妊娠20週のころ、お腹の中の赤ちゃんに「単心室」と呼ばれる、正常に機能する心室が一つしかない病態があることが判明。生まれた千香ちゃんは、出生後の検査でも次々と病気が明らかになった。
治療の一つとして選択したグレン手術はうまくいかず、「低酸素脳症」(脳に十分な酸素や血液が届かず、脳が損傷を受ける状態)に。324日間に及ぶ入院生活を経て、今を生きる千香ちゃんと家族の激動の1年とは。発信者である千香ちゃんのお母さん(@chika.08180509)に話を聞いた。

■出生前から後まで次々と診断される病気に放心…「今思うと現実逃避をしてた」

――妊娠20週のころ「単心室」と診断された際、当時どのように受け止められたのか、差し支えない範囲で教えていただけますか。

「病気が分かった時は放心してしまいましたが、大学病院で専門の先生に見てもらった時に『今の医学なら死んでしまうような病気ではない』と言われ、その言葉を支えに妊娠生活を過ごしました」

――出生後の精密検査で「共通房室弁」や「大動脈狭窄」など新たな病気が複数分かったとのことですが、初めて聞く情報に触れた際、どのように整理されていったのでしょうか。

「聞いたこともない病気の名前で分からなすぎて、逆にボケっとしていました。検索しても、いまいち出てこなくて。今思うと現実逃避していたんだな、と反省しています」

――生後2ヵ月で退院された時は、どんなお気持ちや考えがありましたか。

「赤ちゃん可愛いー!!!といった感情のみで過ごしていました。2ヵ月の千香ちゃんの入院は、私の体を回復させてくれる時間でもあり、娘を自分で育てたい!という気持ちが高まりすぎていたので、とにかく幸せでした」

――お腹にいたころから悪阻が重かったことなどお母さま自身の苦労もあったとのことですが、当時の状況や心境についてお話しできる範囲で教えて下さい。

「悪阻が辛すぎて、今が辛くないと思えるくらいだったので…思い出したくもないです。悪阻が無ければあと3人くらい生みたかったです」

――「単心室」の治療として「グレン手術」を選ばれ、約11時間の大きな手術だったとのことですが、手術待機中のことを振り返って、覚えていることなどがあれば教えて下さい。


「病院についている宿泊施設で夫と待機していたのですが、私は寝ていました。家で待機する実母からは“なんでそんな時に寝れるの!?”と言われましたが、本当は、眠くなるタイプの花粉症の薬を飲んでやり過ごそうと思って飲んでいました。ダメな使い方ですよね。大丈夫ですかね」

――大手術を終え、千香ちゃんが戻ってきた際に「胸を開けたまま帰ってきた」というあまりの衝撃に直視することができなかったとnoteでも記載されていましたが、当時どのように受け止められたか、可能な範囲で教えていただけますか。

「ICUの先生に大丈夫、元の千香ちゃんに戻る。と言われたので素直に信じていました。私は良くも悪くも素直すぎるんですよね。でも息をしていたので、とりあえず“生きててくれて良かった”という安心はありました」

■未来や過去へ意識を向けるのではなく「“今“の千香ちゃんを大事に育てたい」

――グレン手術後に「低酸素脳症」と分かったとき、どのように状況を理解していかれたか、差し支えなければ教えてください。

「理解すると言うより、気持ちも追いつかずただダラダラ時間が流れて行ったと言いますか…ICUから中々出られず、とにかく早く家に連れて帰りたかったです」

――小さいうちから次々と生じる試練を見守る中で、「なぜ私の娘が…」という戸惑いや悔しさなど、複雑な感情が生まれることもあったかと思います。そうした気持ちとどのように向き合ってこられたのか、また、これまでの治療や厳しい現実に向き合う中で、医師や周囲の方の言葉など、特に印象に残っている言葉やお守りとなっている考え方があれば、お話しできる範囲で教えてください。

「なぜ私の娘が…とは思いません。じゃあ他の子ならいいの?ということになってしまうので。
この世から全ての病気が消えろ!とは思いますが。色々考えてももう起きてしまっていることなので、そんな事も起きるよね、人生は。という“演歌”のような気持ちです。
 特に宗教を信仰している訳では無いのですが、ブッタの<過去を追ってはならない。未来を期待してはならない。今日、まさになすべきことを熱心になせ。>という言葉が好きでお守りにしています。寿命が縮んでしまった娘の未来を考えたり、笑いあった過去を思い出して悲しむくらいなら今の千香ちゃんを大事に育てたいと思いました」

――324日の入院生活を終え、現在千香ちゃんはご退院されているそうですが、現在の千香ちゃんのご様子やお母さまの心境など教えてください。

「落ち着いて生活しています。訪問看護や訪問リハなどバタバタはしていますが、気持ち的には落ち着いています。ただただ千香ちゃんが可愛くて驚いています」

――千香ちゃんにはどのように育ってほしいですか?また、同じように病気や障がいと向き合うご家庭へのメッセージがあればお願いします。

「千香ちゃんには、なるべく長く生きてほしいです。
SNSなどでは差別的な言葉や目を向けられることもありますが、実際は優しい人の方が多いので、そっちに目を向けてお互い頑張って生きていきましょう」
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