■“いにしえのギャル”とは何が違う? 流行中の“じゃら付け”
マスコットやキーホルダーをじゃらじゃらと重ね付けする“じゃら付け”。なかでも街でよく見かけるのが、キャラクターなど推しのグッズをじゃら付けに盛り込んだスタイルだ。多くの人気キャラクターを抱えるサンリオでも、昨今はとくにマスコットホルダー(バッグ等に付けられるサイズ、形状のぬいぐるみ)の売れ行きが好調だという。
「マスコットホルダーの売上は、2年前と比較すると3倍以上の増加となっています。定番商品に加えて毎月複数の新商品が登場するなど、アイテムの数自体も増えていますが、そもそも1商品あたりの販売個数が伸びているのが現状です。季節限定の商品などは、瞬く間に売り切れてしまうこともよくあります」
そう教えてくれたのは、サンリオで商品開発に携わる森裕美子さん。巷でよく言われているように、じゃら付け人気を牽引しているのが2000年代前半のギャル文化の流れを汲むY2Kリバイバル。森さん自身も、リアルタイムを知る「”いにしえのギャル”でした(笑)」と振り返る。
「女子高生にケータイが普及し出した頃、持ち始めたばかりのケータイにギャルたちが大量のストラップを付け始めたのが平成のじゃら付けブームの始まりだったと思います。
今、幅広い年代の方がじゃら付けを楽しむようになったのは、やはりSNSの影響が大きかったのではないかと思いますね。私たちも商品そのもののかわいさはもちろん、SNS用に写真が撮りやすい、映えるような工夫を商品開発に盛り込んでいます。人気のミニサイズのマスコットホルダーのバッグにつける部分をハート型カラビナに変更したのも、よりかわいく、また複数付けなどアレンジできるようにという意図です」
森さんが証言するように、平成時代のじゃら付けブームの担い手は女子高生をはじめとする若い女性たちだった。しかし現代はかわいいものを愛でるのに「性別は関係ない」という考えがスタンダードに。じゃら付けとまではいかなくとも、キャラクターのマスコットホルダーをバッグやリュックに付ける男性も珍しくなくなっている。
「令和に入り、“男子/女子”の役割を押し付けられずに育った世代が若者~大人になり、男の子たちが変わったのを感じます。平成の頃はかわいいものを身につけているとからかわれる風潮もありましたが、今ではかわいいものを手に入れるきっかけも多くなり、買うのも恥ずかしがらなくなったように思います。男友だち同士でぬいぐるみを抱えて、サンリオピューロランドに来園される方もよくお見かけします」
たしかに、親世代の意識の変化による影響は大きいかもしれない。たとえばかつてランドセルも「男の子は黒/女の子は赤」が根強かったが、平成後期の2010年代に入ってからは個人の嗜好を尊重する風潮の高まりとともに「男の子がピンクのランドセルを持ってもおかしくない」と考える親も増えた。ジェンダーに縛られることなく「好きなものは好き」と言える風潮は、今後さらに一般的になっていくはずだ。
「ジェンダーはもちろん、年齢に縛られることなくかわいいキャラクターを愛でる風潮も一般的になりました。
■ブームの今「推しはひとりとは限らない」、じゃら付け用に複数買い
じゃら付けブームを追い風に、あらゆる属性に大人気となっているマスコットホルダー。定番商品のほか季節やイベントに合わせたデザインなど常時多数のラインナップが展開されており、選ぶ楽しさも魅力の1つとなっている。
「サイズもさまざま取り揃えています。特にミニサイズは価格が手頃で、じゃら付け用に複数買いしやすいと好評。推し活が盛り上がっているせいか、いまや推しはひとりとは限らないようですね。また、もともと16キャラクターで展開していたのですが、現在は36キャラクターに増やしたという経緯もあります。ミニサイズでは、あまり商品化されないレアなキャラクターも定番品として作っているので、『推しのコがいてうれしい!』という声をいただくこともあります」
ぬいぐるみと比較して安価なマスコットホルダーだが、細部まで手抜かりなく仕上げているのがサンリオクオリティだ。
「マスコットホルダーは、サイズが小さい分、こだわった仕様を盛り込むのが大変で。1つ1つのパーツが細かいために手作業も多いですし、小さいサイズだけにバランスよくかわいく仕上げるのも難しいんです。だからこそ一度お迎えしたコは長くかわいがっていただきたいです」
持ち歩きやすいサイズだけに、どうしても汚れがちなマスコットホルダー。ケアの方法について尋ねると、「今は推し活グッズもいろいろあるので、市販のぬいぐるみポーチを使っている方はよく見かけます」と森さん。
この夏は、こんがりと日焼けをした「トコナツバケーションデザインシリーズ」や、キャラクターの絵柄がプリントされた浴衣やお面をつけた「キャラ盛り夏まつり!デザインシリーズ」が人気を博したというサンリオのマスコットホルダー。これから新登場する秋冬テーマの商品も「ただでさえかわいいキャラクターが、さらにびっくりするほどかわいく映える衣装やデザインを企画します」と自信を滲ませる。
平成リバイバルや推し活など、さまざまな背景を持つじゃら付けやマスコットホルダーの流行。小さくて気軽に身に付けられるものだからこそ、新たな“好き”を見つけるきっかけになったり、少しだけ気分を盛り上げるアイテムになったりするだろう。かつては、「大人なのに子どもっぽい」「男の子なのに女の子みたい」「日本人は子どもっぽい」…などネガティブな見方もあったが、いまや好きなものを好きなように愛でられる時代。そんな変化は、街を行きかう老若男女、外国人のバッグを見るだけでも感じられるだろう。
(文:児玉澄子)
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