近畿大学は「本研究は、森林科学の手法を用いてマンガを分析する新しい試みであり、今後、竹の構造を理解する教材として、理科教育や数学教育、野外環境学習での活用につながることが期待されます」とする。
『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎の妹・禰豆子は、鬼に襲われたことをきっかけに自身も鬼へと変化する。そのため、禰豆子は人を襲うことがないように、鬼殺隊の冨岡義勇によって竹の口枷をはめられる。
同作に関しては、歴史学・哲学・文学・民俗学・宗教学・ポストヒューマニズムなどの観点から研究されているが、自然科学あるいは植物科学分野の研究はあまりなく、特に、マンガにおける竹の口枷の描写を検討した研究はなかった。
井上教授は「私もマンガ『鬼滅の刃』のファンの一人で、本研究は、竹とマンガ作品の両方への親しみが出発点になっています。本論文を読んでくださった皆さんも、ぜひ、身近に生えている竹の節の間隔を観察していただければと思います。禰豆子の口枷を作ることはできるでしょうか。このような素朴な疑問をきっかけに、一人でも多くの方が竹の不思議な生態や、私たち人間との関わりについて興味をもっていただければ幸いです」と呼びかける。
■科学的検証の詳細(全文)
本研究では、マンガ作品に描かれた口枷の形状をできるだけ客観的に評価するため、禰豆子が正面を向いて描かれている場面を中心に約150例抽出し、節間の長さを定規で測定しました。また、作画や縮尺の違いによる影響を避けるため、絶対的な長さではなく、中央の節間に対する両側の節間の比率(節間比)に着目して分析を行いました。
比較対象として、「鬼滅の刃」に描かれている時代(大正時代)に国内に広く分布し、栽培されていたマダケ属の竹(本研究では、モウソウチクとハチク)、合計112本の実測データを用いました。実際の竹では、節間の長さは稈の中央付近で最大となり、そこから根元や先端に近づくにつれて徐々に短くなることが知られています。そこで、この実測データから、稈中央部付近の最大節間長とその両側の節間長との節間比を求め、マンガに描かれた口枷の節間比と比較しました。
その結果、口枷の節間比は0.45であったのに対し、実際の竹での節間比は0.94となり(いずれも平均値)、約2倍の違いがあり、有意差もあることがわかりました。この結果は、実測データに基づく節間長の数理モデルを用いた解析からも支持されました。以上の結果より、マンガに描かれた口枷の節間は、実在する竹の形態からは再現が難しいことが示されました。
また最大節間長の平均は、モウソウチクで35cm、ハチクで25cmでした。日本人を含む女性の顔の長さ(生え際から顎先まで)の平均は18.28cmであるため、節間長の方が顔よりも長いことが示唆されています。しかしマンガでは、口枷に対する顔の長さが0.66で、口枷の方が短く見えています。この結果から、禰豆子の竹の口枷は、節間比および口枷-顔の長さの比の両方において、実際の竹とは異なることが示唆されました。
本研究で用いた観察の手法は、定規と巻尺のみで実施できるため、竹の構造を理解する教材として、理科教育や野外環境学習への応用が期待されます。また、数理モデルによる解析は、微分や極値の概念を理解するための数学教育にも活用できる可能性があります。
なお、本研究で発見したマンガでの描写と実際の竹との違いは、作品の表現を批判するものではありません。身近な文化的題材を通じて竹の科学への関心を高め、研究者と社会との間にある理解のギャップを埋める試みの一つとして位置づけられます。
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