スティングが2年半ぶりに来日し、14日に東京・有明アリーナで公演を行った。会場は、前回と同じく東京・有明アリーナ。
この日、ステージに立ったのはスティングと、ドミニク・ミラー(ギター)、クリス・マース(ドラム)による3人編成のユニットだった。

 スティングは、まもなく74回目の誕生日を迎えるタイミングで来日。「Sting 3.0」として昨年春から取り組んできたこのプロジェクトを、東京でも披露する形となった。

 客電が落ちると同時にドミニクのギターが響き、クリスのドラムが重なり、スティングのベースが加わって、東京初日の1曲目「孤独のメッセージ」が始まった。最小限の楽器編成によるパフォーマンスながら、客席に伝わってくる音圧には凄まじいものがあり、どの音も芯が太く響いていた。

 ドミニクは1990年代半ばからスティングの創作活動に多角的に関わってきたギタリストで、ジャズからロックまでさまざまなスタイルを自然体で演奏できる相棒的存在だ。

 クリスはルクセンブルグ出身で、05年ごろからロンドンを拠点にスタジオやツアーでキャリアを重ね、パンデミックの時期にスティングと出会った。スティングは、彼の力強く表現力豊かなドラミングに刺激を受け、大きな可能性を感じて「Sting 3.0」への参加を決めたという。

 2曲目は、「Sting 3.0」としての最初のスタジオ録音作品であり、『3.0ライヴ』にも収められていた「アイ・ロート・ユア・ネーム(アポン・マイ・ハート)」。ボ・ディドリーを思わせるヘヴィなリズムが全編に貫かれたナンバーで、この3人による今後の活動の方向性を示しているようにも思える構成だった。

 この日のスティングは、丈の短い山吹色のTシャツに黒い細身のパンツとブーツというスタイル。Tシャツの右胸には緑色でヤシの木らしきものがプリントされており、使い込まれたプレシジョン・ベースともよく合っていた。


 以降、「ルーズ・マイ・フェイス・イン・ユー」「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」「マジック」と曲が続く。近年はヘッドセットスタイルのマイクを使用しているため、スティングはマイクスタンドの前に立つことなく、ステージ上を大きな歩幅で移動しながらオーディエンスと向き合った。

 その後はテンポを落とし、ドミニクのギターを大きくフィーチャーして「フィールズ・オブ・ゴールド」を披露。イングランド南西部の田園地帯、大麦畑の上を渡る風が感じられるような、穏やかな空気が会場を包んだ。この時点で印象づけられたのは、プロジェクト本格始動から1年半が経過し、スティングがこれまでの名曲群に対して“reimagine”を重ねてきた成果だった。『3.0ライヴ』収録の時点から、すでにバンドは何歩か先に進んでいるように感じられ、その感触を観客と共有しながら、次のステップを模索しているようでもあった。

 7曲目「ネヴァー・カミング・ホーム」では、ジミ・ヘンドリックスの「ヘイ・ジョー」のリフを取り込みつつ演奏。続く「マッド・アバウト・ユー」「アラウンド・ユア・フィンガー」「フォートレス・アラウンド・ユア・ハート」といったナンバーでは、スティングが情感豊かに歌い上げた。「世界は悲しすぎる」では、世界各地から届くニュースに対する怒りや悲しみ、喪失感をぶつけるように歌唱。ステージ後方のスクリーンには「PROTEST」の文字が映し出された。

 続いて「サウザンド・イヤーズ」「キャント・スタンド・ルージング・ユー」と進み、「シェイプ・オブ・マイ・ハート」では、ドミニクとの共作による一曲を披露。向かいあってギターを爪弾くうちに生まれたメロディに、スティングがトランプのカードをテーマに書いた歌詞をあわせた楽曲で、トリオによる演奏によってさらに魅力を増したように感じられた。


 そして、ポリス時代の「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」「ソー・ロンリー」がメドレーとして演奏され、ステージの照明やイメージが切り替わるなか、「デザート・ローズ」へと続く。この曲では、クリスのドラムが際立ち、ドミニクのギターがエフェクトを駆使して北アフリカの砂漠地帯を描き出していた。

 ポリスのアルバム『シンクロニシティ』からは「キング・オブ・ペイン」、そして「見つめていたい」を披露。スティングは最近の話題には触れず、3人は手を取り合って深く頭を下げ、一度ステージをあとにした。

 アンコールでは「ロクサーヌ」が演奏され、オーディエンスとの一体感ある盛り上がりに包まれた。ラストは「フラジャイル」。スティングがガット弦のアコースティックギターに持ち替え、ドミニクはエレクトリックギターのまま演奏を続け、今もなおこの曲が「この時代の世界に欠かせない曲」であること印象付けた。

 そして3人で再度のあいさつに向かおうとするスティングをよそに、すでにステージを下りていたメンバー2人。そんな和やかな一幕を残し、「Sting 3.0」東京公演は幕を閉じた。
編集部おすすめ