■婚活サイトに登録した加工写真に「誰やねんお前」、控えめ女性のリアル心境
コミックシーモアの2025年度6月期『毎月マンガ賞』で金賞を受賞し、連載をスタートした『うらはらマリッジ』が、早くも注目を集めている。作者は、27歳の女性が17歳に戻るタイムリープを描き、ドラマ化もされた『青春シンデレラ』で知られる夕のぞむ先生。今作でも30歳前後の女性を主人公に据え、婚活という現代的なテーマを扱いながら、「結婚への焦燥」「恋愛への不安」といった等身大の感情に向き合っている。
婚活をテーマにした作品というと、強い結婚願望を実現するために前のめりになった女性をイメージしがちだが、『うらはらマリッジ』の主人公・亜矢(アヤ)は、地味で何の取り柄もない自分をどこかに収めるように婚活へと踏み込む消極的な女性。サイトに登録した自分の加工写真と現実とのギャップに、思わず「誰やねんお前」とツッコミをし、せっかくの待ち合わせから逃げ出そうとするあたり、控えめな婚活女性のリアル感たっぷりだ。
しかも、婚活サイトのゲームの中で出会ったのは、「結婚なんてしないで俺と一生遊んで?」と微笑むイケメン男性・碧(アオイ)。自分に自信が持てない亜矢は、なぜ自分は結婚をしたいのか? 自分勝手な碧の言葉をどう受け止めるべきか? と悩むことに。
婚活マンガには実体験モノも多いが、本作は微妙な恋心とともに、「結婚とは?」の問いかけも内包しているよう。地味だが実はテキパキしていて、自虐も面白い亜矢。
──6月の毎月マンガ賞で金賞を受賞。あらためてお気持ちを聞かせてください。
「事前にご連絡はいただいていたんですが、正直、本当に大丈夫なのかな、という気持ちがずっとあって心配していたんです。身内にその話をしたら、『金賞ってこれじゃない?』と賞の画像を送ってきてくれて、そこで初めて賞金の額を知って(笑)。その瞬間に急に現実味が出てきて、再びびっくりして本当にいいのかと心配になりました」
──ご自身で応募したそうですが、どんなきっかけが?
「以前の連載が終わってから、しばらく自分の原稿は描かずに、ずっとアシスタントをしていたんです。背景を描くのが好きなので作業自体は楽しかったんですが、自由に描けるわけではないんですよね。そういう期間が続く中で、『やっぱりマンガを描きたい』『久しぶりに描いてみようかな』という気持ちが出てきました。どうせならネームで終わらせずに最後まで原稿を描き切りたいと思い、賞にチャレンジしたんです」
──誰かに見てもらう前提で描くことが、応募に繋がったんですね。
「はい。
■「とりあえず結婚しなきゃ」、追い詰められた地味なアラサー女性
──前作『青春シンデレラ』は高校時代にタイムリープしてリベンジするものの、元は27歳の女性が主人公。そして今作でも、地味でもの静かな30歳前後の女性が主人公です。何かこだわりがあるのでしょうか?
「その年代って、一番微妙な年齢だと思うんです。20代のような若さで割り切れるわけでもないし、40代くらいのように安定しているわけでもない。結婚している人も、していない人も、それぞれに不安を抱えながら生活している年齢だと思います。今作の主人公・亜矢は、30歳を目前にそういう不安の中で生きている人。『とりあえず結婚しなきゃ』と追い詰められ、婚活に踏み込んでいく。でも、他の人たちのように気軽に動いていけないんです。
──夕先生の中で、婚活にはどのようなイメージがありますか?
「婚活自体は、まったく悪いことだとは思っていません。ただ、私はマンガを描くときに『恋愛とは何か?』を考えるところがあって。スペックから入る感覚や、『結婚のために相手を探す』ってどういう感覚なんだろう? という疑問はありました。婚活に関しては、知人から聞いた話や婚活ブログ、エッセイなどを読んで参考にしています。だからこの作品も、否定ではなくて、疑問があるからこそ学びながら描いている、という感じなんです」
──亜矢が婚活サイトに登録しながらも、その中のゲームに夢中になることから物語は始まっています。第1話の冒頭2ページから3ページにかけての、ゲーム世界のファンタジーと現実の対比が印象的でした。
「正直に言うと、あの対比を描きたかったのが一番最初の気持ちです。ゲームの中では輝いているのに、現実は…というギャップ。その絵を描きたかった。そこから30歳前後の不安や、婚活の話が後からついてきた、という感覚に近いんですよね」
──なるほど。亜矢の心情や置かれた環境は、先生ご自身と重なる部分も多いですか?
「そうですね。私は人見知りで、シーモアの編集さんに初めて会うときも本当に怖かったくらい、ものすごく緊張していました(笑)。
──それに対して、ゲームを通して仲良くなる碧はイケメンなうえに自由奔放で、かなりクセのある人物ですよね。
「碧は過去にいろいろあって、少し歪んでしまった人、という設定です。外見が整っていて、自由な性格は元々なんですが、そこに過去の出来事が重なっている。モデルというほどではないですが、ドラマ『相棒』で及川光博さんが演じた神戸尊役の、ナルシストで掴みどころのない感じはイメージとして少し入っているかもしれません(笑)」
■地味でも不幸ではない人生、結婚で埋めようとする不安…「でも、本当にそのままでいいのか?」
──今後、連載を進めていくにつれ、亜矢と碧にどんな変化を期待していますか?
「碧には、心を閉ざしている部分を少しずつ開いていってほしいです。亜矢は今のところ、『とりあえず結婚しなきゃ』と思い詰めて、無意識に自分を抑え込んでいます。これまで地味に生きてきて、別に今も不幸ではない。でも、本当にそのままでいいのか? というところに気づくきっかけになればいいなと思っています」
──先生ご自身も、人との出会いや何かのきっかけで、自分が大きく変わった経験はありますか?
「私は連載前に会社勤めをしていたんですけど、やっぱり会社に入ったことで変わった気がします。今も大人しいままではあるんですが、臆せずにしゃべれるようになったというか。働くことで、色々なことを自分の中だけで収めたりすることがだいぶ少なくなりました」
──亜矢に自分を重ねる人は多いと思います。そんな読者の方に伝えたいことは?
「心の中で本当は夢や願望があっても、今がそれなりにうまくいっていれば、叶えなくてもいいかなと考えてしまうこともあると思うんです。私もそういうところがあるのですが、亜矢も不幸ではなくて、どこか感じる不安を誰かとの結婚で埋めようとしています。
(文:川上きくえ)
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