本作は、フランスで初登場新作1位を獲得、2022年に日本でも公開されヒットしたフランス映画『パリタクシー』が原作。
タクシー運転手の宇佐美浩二は、ある日85歳の高野すみれを東京・柴又から、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。人生の終盤を迎えたすみれは、「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」と浩二に頼み、幼少期から現在まで人生のターニングポイントとなった思い出の場所を寄り道することに。
タクシーで旅を共にするうち次第に心を許したすみれは、初対面の浩二に、喜びと悲しみを織り交ぜた壮絶な人生を語り始める。そんな“たった一日の旅”が偶然出会った2人の心、そして人生を大きく動かしていく―。
解禁されたシーンでは、夕焼け空が広がるベイブリッジを渡るタクシー車内でのすみれと浩二のやりとりが映し出されている。壮絶な過去を振り返りながら涙を流すすみれに対し、浩二が「いま生きているから、この景色を見ることができるんです。死ななくて良かったんだ、すみれさんは」と優しくも力強く語りかけると、すみれは「そうね。あなたにも会えたんだものね」と涙をぬぐう。
そんなすみれと浩二を演じるのは、本作で70作目の山田組参加となる倍賞と、『武士の一分』以来の参加となる木村。2004年公開のスタジオジブリ映画『ハウルの動く城』でソフィー役とハウル役の声優として共演して以来、20年以上の時を超えついに実写映画での初共演。劇中ですみれと浩二が距離を縮めていくのと同様に撮影を重ねるごとに親しくなっていき、撮影の後半では美味しいお店をお互いに教え合ったり冗談を言い合ったりとすっかり打ち解けていたという。
そんな2人が撮影期間中もっとも長い時間を過ごしたのが、山田組が本作で初めて取り入れた「バーチャルプロダクション」という、タクシーの周りを取り囲むように立つLEDウォールに車窓の風景が映し出される撮影技法が使用されたスタジオセットだ。LEDウォールに流れる車窓の風景に合わせて木村はウィンカーを出したりハンドルを回したりしなければならず、さらに話し相手の倍賞は後部座席に座っているので表情や身体の動きはほとんど見えないという難易度の高い撮影となった。
しかし「タクシー車内という密室なので、倍賞さんが演じるすみれさんが斜め後ろに座ってらっしゃっても、声の波長から『悲しくて辛いことを話しているな』とか、言葉では突き放した言い方をしているけど『これは笑いながら言っているな』というのは手に取るように伝わってきました。実際に相手の目を見ながら芝居をするのとは少し違いましたが、顔が見えなくても心が向き合っていたので気持ちも伝わりやすい空間でした。なので『ハンドル握ったままで芝居なんて…』というネガティブな感情はまったくなかったです」と手応えをみせる。
倍賞もまた「空中で心のキャッチボールができていましたよね。でも木村さんはほんと大変だったと思いますよ。映像に合わせて運転して、時々バックミラーで私を見て、道が曲がる映像に合わせてハンドルを切って、車も停めなきゃいけない。その中で、私もバックミラーに映っている木村さんの目を見ながら、気持ちが飛んでくるのを感じ取っていました。山田監督もよく言う“キャッチボール”が上手くできたと思います」と語り、心で通じ合うかのように演技を交わしたタクシー車内での会話シーンに自信を見せている。
俳優としての長年の経験を持ち山田組には欠かせない存在である倍賞と、幅広い役柄の数々で観客を魅了してきた木村の信頼関係が生んだ、タクシーという狭い舞台の中で交わされる2人の会話劇にも注目だ。
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