■語りきれない自分のルーツを小説で伝えることができた
制作期間は約3年。自身の人生を小説化しないかという提案があり、 執筆は作家・小松成美氏が担当。Ado自身もこれまでに小松氏の作品を読んでいたことから、制作は自然な流れで進んだ。
「2度目のワールドツアーとドームツアーを終えて、自分という人間を、もっとみなさんに伝えられたらいいなと思いまして。発売もこのタイミングがベストだったのかなと思っています」
これまでラジオなどで断片的に語ってきた自身のこと。しかし幼少期や家庭環境など“根本の部分”は明かしてこなかった。自伝的小説という形で世の中に届ける意味は、本人にとっても大きかったという。
「私は常々、自分のことがあまり好きではないと語っていますが、“なんでそうなったの?”と聞かれたときに説明がすごく長くなってしまう。これまでラジオや配信でも話してはきていますが、ひとり語りだとうまく伝わっていないだろうなと思っていました。自分のルーツやボカロが好きな理由、なぜそれを大事にしたいのかというところも含めて、小説を通して伝えることができて、とても安心しています」
自身を“開示”することへの恐れはなく「むしろ、どこかで言えたらいいのに」と思っていたと振り返る。インタビュー形式で自身について語り、まとまった初原稿を読んだときには、思っていた以上に“自分が明るく見える”ことに驚いたと語る。
「今では笑い話になっていることも多いのですが、第三者に自分のことを話して、それを第三者が捉えたときの私は結構明るいのかな?と思いました。
■自分を救ってくれたボカロ文化の素晴らしさ
そんな本書は、Adoの半生に迫りながらも、ボカロ文化の素晴らしさを伝えたいという強い思いがにじむ一冊だ。ボカロPや歌い手たちの作品や魅力が、ていねいに言葉で紐解かれている点も印象的である。
「小学生でボカロに出会いましたが、当時は宝探しみたいで、いろんな出会いがあって、すごく楽しかったです。人間が励ますのとは違う、ボカロの励ましのような、特別な感覚で心地良い瞬間が何度もありました。今でも私を通して、ボカロの魅力を知ってくれる人が増えたらいいなと思っておりますし、この本を読んでそういう人が増えてくれたらうれしいです」
憧れの歌い手たちの動画から“がなり”などのテクニックを学び、その歌声で未来を切り拓いていく姿は感動的だ。一方で、自身の歌声についてはこう振り返る。
「最初に自分の歌を録音して聴き返したときには、すごく恥ずかしいなと思いましたし、“私は天才だ”なんて思ったことはなくて。だんだん、歌ったものを聴き返したり、録音にも慣れていき、少しずつ“いいかも”と思えるようになりました。ネットにアップした動画に“歌うまいね”というコメントがついてきたり、カラオケで友達に褒められたりしたときは、すごくうれしかったです」
本書のあとがきには、関係に葛藤を抱えてきた両親や、心を支えてくれた親友たち、昔からのリスナーたちなどに向けた自らのリアルな言葉がつづられているが、これは自らのアイデアによるものだという。
「最後の最後は私が書いたほうがいいなと思いました。直接言うのが恥ずかしい部分もありますが…、私の言葉としてちゃんと残しておきたかったことなので書かせていただきました」
あとがきを書いているときに「これは歌詞にしたい、曲にしたい」という思いが湧き、楽曲「ビバリウム」(2月18日発売)を制作することにしたという。
■こういう人間もいるんだよ――Adoが目指す大人とは
心ない大人たちの言葉に傷ついてきた過去も描かれているが、そんなAdoが目指すのは、どのような大人なのだろうか。
「大人と言われる年齢になりましたが、自分が当時出会ってきたような大人みたいにはなるべくならないように、子どもの気持ちがわかる人になりたいなと思っています。大人になっても、ときめきとかワクワクする気持ちは絶対忘れたくないです」
そんなAdoは現在、アイドルグループ・ファントムシータのプロデュースも手がけている。自らの経験を踏まえ、後進に向き合う姿勢についても語った。
「誰かの役に立ちたいという気持ちが本当にあって。私が経験してきたことはちゃんと伝えて、アーティストとして音楽界を駆け上がってほしいと思っています。私の力を夢のために使えるなら、使い切りたい気持ちです」
父が聴いていたクイーンやマイケル・ジャクソンの音楽に触れてきたことなど、音楽ファンにとっても興味深い内容が随所に盛り込まれている点も付け加えておきたい。
最後にAdoは『ビバリウム Adoと私』についてこう語った。
「私という人間がこれまで歌ってきたことの背景を、より深く知ってもらえたらうれしいです。同じような経験をした人とか、夢を目指している人に“こういう人間もいるんだよ”と伝えられたらいいなと思っています」
自信を持てないまま、それでも諦めずに歩んできた過去。その歩みは、夢を追いかけている人や、自分に迷いを抱えている人の背中を押すと同時に、夢を持つ子どもを見守る立場にある人にとっても、気づきを与えてくれる。
何気ない言葉ひとつが心に残り続けること、理解されない苦しさ、そしてそれでも前へ進もうとする意志。本書は、子どもの思いや葛藤に目を向けるきっかけにもなるはずだ。


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