唯一無二の映像詩人レオス・カラックスの代表作にして最大のヒット作『ポンヌフの恋人』(1991年)が、4Kレストア版で12月20日より東京・ユーロスペースほか全国で劇場公開されることが決定した。公開に先駆けて、ジュリエット・ビノシュがセーヌ川で水上スキーに挑んだ伝説のシーンのティザー映像も解禁された。
4Kレストア版の監修を務めたのは、ゴダールやトリュフォー作品を手がけ、カラックスのデジタル時代移行を支えた撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエ。オリジナル35ミリネガを基に、監督自身の協力を得て最新の技術で修復された本作は、鮮やかな色彩と臨場感を取り戻し、まさに“新たに生まれ変わった”作品としてスクリーンに甦る。
本作は、ホームレスの孤独と恋を1カット1カット衝撃的なまでの映像と音で叩きつける強烈なインパクトの恋愛映画。物語の舞台は、パリ最古の橋「ポンヌフ」。天涯孤独で不眠症に苦しむ大道芸人アレックス(ドニ・ラヴァン)は、失恋の痛手と眼の奇病による失明の危機という痛みを抱えた画学生ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)と橋の上で出会い、恋に落ちる。
しかしこれは、美しい風景画のような恋愛ではない。アレックスは想いを告げられず、ミシェルは過去の初恋に囚われる。傷だらけの二人が激しく求め合い、ぶつかり合い、再生へと向かう――絵画に喩えるなら、美しい風景画ではなくエゴン・シーレの歪んだ人物像やジャクソン・ポロックの抽象絵画のような非凡なスタイルで描かれた“激情”の映画だ。
本作は難産だったことで知られている。パリ市からポンヌフ橋を借り切って撮影に入る直前、主演のドニ・ラヴァンの思わぬケガで撮影中止に。再度の許可は下りず、夜間シーン用だったモンプリエ郊外ランサルグのセットをフランス映画史上最大のオープンセットにしてポンヌフ橋を再現。しかし底なしの資材と長期の人件費で2つのプロダクションが破産、製作は中断し強風でセットも倒壊、製作費は膨らみ続け、混迷を深める状況をマスコミがスキャンダラスに書き立て、「呪われた映画」とまで呼ばれた。
先行きが危ぶまれる中、カラックスは『ポンヌフの恋人』が完成させるに値する映画だと証明するため、映画監督のスティーブン・スピルバーグやフィリップ・ガレルら映画監督や文化人を試写室に呼び、未編集のフィルムを上映。スティーブン・スピルバーグは後に「この映画には激しさや美しさ、想像力があふれている!」と称賛。他にもラッシュを見て感動した参加者から映画の完成を望む多くの声が寄せられた。
賛同者の後押しを受け、最終的には『カミーユ・クローデル』のプロデューサー、クリスチャン・フェシュネールが製作を引き受け、日本からもカラックスの盟友・堀越謙三(ユーロスペース代表)による出資で完成に至った。製作費はセットだけで6億円近く、合計30億円を超えた。
日本では1992年の初公開時、東京・渋谷のシネマライズで27週にわたるロングランを記録し、社会現象とも言える熱狂を巻き起こした。あれから30年以上の時を経て、再びスクリーンに蘇る『ポンヌフの恋人』。今、この時代にこそ観てほしい、映画史に刻まれた魂の愛の物語だ。
■名匠たちが語った『ポンヌフの恋人』への賛辞
「ラッシュ映像からは強い印象を受けた。とぎれることのないイメージの連続に圧倒された」―― アンリ・アルカン(撮影監督)
「この映画は灰の温もりを残した、傷ついた映画であり、再び火を灯すべき作品である」―― ジャン・ルーシュ(映画監督)
「映画愛によって、こんなにも美しい作品を作る必要性と緊急性を、今なお信じている若者がいることを喜ぶべきだ」――フィリップ・ガレル(映画監督)
*出典「レオス・カラックス 映画の二十一世紀へ向けて」(著:鈴木布美子/筑摩書房)
4Kレストア版の監修を務めたのは、ゴダールやトリュフォー作品を手がけ、カラックスのデジタル時代移行を支えた撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエ。オリジナル35ミリネガを基に、監督自身の協力を得て最新の技術で修復された本作は、鮮やかな色彩と臨場感を取り戻し、まさに“新たに生まれ変わった”作品としてスクリーンに甦る。
本作は、ホームレスの孤独と恋を1カット1カット衝撃的なまでの映像と音で叩きつける強烈なインパクトの恋愛映画。物語の舞台は、パリ最古の橋「ポンヌフ」。天涯孤独で不眠症に苦しむ大道芸人アレックス(ドニ・ラヴァン)は、失恋の痛手と眼の奇病による失明の危機という痛みを抱えた画学生ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)と橋の上で出会い、恋に落ちる。
しかしこれは、美しい風景画のような恋愛ではない。アレックスは想いを告げられず、ミシェルは過去の初恋に囚われる。傷だらけの二人が激しく求め合い、ぶつかり合い、再生へと向かう――絵画に喩えるなら、美しい風景画ではなくエゴン・シーレの歪んだ人物像やジャクソン・ポロックの抽象絵画のような非凡なスタイルで描かれた“激情”の映画だ。
本作は難産だったことで知られている。パリ市からポンヌフ橋を借り切って撮影に入る直前、主演のドニ・ラヴァンの思わぬケガで撮影中止に。再度の許可は下りず、夜間シーン用だったモンプリエ郊外ランサルグのセットをフランス映画史上最大のオープンセットにしてポンヌフ橋を再現。しかし底なしの資材と長期の人件費で2つのプロダクションが破産、製作は中断し強風でセットも倒壊、製作費は膨らみ続け、混迷を深める状況をマスコミがスキャンダラスに書き立て、「呪われた映画」とまで呼ばれた。
先行きが危ぶまれる中、カラックスは『ポンヌフの恋人』が完成させるに値する映画だと証明するため、映画監督のスティーブン・スピルバーグやフィリップ・ガレルら映画監督や文化人を試写室に呼び、未編集のフィルムを上映。スティーブン・スピルバーグは後に「この映画には激しさや美しさ、想像力があふれている!」と称賛。他にもラッシュを見て感動した参加者から映画の完成を望む多くの声が寄せられた。
賛同者の後押しを受け、最終的には『カミーユ・クローデル』のプロデューサー、クリスチャン・フェシュネールが製作を引き受け、日本からもカラックスの盟友・堀越謙三(ユーロスペース代表)による出資で完成に至った。製作費はセットだけで6億円近く、合計30億円を超えた。
日本では1992年の初公開時、東京・渋谷のシネマライズで27週にわたるロングランを記録し、社会現象とも言える熱狂を巻き起こした。あれから30年以上の時を経て、再びスクリーンに蘇る『ポンヌフの恋人』。今、この時代にこそ観てほしい、映画史に刻まれた魂の愛の物語だ。
■名匠たちが語った『ポンヌフの恋人』への賛辞
「ラッシュ映像からは強い印象を受けた。とぎれることのないイメージの連続に圧倒された」―― アンリ・アルカン(撮影監督)
「この映画は灰の温もりを残した、傷ついた映画であり、再び火を灯すべき作品である」―― ジャン・ルーシュ(映画監督)
「映画愛によって、こんなにも美しい作品を作る必要性と緊急性を、今なお信じている若者がいることを喜ぶべきだ」――フィリップ・ガレル(映画監督)
*出典「レオス・カラックス 映画の二十一世紀へ向けて」(著:鈴木布美子/筑摩書房)
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