アサヒグループ食品のミント菓子「ミンティア」の2025年度の売上高が、過去最高を更新した。同年9月に親会社のアサヒグループがサイバー攻撃を受け、商品の出荷などを管理するシステムが停止。一部で品薄や供給が滞るトラブルに見舞われながらも、それを跳ね除けての記録達成となった。今年8月に発売30周年を迎える長寿ブランドは、なぜ逆風が重なる中で再び成長軌道に乗ったのか。背景には、生活者の行動変化に合わせた“食べる理由”の再設定があった。

■コロナで崩れた「食べる理由」

 ミンティアは1996年の発売以来、「エチケット」「眠気覚まし」「気分転換」を軸に支持を広げてきた。スーツのポケットに収まる名刺サイズの薄型容器と、即座にリフレッシュできる小粒の利便性が受け、ビジネスパーソンを中心に日常の定番へと定着していった。

 しかし、着実に売上を伸ばしていたなか、コロナ禍により100億円近い減収に見舞われた。外出や対面の機会が減少し、「人に会う前に口を整える」といった利用シーンが急速に縮小。売上は2019年の238億円から2021年には144億円へと落ち込み、ブランドはかつてない局面に直面した。

 アサヒグループ食品・マーケティング本部の真鍋礼子さんは、当時をこう説明する。

「移動中や対面エチケットを前提とした利用が一気に減り、売上は大きく落ち込みました。これまで当たり前だった使われ方が通用しなくなり、構造的な見直しが必要になりました」

 従来の延長線上では回復は見込めない。同社は「なぜ食べるのか」という根本から、ミント菓子の役割を問い直すことになった。

■より“自分のため”へ再設計されたミンティア

 再起の手がかりとなったのが、「マイクロストレス」という視点だ。これは、仕事や勉強中の集中の途切れ、気分のもやつき、会話前のわずかな緊張など、日常の中で繰り返し生じる小さな不快感を指す。一つひとつは些細な問題だが、積み重なることで生活の快適さを損なう要因となる。

「日常のいたるところで生じる小さなストレスを、その場でリセットしたいというニーズがあると捉えました」(アサヒグループ食品・マーケティング本部の真鍋礼子さん/以下同)

 これまでの「エチケット」「眠気覚まし」「気分転換」といった限定的な訴求から、現代人の心身を整える“ストレスリセットのための錠菓”へとブランドの存在価値を定義し直したのだ。

 用途開拓の視点は、コロナ禍で突如生まれたものではない。同社はこれまでも、通常品の約5倍のサイズで満足感を高めた大粒タイプ『ミンティアブリーズ』(2014年発売)や、ラムネ感覚で楽しめるフルーツ系フレーバーの拡充など、製品の可能性を地道に広げてきた。コロナ禍という断絶を契機に、その潮流が「自分の状態を整える」という軸へ一気に集約されたといえる。2021年には、マスク着用時専用の『ミンティア +MASK』が登場。続く2022年には、「声の調子を整えたい」というニーズに応えたボイスケア商品も発売され、生活シーンに踏み込んだ展開が進んだ。

「人のために息を整えるだけでなく、自分がすっきりしたい、気分を切り替えたいという自分自身のニーズに応える形へ広げました」

 そしてこの流れの象徴が、2023年10月に行われたキャッチコピーの刷新だ。『ミンティアブリーズ クリアプラスマイルド』は、それまで親しまれてきた「息クリア」を「息みがき」へと変更した。

「対人向けの印象が強かった表現を見直し、自分のためのセルフケアという意味合いを強めました」

 これらの施策は、単なる「一時的な気休め」から、心身のコンディションを支える「日常のセルフケア」へと、ミンティアの役割を決定づけることとなった。

■逆風下でも「過去最高」を叩き出した戦略的供給と信頼の基盤

 多様なシーンに対応するセルフケア錠菓へとブランド価値を広げた取り組みは、ブランドの回復力を劇的に高めた。コロナ禍のどん底を経て需要はV字回復し、2025年には過去最高の売上高を記録するに至る。その真価が問われたのが、同年9月に発生したサイバー攻撃によるシステム障害だった。出荷システムがダウンし、全社的に製品が届けられない異常事態に陥るなか、同社はミンティアをベビーフードとともに「最優先供給品」の一つに位置付けた。真鍋さんはその判断理由をこう語る。

「社会的な影響が大きいベビーフードに加え、ミンティアは非常に多くの方に支持されている主力商品です。供給が止まることで流通やお客様に与えるご迷惑を考慮し、優先的にお届けする取り組みを決めました」

 この戦略的な判断に加え、長年築いてきた流通パートナーとの信頼関係が功を奏した。欠品を起こしたにも関わらず、棚を維持し、システム復旧後に即座に商品を店頭に戻す協力をしてくれた流通が多かったという。

「一時的な品薄はありましたが、回復後にまた多くの方が買ってくださり、販売はスムーズに戻りました。流通の方々のご協力を含め、需要の底堅さを改めて実感しました」

 そしてもうひとつ、躍進の背景には、単なるエチケット商品の枠を超えた「市場の総取り」とも言える戦略がある。かつて口中リフレッシュの主役だったガム市場が縮小する一方、タブレット菓子は「噛みカスが出ない」「即座に完結する」といった利便性から、オフィスや学校でのシェアを奪取してきた。

 近年急拡大するグミ市場との関係も、同ブランドの独自性を際立たせる。嗜好品として「噛んで楽しむ」グミに対し、ミンティアは短時間で「状態を整える」という実利に特化した。競合と食い合うのではなく、用途を棲み分けることで、独自のポジションを不動のものにしたといえる。 

 売り場での選ばれ方も変化した。かつてのレジ横での「ついで買い」から、現在はその多彩な“日常のセルフケア”のラインナップから、消費者が特定の役割を求めて選ぶ「目的買い」の商品へと位置づけを変えている。

 一粒ごとに異なる役割を持たせた商品群は、単なる菓子を超え、日常のあらゆる場面に寄り添う「生活の相棒」としての地位を確立した。サイバー攻撃という不測の事態にあっても過去最高売上を更新できたのは、ミンティアが個々の生活動線の中に、替えのきかない必需品として深く浸透していた結果といえるだろう。

(取材・文/水野幸則)

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