1980年に登場した『パックマン』が、45周年を迎えた。いまや日本のコンテンツやキャラクターが、アニメやゲームの枠を超えて世界を席巻する中、国内IPビジネスの原点ともいえる作品である。
日本ではZ世代を中心に、「平成レトロ」ブームの真っ只中、『パックマン』もひと括りに“懐かしい存在”として受け取られ兼ねない。長く続いてきたIPとしての課題や、欧米をはじめ、中東などでも独自の文化を形成している『パックマン』の海外人気について、バンダイナムコエンターテインメントの担当者に話を聞いた。

◆ポケモンやドラゴンボールと肩を並べ、欧米ではカルチャーアイコンの『パックマン』

 昨年11月にニューヨークで開催されたアメリカ最大級の伝統的なパレード『Macy’s Thanksgiving Day Parade』では、ポケモンやドラゴンボール、ONE PIECE、スーパーマリオブラザーズなどと肩を並べ、『パックマン』がパレードに参加した。1924年から続く同イベントは、単なるパレードの枠を超え、アメリカの「ホリデーシーズンの幕開け」を告げる国民的な象徴となっている。これは『パックマン』が長年に渡り、北米のカルチャーに根づいてきた存在であることを象徴する出来事であり、国民的人気キャラクターの一員として受け入れられていることが実感できる瞬間でもあった。

「北米では、ダイナーやゲームセンター、家庭のプレイルームなど、身近な生活空間に筐体があり、子どもの頃から『パックマン』に触れる文化がありました。その原体験が現在まで続く人気の土台となっていて、今なおカルチャーアイコンとして生き続けています。そうした長年の積み重ねが、『Macy’s Thanksgiving Day Parade』での存在感につながっているのだと思います」

 『パックマン』は、ゲームキャラクターを軸にライセンスビジネスを本格的に世界展開した先駆けでもある。キャラクターやビジュアル、世界観を開放し、ゲームという枠を越えたビジネス領域を切り拓いてきた。前述のパレードに名を連ねたIPのいまがあるのも、『パックマン』の存在は大きい。

「『パックマン』の事例は、ゲームキャラクターがIPとして機能することで、ビジネスの範囲そのものを拡げられる可能性を示した象徴的な存在として考えています」

◆欧州や中東まで波及、没入型アトラクションの人気が急速拡大

 近年は、欧州や中東での動きも活発化している。昨年3月から始まったイギリス発の没入型アトラクション『PAC-MAN Live Experience』。
最先端のプロジェクションマッピングとトラッキング技術を使用し、自分自身が『パックマン』(またはゴースト)になって迷路を駆け回るというものだ。

「『パックマン』の世界をこれまでにない形で現実化するというコンセプトで企画されたイベントでした。単なるゲームではなく、ショーであり、競技でもある。人気は瞬く間に英国を超え、現在はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイやサウジアラビアのリヤドにも展開。欧州、中東、極東への新規展開に向けた協議も進行中です」

 マンチェスターでの大きな成功を起点に『PAC-MAN Live Experience』は急速拡大し、ドバイへと展開。さらに、リヤドに新施設が設置されることも決定し、現在も中東地域内での追加展開に向けた計画が練られている。

「『パックマン』は単なるクラシックアーケードゲームの枠を超え、世界的な文化アイコンへと進化してきました。特に、中東地域では強い支持を獲得していて、熱心な現地パートナーのネットワークが、各地域のファンに向けたライセンス製品の開発・流通を通じて、この盛り上がりを支えています」

 ライセンス事業やイベント展開、スポンサーシップなど、これまで多岐に渡る活動を世界中で継続してきた。そういった長期的な取り組みの積み重ねにより、海外でも『パックマン』は揺るがないブランド価値を築いたといえる。また、『パックマン』が世代や地域を越えて愛され続ける大きな理由として、シンプルでありながら高い独自性とデザイン性を併せ持つキャラクターであることが挙げられる。直感的に伝わる造形でありながら多様な表現へと展開できる柔軟性が、長年に渡る活用を支えている。

「明るくポジティブで、文化や言語の壁を越えて好意的に受け取られやすいキャラクター性も大きな魅力です。
ゲーム性においても、年齢を問わず誰もが直感的に楽しめる設計が採用され、従来のゲームセンターのイメージを変え、ファミリーや子どもたちにも開かれた存在となりました」

◆MoMAで“永久保存”される『パックマン』、なぜ芸術・ファッション界でも評価が高いのか

 これまでMoMA(ニューヨーク近代美術館)の永続収蔵作品(永久保存コレクション)に選ばれ、フランスを代表するポップアート系彫刻家のリチャード・オルリンスキー氏が『パックマン』を自身のスタイルで再構築した彫刻作品を発表するなど、芸術的な観点からも話題にこと欠かない。シンプルでありながら大胆なビジュアルは、世界の共通言語として直感的に認識されやすいデザインであるのだろう。

「鮮やかな黄色とミニマルなフォルムは、世界中のデザイナーやアーティストにインスピレーションを与え、多様なクリエイティブ表現を可能にしてきました。極限まで削ぎ落とされたシンプルさの中に独自性を内包している点こそが、ほかのキャラクターにはない大きな魅力といえるかもしれません」

 また、ひと目でわかる視認性やネオンカラーの親和性、さらに世界的なハイブランドからストリート系、ライフスタイル系など、さまざまなブランドと組むことで、『パックマン』はファッションアイコンとしての地位も確立してきた。

「地元パートナーとの協業から有名ブランドとのコラボレーションまで、展開の幅は広く、近年ではフランスのモノプリ、モンテグラッパ、イタリアのDSQUARED2、イギリスのNextに加え、複数地域で事業を展開するPrimarkやH&Mなどとの提携が実現しています。世界各国のアパレルブランドだけでなく、NBAやメキシコのサッカークラブ『クラブ・アメリカ』、BMWといったワールドワイドなスポーツリーグやチーム、企業とのコラボレーションも積極的に取り組んでいます」

 日本でも、beautiful peopleやコンバース、ユニクロ、さらには堂本剛とコラボレーションしたアパレルアイテムなどがある。

「キャラクターやゲーム画面のグラフィック活用や、ブランド・アーティストとのコラボレーションで、『パックマン』をまったく別軸の文脈で再解釈・展開することも可能です。“何にでもなれる”柔軟性により、協力先のデザインイメージやクリエイティブ方針を最大限に尊重しながら、新しい表現を生み出すことができるのが大きいですね」

◆日本ではレトロ人気も…、“懐かしい存在”で終わってはいけない

 近年、日本ではZ世代を中心に「平成レトロ」をおしゃれなものとして捉え、平成を象徴としたギャル文化やシール交換など、懐かしの遊びやキャラクターが再ブームとなっている。昭和に誕生した『パックマン』も、おしゃれで可愛く、クールなファッションアイコンとして人気を集めている。だが、良くも悪くも「レトロなキャラクター」として強く定着している点が課題でもある。長く愛されてきた証拠ではあるが、“懐かしい存在”として受け取られやすい。

「だからこそ、これまでのイメージにとらわれないイラストレーションスタイルの展開や、アーティストやブランドとの協業などを通じて、『パックマン』の新しい見え方を提案しています。
『変わらない安心感』と『時代に合わせて進化すること』の両立は簡単ではないですが、次の世代に向けたアップデートにも挑み続けていきたいと考えています」

 一過性のブームに留めず、時代を超えた存在となるには、各時代の若年層を取り込み、ファン基盤を絶えず更新し続けなければならない。

「私たちが目指しているのは、時代や世代が変わっても、常に人々のそばに寄り添えるキャラクターであること。懐かしさだけで語られる存在ではなく、これからの時間も一緒に成長していける、身近で開かれた存在でありたいと考えています」

 『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズへの登場やファッションブランドとのコラボレーション、バンダイナムコグループによるガシャポン・プライズ展開などを接点に、日本のユースカルチャーの中に深く根付いてきた。

「ロックバンド・ヤバイTシャツ屋さんなど、芸能人やアーティストにもファンが多く、カルチャーの中でも静かに、しかし確実に存在感を発揮しています。近年では、SNSを通じたアーティストコラボレーションにも積極的に取り組んでおり、若年層との接点も拡がっています」

 45年の時を経ても色褪せることなく“ポップカルチャーの象徴”として世界で愛される『パックマン』だが、50周年に向けてどのように考えているのだろうか。

「ゲームはもちろん、ライセンス、カルチャー、エンターテインメントなど、さまざまな視点から『パックマン』の魅力を再発見し、これまで以上に多くの方に楽しんでいただける展開を準備中です。『こんなパックマンは見たことがない』と思っていただけるような取り組みをお届けできると思いますので、ぜひともご期待ください」

(文/山田周平
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