『私を離さないで』などで知られるノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの長編デビュー作を、『ある男』(2022年)の石川慶監督が映画化した映画『遠い山なみの光』(9月5日公開)から、広瀬すず演じる悦子と二階堂ふみ演じる佐知子が初めて出会う場面の本編映像が公開された。

 戦後間もない1950年代の長崎と、1980年代のイギリスを舞台に、時代と国境を越えて交錯する“記憶”の謎に迫る、ヒューマン・ミステリー。「長崎」と「戦争」というテーマを新たな世代の感覚で描く。長崎時代の悦子を広瀬、佐知子を二階堂、イギリス時代の悦子を吉田羊が演じるほか、松下洸平、三浦友和らが出演している。

 物語は、日本人の母とイギリス人の父を持つニキ(カミラ・アイコ)が、作家を志し、母・悦子(吉田)の半生を綴ろうとするところから始まる。戦争を経験した後イギリスに渡った悦子は長く口を閉ざしていたが、娘に乞われ語り始める。それは30年前、戦後の長崎で暮らしていた頃、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の記憶であった。だが、ニキは母の語る物語に次第に違和感を覚えていく。

 今回公開された映像は、緊張感と不穏さを漂わせる悦子(広瀬)と佐知子(二階堂)の出会いのシーン。悦子は佐知子の幼い娘・万里子を追いかけ、佐知子たちが住む河岸のバラック小屋へ。家の外で洗濯をしていた佐知子と初めて出会う。

 普段あまり人が寄りつくことはないであろう古びた家の前まで来た悦子を怪訝(けげん)そうな目で見る佐知子に対し、悦子は「はじめまして。この子、そこの橋で喧嘩しとったみたい。大勢の男の子たち相手によ」と先程あった出来事を説明する。だが、佐知子は「あなた、子どもの喧嘩見たことないの?」と長崎弁ではない話し方で切り返し、冷めた態度で洗濯物を続ける。

 悦子は「でも例の物騒か事件もあることですし、気をつけたほうが……」と巷を騒がせている陰惨な幼児絞殺事件のことを引き合いに出して畳みかけるが、「それはどうも」とまるで他人事のような素っ気ない返事をする佐知子。

 そんな佐知子に戸惑いながらもしばしの会話を続け、悦子が帰ろうとしたとき、佐知子は振り向きざまに「あなたどこの人?」と問いかける。悦子が「私そこの団地に住んどります、緒方悦子と申します」と軽く微笑み答えると、佐知子は「悦子さん、お茶でもどう?ちょっと上がってきなさいよ」と口に笑みを浮かべながら悦子を家に招き入れようとするのだった。

 不穏さを交えながら、少し驚き不安げな様子の悦子の表情がアップで映し出される。果たしてこの二人はここからどうつながっていくのか……?

 福間美由紀プロデューサーは「間違いなく異次元の反応が起きるだろうと全員が期待していた。撮影中も二人のツーショットの画の強さは圧巻だった」という広瀬と二階堂の初共演に期待が高まるシーンとなっている。

 なお、動画配信サービス「U-NEXT」で独占配信されている本作の特別番組「謎めぐる旅 ~映画『遠い山なみの光 』を読み解く5つのヒント~」(全5話)が、期間限定でYouTubeで公開中 。2024年6月から始まった本作の撮影舞台裏や、スタッフ・キャストのインタビュー、今年5月のカンヌ国際映画祭の様子など、貴重な映像を交えながら、映画で描かれる世界観や登場人物にまつわる“謎”をさまざまな切り口から掘り下げる内容となっている。ナレーションは映画にも出演する松下と吉田が担当している。

 本作は日本・イギリス・ポーランドの3ヶ国共同製作となっているが、 「第69回ロンドン映画祭(BFI London Film Festival 2025」(10月8日~19日開催)Strands部門への正式出品が決定。

 本作は日本・イギリス・ポーランドの共同製作であり、「第69回ロンドン映画祭」(10月8日~19日開催)Strands部門への正式出品が決定。80年代の悦子とニキのイギリスパートはロンドン郊外で撮影。近年ではイギリスを舞台とする作品でも現地撮影が減少しているが、石川監督は現地での撮影にこだわり、英インディペンデントプロダクション「Number 9 Films」と協力。日英での撮影、さらにポーランドでのVFX作業を経て完成した。

 石川監督は「日英合作のこの映画がロンドン映画祭で上映されることを誇りに思う。カズオ・イシグロさんをはじめ、イギリスのスタッフに再会できるのを心待ちにしている」と語っている。

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