11月26日・27日に横浜アリーナで卒業コンサートを開催し、乃木坂46を卒業した久保史緒里(24)が、これまでの人生を赤裸々につづった初めての書き下ろしエッセイ『LOST LETTER』(幻冬舎)を16日に発売した。これまで“アイドル”として生きてきたからこそ、語られてこなかった“あのとき”の心情、“あのひと”への想い。
久保自身が、“久保史緒里の24年間”と向き合った回顧録であり、1冊の「手紙」だ。

 取材時、卒業コンサートを終えて2週間、すでに「アイドルが抜けきった」という久保。この本を執筆するにあたっての経緯や、執筆中の感情をひも解き、赤裸々すぎる過去をつづった理由に迫った。【前・後編の前編】

■本書がハードスケジュールで制作された理由「この期間じゃなきゃ書けない」

――卒業コンサートお疲れ様でした。1日目と2日目の間に久保さんにとっての『乃木坂46のオールナイトニッポン』最終回の生放送をはさむという普通では考えられないスケジュールでした(笑)。

【久保】びっくりしますよね。私もなんでできたのか分からないです(笑)。

――そんなハードスケジュールを感じさせない素晴らしい卒業コンサートでした。

【久保】ありがとうございます。

――卒コンの準備もある中、この『LOST LETTER』も普通では考えられないスケジュールで制作されたとお聞きしました。

【久保】そうですね…(笑)。卒業発表の少し前に動き出して、本格的に書き始めたのは卒業発表直前に行った屋久島の旅くらいからでした。
卒業に対して、いろんな相談事をしていく中、その佳境のタイミングで、「実は本を出したいんです」と言い出してしまって。前から、いつか出したいとは話していたんですが、直前に改めてお伝えしたら、それをかなえていただきました。

――文章を書き溜めていたわけではなかった?

【久保】最初から“手紙”をテーマにしようと決めていたわけでもなくて。本を作るにあたって、今までのことを包み隠さずに…といっても“包み隠している”つもりもなかったんですけど、これまで特に理由はなくとも言わずにいた部分というか、それを残しておきたいって思ったので、制作チームのみなさんにまず、今まで書いてきた手紙を全部持っていったんです。(後日、屋久島で燃やした)手紙を150通(笑)。

そんなの衝撃じゃないですか。「それはなんだ?」ってなったんですけど、それを見ていただいた結果、テーマが“手紙”に決まりました。

――そうして、卒業直前の2ヶ月という短いスケジュールで一から17通の手紙を書きつづったわけですね。

【久保】正直、無知ゆえの無礼であり、怖さでもあるんですけど、この期間じゃなきゃ書けないと思ったんです。当時のまま書いていたら、苦しいとか、現状の不満ばかり書いていたと思う。でも、卒業間近になって書くことによって客観視できるんですよ。客観視すると、実はそうではなくて、その裏には自分の足りなかった部分とか、この時の自分がどうしてこういう状況に置かれていたかっていうことを冷静に見て、言葉にできると思ったので、この2ヶ月という短い期間で書かせていただきました。


■トラウマを背負っていた時期も「それを全部置いていく生き方に」

――読ませていただきましたが、正直、すごく衝撃的な内容もありました。

【久保】多分ラジオが大きいきっかけなんですけど、「これは言わないでおこう」みたいな考えがあまりなくて。私が“やめておこう”と嗅覚を働かせるのは、グループを守る時だけでした。ほとんどの内容が、振り返った時に「そういえば言ってなかったな」くらいライトな感じ。自分の中に残っている“アイドル”として必要だった要素を全部外に出してから卒業したいって考えた時に眠っていたものたち、という感覚なんです。

――そうやって一気にこの2ヶ月という期間で24年間を振り返ったわけですが、書いているときの心境はどんなものだったのでしょうか。

【久保】めちゃくちゃ俯瞰して書きましたね。私は自分のことをすごくネガティブな人間だと思っているんですけど、その割に過去の出来事をすごく切り離して考えられる側面もあると思っていて。私もトラウマを背負っていた時期があったんですが、いつからかそれを全部置いていく生き方になったんです。それはもう過去の自分をどこか他人のように見てるっていうか。だからこれを書きながらも、思い出してしんどいみたいなことはありませんでした。

――書きながら泣くこともなかった?

【久保】意外となかったですね。


■ファンへエッセイを届ける怖さも…「アイドルとして優等生ではなかったのかも」

――先ほど“トラウマ”の話も出てきましたが、2018年に一時休業していたときのことを振り返る場面では、ある要因から当時メンタルが不安定になり、それによって起きてしまった症状、そして休業に至るまでの理由が詳細につづられていたり、赤裸々すぎるほどに過去を明かされています。ご自身と改めて向き合われた結果だと思うのですが、ファンの方がこれを読まれるときのことは想像されましたか?

【久保】しましたね…だから、ちょっと怖いですよ。私の中では「そういえばこんなことあったな~」という感覚なんですが、ファンの方とどれくらい差があるんだろうって。応援してくださっていた方たちは知っている出来事のお話ですけど、そのとき私がどんな心情だったかっていうところまでは、“アイドルとして必要だと思ったから”たぶん話さなかった。話さないということが必要だと思って、その当時は話さなかったっていうことたちを、言うならば、ピリオドを打ちたいという私のわがままで、本っていう形にしてしまった。だから、これを受け取られる方はどう思うんだろうっていうのは、すごく考えました。そのうえで、これは届いてからしか分からないなって。

――そんな葛藤があったんですね。

【久保】ありましたね。だから最後に思ったのは、私はアイドルとして優等生ではなかったのかもしれない。アイドルとしての“言わない美学”、“見せない美学”に、もしかしたら反しているかもしれないということです。でも、『卒業コンサート』はその美学を徹底的に貫きました。
こういう意図でこういう演出をしましたっていうのをあえて言わないようにしたのもそれが理由です。本にも書いていますが、“アイドル・久保史緒里”と“久保史緒里”を分けていたっていうのは、最後までそうでした。

――「私の中にいたアイドルの私は、もうこの世には存在しません。」という一文もありました。この本が卒業後に発売されたということにも、久保さんなりの意味があるような気がしています。

【久保】卒業コンサートに“アイドル・久保史緒里”を全て置いてきた感覚はあります。今はもう、自分の感覚的にはアイドルは100%抜けています(笑)。卒業コンサートの映像は何回も見返しているんですけど、見れば見るほど自分が他人に見えるというか。この感覚になっている時点でもう抜けきっているし、あの頃に戻りたいとも思わない。自分の中で本当にこれ以上ないっていう締めくくりができたので、後悔もない。今はもう完全に“久保史緒里”として生きている感じがしますね。

▼『LOST LETTER』概要

久保の部屋にはトップアイドルとして生きてきた9年間につづった、けれども渡せなかった、約150通の手紙があった。卒業発表直前の短い夏休みに、久保は訪れた屋久島でその手紙たちを燃やすことにした――。
その旅の道中や縄文杉への登山で去来した思いをつづったエッセイと「嫌われたくない人間」であると自覚する久保が、読者に宛ててのその人生経験を凝縮して書き下ろした「17通の手紙」からなる1冊だ。

幼い頃から卒業を目前に控えた現在に至るまでを振り返るロングインタビューに加え、手紙を手放した屋久島の夜と、手紙をつづってきた自宅で撮影した貴重な写真も収録されている。

【著者プロフィール】
久保史緒里(くぼ・しおり)
2001年7月14日生まれ。宮城県出身。16年に三期生として乃木坂46に加入。22年「乃木坂46のオールナイトニッポン」2代目パーソナリティに就任。23年写真集『交差点』を発売。ドラマ『どうする家康』『落日』『あんぱん』や、映画『ネムルバカ』『ほどなく、お別れです』『恒星の向こう側』など、俳優としても活躍。25年11月、乃木坂46を卒業。
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