かび上がってきたという。
「特に頻繁に宅飲みをしない20~30代からは『無糖は味気なさそうだから選ばない』といった意見が聞かれました。さらにこの層を深掘りすると『たまに飲むならおいしいお酒を』『チューハイのおいしさを決めるのは果実感』といったインサイトがあることがわかりました。厳選した果物のおいしさをそのまま閉じ込めた缶チューハイ、それはまさに『-196』の原点だったことに、改めて立ち返るきっかけになりましたね」
■最速で販売数量2000万本を突破、勝ち筋は「果実の複雑な風味や香りを引き出す製法」にあり
7月29日にはあえて無糖にこだわらず、果物のおいしさでストレートに勝負した缶チューハイ『-196(イチキューロク)』3種を新発売。近頃の無糖RTD一辺倒に食傷気味だったコンビニやスーパーのお酒売り場担当者からも「新たな購買層を開拓する姿勢を応援していただけました」とのことで、サントリーの新商品でも過去最大規模の店頭展開が立ち上がった。
「結果として直近20年に発売した弊社RTD商品でも、最速で販売数量2000万本を突破することができました。
新商品の最大の特徴である、みずみずしい果実感を実現しているのが、2005年に誕生した「-196℃製法」だ。「厳選した果実をまるごと瞬間凍結・粉砕し、お酒に漬け込むサントリー独自の技術で、皮のほろ苦さや旨みなど、果汁だけでは表現しきれない複雑な風味や香りを引き出すことができる」。
開発から20年にわたり使用されてきたが、中でも社会的インパクトが大きかったのが、チューハイのトレンドを牽引した『-196 ストロングゼロ』(2009年発売~)だ。アルコール度数に注目されがちな同商品だが、時代の空気が変わっても市場から淘汰されずにロングセラーとなれたのは「本来の価値=果実のおいしさ」がきちんと伝わっていたからだ」と玉腰さん。
「リーマンショック後の2009年頃は高アルコール飲料のニーズが高まった時期ではありましたが、その中でストロングゼロが時代が変わっても変わらずロングセラー商品となれたのは、「本来の価値=果実のおいしさ」があったから。果物のおいしさは。間違いなく『-196』ブランドを貫くコアの価値だと考えています」
■ あらゆる層に対応できる全方位ブランドに「20年目にして『-196』ブランドがようやく本格的に走り出した」
ストロングゼロ、無糖と来て、その上で"果物がおいしいチューハイ"と銘打った商品を発売させる。「だからこそフレーバーの選択はとても重要でした。〈レモン〉は定番として、そのほか2種のチョイスの決め手はおいしいフルーツとして多くの方が連想しやすい果物であること。また缶チューハイのフレーバーとしての新規性もポイントでした」。
発売1週目に最も売れたのが〈シャインマスカット〉で、次に〈白桃〉。2週目には〈レモン〉が力強く動き出すなど、フレーバー内でも活発な回遊が起きている特徴的な売れ方をしているという。
「フルーツの果実感を感じられたからこそ、『次は、王道のレモンを飲み比べてみるか』となる。本シリーズが"果物がおいしい"という価値で信頼いただきつつあるのを感じます。またSNSでは『イチキューロク』と呼んでくださる方が非常に増えています。これは『ストロングゼロ』や『無糖』では起きなかった現象です。20年目にして『-196』ブランドがようやく本格的に走り出した実感があります」
宅飲みに最適な手軽さから、あらゆるアルコール飲料の中でも特に時代の空気や生活者のニーズが反映されやすいとされるRTD飲料。それゆえトレンドの移り変わりも早く、市場に定着できるのは一握り。昨今はフードロス削減をうたった「氷結 mottainai」(キリン)や、本物のレモンが浮き上がる「未来のレモンサワー」(アサヒビール)など、消費者の感性や五感に訴えたユニークなRTD飲料も話題となった。
そうした中で、"果物がおいしいチューハイ"という極めてストレートなアプローチで勝負をかけている「-196」。パッケージも清々しいブルーを背景にビビッドな果物のイラストと「-196」のロゴを配置した、シンプルながら印象的なデザインだ。
「RTD市場を生き抜く上で最も重要なのは、生活者の気持ちをどこまで深く理解できるかに尽きると思います。今回の-196開発にあたってターゲットとしたお客さまは、最終的に、商品を選ぶ軸になるポイントが“味と度数”であったため、その2点をしっかり伝える。また、お客さまはリラックスを求めているので、店頭で選択する際の感情を揺さぶりすぎないということも重要だと考えました。
"果物がおいしい"という価値をコアに置きながら、ストロング系や無糖といった付加価値による選択肢を提供している「-196」ブランド。さらに各シリーズで季節限定など多彩なフレーバーを展開することで、「あらゆる層に対応できる全方位ブランドに育てたい」と玉腰さんは展望を語った。