SNSの普及もあり近年、それまであまり注目されてこなかった場所が一躍脚光をあつめることがあります。記憶にあたらしいのが「まるでジブリの世界」と話題をよんだ千葉県「濃溝の滝・亀岩の洞窟」。
そんな風に、いつ爆発的に知られてもおかしくない「異世界スポット」が、鹿児島県曽於市にもあります。場所の名前は溝ノ口洞穴。
以前、近くを通りかかった際にその名前を知り、パンフレットで見る度に心惹かれるものを感じていました。しかも先の2か所に似た「異世界感」をもつにも関わらず、まだそこまで全国的には知られていない場所。このため、会社で某航空会社とのタイアップ企画の話が持ち上がった時に、しれっと推薦したこともあったのですが、特にバズったネタでもないということでお流れに。話自体もいつの間にか消えてしましました。でもいつか行きたいと考えていた場所。時間はかかりましたが、何とか取材予算が確保できたのでようやく行くことができました。(弊社ぐらいの弱小になると取材予算を取るのは本当に大変なのです)
■ 古代人の生活跡に「魔崖佛」
訪れたのは、鹿児島県の東部に位置する曽於市財部町下財部。溝ノ口洞穴は、曽於市の一番北側に位置します。
スマホのナビで「溝ノ口洞穴」をセット。案内されるままに車を走らせると、40分ほどで茶畑がみえてきました。畑の角にぽつんと案内板が。案内板に従い曲がって、車を走らせること5分から10分で、川沿いにたどり着きます。すると右手の目立つ場所に「神秘のパワースポット溝ノ口洞穴 1.3キロ」の看板が。どうやら地元ではパワースポットとして推しているようです。
ちなみに、溝ノ口洞穴には人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」が映像撮影に訪れたことがあるとかで、ももくろファンにとってもある意味聖地の一つのようです。
そうしてようやくたどり着いた溝ノ口洞穴。場所は谷底のようになっており、左右は崖。
車をとめ、少し歩くと真っ赤な鳥居がみえてきます。その奥に見えるのが、目的の洞穴。この洞穴は霧島山系の湧き水が浸食し、長い年月をかけてつくられたと言われています。今でも奥の方から湧き水がわき、洞穴の中から流れてくる清らかなせせらぎをみることができます。
洞穴の全長は、昭和41年6月に行われた関西大学探検隊の調査によると224メートル。しかし、地元には「犬を中にいれたら、高千穂の峯に出てきた」という言い伝えがあるそうです。ちょっと不思議な話ですね。直線で約17キロ先にある高千穂峰は山頂に霧島東神社のご神体、青銅製の天逆鉾があることで知られていますが、全体が霧島信仰の対象とされ、古来より崇められてきました。霧島山系からの湧き水が浸食してできたと言われる洞穴だけに、太古の人々が何らかこの場所で祈りを捧げていたのかもしれませんね。
そして洞穴入り口左手には、倒れた木に隠れるかたちで「岩穴観音」が鎮座しています。もともとは、穴の入り口前面岩に「魔崖佛※」(まがいぶつ)が刻まれていたそうです。いつの頃に掘られたものかが不明なほどに古く、時の経過とともに崩落。修復したものの、再び崩落したため地域の人たちが協力しあって昭和56年にこの「岩穴観音」が建立されました。行った際には、気づかなかったのですが、後に地元の方に聞いたところ、今でもその「魔崖佛」の残りをかすかにみることができるそうです。草やこけにうもれていますが、ほんのわずかあるんだとか。もし行くことがあれば、洞穴前で前面岩をしっかり見て探してみて下さい。※魔崖佛の表記は岩穴観音像建立由来よりそのまま引用。
そうこうしながら、いよいよ洞穴の中に入っていきます。写真でみて分かるように、入り口すぐからお先真っ暗。「お先真っ暗」ってこういうこと言うんだなぁと考えつつ、足を踏み入れていくと、進めど進めど闇。
■ まるで「異世界への入り口」
溝ノ口洞穴と言えばこの写真!と言われるほど有名な撮影ポジションは洞穴の中、入ってすぐのあたりにあります。撮影者が闇につつまれた先に見える、真っ赤な鳥居。これがこの場所の異世界感をより高めています。
暗闇の中から明るい外をみると、さっきまで怖かったのがだんだんと薄れてくるので不思議です。暗闇から見る明かり。まるで黄泉の国から出てきたような、異世界への入り口に立ってしまったような……そんな不思議な感覚につつまれました。
なお、溝ノ口洞穴の象徴の一つとも言える真っ赤な鳥居。この存在、実は何を対象にしているのかがハッキリとはわからないそうです。
とはいえ、場所全体の入り口となっているのは事実。訪れることがあれば、謎の鳥居の存在にも思いをはせてみると楽しいかもしれません。
【溝ノ口洞穴】鹿児島県曽於市財部町下財部4907付近営業日:通年定休日:無休料金:無料祭:毎年4月8日のお釈迦様の誕生日に近い日曜日に「溝ノ口岩穴祭り」開催
(宮崎美和子)