NHK会長を務めた稲葉延雄氏が、任期満了により24日をもって退任した。21日には、定例記者会見に出席し、任期3年間の所感を語った。


 稲葉氏は、就任時を振り返るとともに、「私はこの3年間を通じて、高い志と少しの努力さえあれば、放送業界に関する専門知識を持っているか否かに全く関係なく、道は拓けるということを証明できたのではないかと考えています。一連の施策を通じてお示しした『新しいNHK像』は、歴代の取り組みとはひと味もふた味も違うユニークなものになったのではないかと、ひそかに自負しています」と総括。

 また、昨年大みそかの『NHK紅白歌合戦』にも触れた。「昨年の『紅白歌合戦』では、日本を代表するアーティストの方々が、ベテランも若きも思いのたけを熱唱していただきました。その中で私が感動したことがあります。それは、若い世代の人たちが『この不確実な世界であっても大きく世界に羽ばたきたい。不確実な世界であっても未来に向かって歩いていこう』と、実に頼もしいメッセージを世界に向けて発信していたことです。そして、そのポジティブなメッセージが、歌を通じて世界中の若者から支持されているという事実です。NHKとしても、こうした人々を勇気づけるメッセージを届けていかなければならないと改めて感じました」と語った。

 今後のNHKについては「容易な目標ではありませんが、今後も皆さんに「さすがはNHKだ」と満足していただけるような番組やコンテンツを提供することによって、日本や世界の健全な民主主義の発展に貢献し続けていってほしいと心から願っています」とし、「3年間、本当にありがとうございました」と感謝を伝えた。

■会見要旨 冒頭発言(全文)
稲葉会長(肩書は当時)
本日が会長として最後の定例会見となりますので、3年間の任期を振り返って総括的な所感を申し上げたいと思います。3年前に会長に就任が決まった際に、私が真っ先に考えたのは、NHKが視聴者・国民の皆さんから何を期待されているかということです。
公共放送として何をなすべきか、その原点から問い直す必要があると考えました。放送法などをふまえて私が出した答えは、「日々の生活を支える正確な情報」や「暮らしを彩る良質で豊かな番組・コンテンツ」を届ける、これに尽きるのではないかというものでした。新たな施策や取り組みであっても、この一点に資するものでなければならないと考えて、一つ一つ整理整頓をしてきました。また受信料値下げに伴い1300億円規模の経費削減を図りつつ、収支均衡の道筋をつけるという課題も大きなものでした。物価高騰の折、少しでも視聴者のご負担を軽減したいという目的でしたが、コンテンツ制作を命とするNHKにとって、その担い手である職員の人件費を削るべきでないと判断しました。むしろベースアップを実施することで現場を応援しました。その代わりに、設備投資や建設投資資金については、実施を後ずれできるものは後ずれさせ、技術革新の成果を利用して経費を節約できるものは節約することにして、2027年度の収支均衡をおおむね確かなものにすることができたと考えています。

就任当初、最も深刻に感じましたのは、それまでの急激な改革の影響で、組織内に若干のほころびが生じているという指摘があったことです。そこで、まず「改革の検証と発展」を掲げて、人事制度を中心に必要な手当てを急いで行いました。就任から半年ほどで一定の対応はできたという手応えを得ましたので、それ以降は「真の公共放送」としてなすべきことをしっかり前に進めていくという姿勢で、経営の舵取りを行ってきたつもりです。こうした思いに役職員が共鳴・賛同して、一丸となって取り組んでくれた結果、この3年間で「真の公共放送」として大きく前進することができたのではないかと感じています。とりわけ、昨年10月からのネット必須業務化と、それに伴うNHK ONEのスタートは、放送だけでなくネットの世界でもNHKの正しい情報、確かなコンテンツを届けることで、ネットを含む情報空間の偏りや歪みを是正する「情報空間の参照点」としての積極的な役割をみずから果たすということをお約束しました。
その意味で、NHKにとっては歴史的で大変意義深い一歩になったのではないかと感じています。放送・通信を通じて社会の進歩と発展に貢献していく。そしてその結果として健全な民主主義の発展に寄与していく。そうした「真の公共放送」としての高い志を大切にして、この3年間、誠心誠意取り組んでまいりましたが、役職員全員が結束して前進し、大きな成果を得ることができたのではないかと、大変喜ばしく充実した気持ちです。新聞などの論調には「NHKは公共放送としての責務をどう担うのか」とか、「ネット情報空間への参入でどう責任を果たすのか」と問うものがあります。私は、こうしたご指摘に真摯にお答えしたいと考えてやってまいりましたが、いま述べたとおり、この3年間の仕事を通じて、この2点ともくっきりした回答を提示させていただいたつもりです。

また就任当時、「外部からやってきて何も分からず、何ができるのか」という、私にとっては聞き流すことができないコメントを頂戴したことを、はっきり覚えております。私はこの3年間を通じて、高い志と少しの努力さえあれば、放送業界に関する専門知識を持っているか否かに全く関係なく、道は拓けるということを証明できたのではないかと考えています。一連の施策を通じてお示しした「新しいNHK像」は、歴代の取り組みとはひと味もふた味も違うユニークなものになったのではないかと、ひそかに自負しています。

昨年の「紅白歌合戦」では、日本を代表するアーティストの方々が、ベテランも若きも思いのたけを熱唱していただきました。その中で私が感動したことがあります。それは、若い世代の人たちが「この不確実な世界であっても大きく世界に羽ばたきたい。
不確実な世界であっても未来に向かって歩いていこう」と、実に頼もしいメッセージを世界に向けて発信していたことです。そして、そのポジティブなメッセージが、歌を通じて世界中の若者から支持されているという事実です。NHKとしても、こうした人々を勇気づけるメッセージを届けていかなければならないと改めて感じました。NHKのさまざまな番組やコンテンツを通じて、ハイハイを始めた赤ちゃんには「元気に育て」、若い人たちには「その調子で頑張れ」、シニアの方々には「いつまでもお健やかに」などと呼びかけるような、国民各層の応援団でありたいと思います。

井上次期会長をはじめとする新執行部には、高い志を持って、引き続き視聴者・国民の期待に応えていってほしいと考えています。容易な目標ではありませんが、今後も皆さんに「さすがはNHKだ」と満足していただけるような番組やコンテンツを提供することによって、日本や世界の健全な民主主義の発展に貢献し続けていってほしいと心から願っています。3年間、本当にありがとうございました。
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