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 大手の有名漫画アプリを利用していたら、なにやら怪しげな広告に遭遇しました。 広告は、「ふくぎょうのおしごと!」というサービスをPRするもの。

しかし、どこかで見たことあるようなタイトルに、どこかで見たことあるようなキャラクター……。


 怪しさいっぱいの広告をわざと踏んで進んでいくと、辿り着いたのは、やはり不審さを拭えないお仕事の勧誘でした。


■ どこかで見たことあるようなキャラとタイトル……怪しすぎる「ふくぎょうのおしごと!」

 漫画アプリ内で見かけたのは、デフォルメされたキャラクターたちがスマホで何やら操作しているイラストが描かれた広告。


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怪しげな広告


 広告内には「誰でもスマホ1台あれば取り組める」「経験不要!スキマ時間だけでOK」といった文言が記載されていますが、気になるのはキャラクターと「スマホふくぎょうのおしごと!」というサービス名。


 どちらもなんか見覚えあるなあ……。某有名アニメのキャラクターとタイトルを連想させる雰囲気です。


 怪しい匂いしかしないので、さっそくこの広告が案内しているLINEアカウントを友だち追加してみます。


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「ふくぎょうのおしごと!」LINEアカウント


 それにしても広告からいきなりLINEに飛ばすというのは、それだけでも怪しさ満点。にも関わらず、大手漫画アプリに掲載されていた広告だからか、リンク先のLINEアカウントの友だち数は「18,490」。


 これ、まずくないですか?


 LINE追加をすると、トークが飛んできて、案件らしきページへのリンクボタンが表示されました。


 「かんたん作業で即日10万円達成者続出!!」「全員に最低3万円の現金プレゼント」。仕事内容やサービス内容に先行してお金の話ばかりが出てくる構成は、典型的な“うまい話”の印象です。全部本当なら夢のようですが、現実的には「うさんくさいな」と疑いたくなるのが正直なところです。


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「ふくぎょうのおしごと!」とのやりとり


 そして気になるのが、このLINEアカウント「ふくぎょうのおしごと!」の正体。プロフィールを見ても運営者の情報は一切なし。しかも、LINEの公式アカウント機能で開設されているものの、表示されているのはグレーの未認証バッジです。つまり今のところ、誰が運営しているのか外からは分かりません。


 こうした仕組みは、不審なサービスへとつなぐ“入り口”として使われることがよくあります。正体不明のアカウントに一度ユーザーを集め、そこから外部のサイトへ誘導していく。いわば中継地点(ハブ)の役割を担わせているように見えます。


 誘導先が一見それらしく企業名を掲げている場合もありますが、結局は信頼性に乏しいサイトばかり。ハブを挟むことで「即日10万円」などの大げさな宣伝文句について、責任の所在をあいまいにしているのでは……そんな印象を受けます。

■ 9割の人が+10万円達成?

 続いて、案内の下部にある「無料で始める」ボタンをタップして進んでいくと、「スマホでかんたんお小遣いサービス」というページへと誘導されました。


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「お小遣い稼ぎ」の案内


 「9割の人が+10万円達成」「1日約200名新規参加」「初心者98%」といった、参加のハードルを下げるワードが並びます。


 仕事の具体的な内容がないまま「親孝行ができる」「子どもに我慢させない」「いつでも旅行に行ける」など、この仕事を始めるメリットの説明が続きます。


 さらにこの仕事の人気のヒミツとして「厚生労働省が推進する新しい働き方」という表現も。


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厚生労働省が推進する新しい働き方


 ただ、どこがどう“新しい”のかは説明されず、根拠のない権威付けのように感じられます。そもそも副業自体が「新しい働き方」の1つかと思うので、人気のヒミツも何も……という気がします。


 そしてキャンペーン期間中にお仕事をスタートすると、もれなく現金3万5000円がもらえるとの案内が出てきます。しかしあまりに唐突なうえに理由のわからないお金なので「やったー」というより「え……なんで?」という困惑の気持ちのほうが強いです。

■ 仕事内容は「アプリに写真を送ってAIに解析してもらう」だけ!本当に?

 さらにページを進めていくと、ようやく仕事の内容の説明に。「写真を送信」→「AIが画像を選別」→「収益獲得」という流れが出てきました。全然分かりません。どこで何に利益が出たんだ?


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自動で収益化


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3STEPのしごと


 ページ下部にあったフォームに名前と電話番号を入力し、「いますぐ無料で始める」のボタンをタップして、さらに詳細を確認してみることに。


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フォームに入力


 ここでふと思いましたが、仕事なのに「いますぐ無料で始める」という表現が用いられるのは、おかしくないでしょうか?ゲームやWebサービスなら分かりますが……。


 この事業者には有料で始める仕事もあって、それとの差別化のために「無料で始める」の表現を用いているということでしょうか?


 その後、複数の公式LINEアカウントをたらい回しにされ、最終的に辿り着いたのが「BASE WORKS」という名前のアカウント。企業名かと思いGoogle検索をかけてみましたが、それらしきものはヒットしません。


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「BASE WORKS」LINEアカウント


 余談になりますが、この“公式LINEをたらい回しにする”という手口も、こうした怪しげな導入でよく見かけます。運営の責任を分散させたり、利用者がどのページでどんな説明を見たのか分かりにくくして混乱させる効果があるのではないかと見ています。


 次に、「BASE WORKS」を友だちに追加すると「お仕事について」「【期間限定】プレゼントの受取方法」についての説明が送られてきました。


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仕事内容を再説明


 仕事内容はいくつか前のページでも説明があった通りで、専用のアプリに自分のスマホのフォルダにある写真を送信してAIに解析させた後、収益が発生するというもの。


 そしてプレゼントの受取方法については「お電話で簡単なアンケートにお答えいただき、お仕事スタートの準備をしていただきます」とのこと。電話内でプレゼントの受取方法も知らされるとのことです。


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電話への案内


 電話の所要時間は3分程度とのことなので、そのまま電話を受けてみることにしました。

■ 電話とLINEで仕事内容が全然違う……「アプリを使う方はお金にならないので」

 対応するオペレーターの枠があるらしく、電話がかかってきたのは約1時間後。


 電話口の相手はハキハキとした口調の若い男性です。一般企業のカスタマーサービスにいてもおかしくないような、礼儀正しく丁寧な口調をしていました。これまで散々怪しいページを見せてきた相手とは思えません。


 まず電話口でオペレーターから「BASE WORKS」についての説明がありました。ECサイトの設計や運用を行っている企業だそうで「闇バイトや投資、ギャンブルのようなお仕事ではございませんので、そこは勘違いしないようにしてください」とのこと。


 闇バイトではないと念押しされるのはまあ分かりますが「勘違いしないようにしてください」というのが少し引っかかる表現。「ご安心ください」なら分かりますが、「勘違いしないでください」というのは、ちょっと圧力めいたものを感じます。


 その後、オペレーターの説明は仕事の具体的な内容へ。どうやら記者に任せられるのは、BASE WORKSが手掛けるECサイトの“代理店”としての“販売代行”。


 具体的には、BASE WORKSが選定する商品の写真や説明文をECサイトに掲載していくのが、主な作業になるとのこと。


 そして自分が写真などを掲載した商品が売れた際に、売上の何%かが収益として手元に入ってくる仕組みだそう。


 あれ?事前に聞いていた話と違うような……。

■ なぜか聞かれる、自己破産経験や借り入れ情報

 違和感を覚えるところはありつつも、いったんは質問を飲み込んで説明を聞き続けます。するとオペレーターの話はそのまま仕事内容から、記者の現在の状況についてのヒアリングへ移行。


 仕事はBASE WORKSと業務委託契約を結んで行われることになるため、こちらが反社会的勢力であったり金融トラブルを抱えていたりすると困るという理屈で、そのあたりの事情について軽く聞かれることに。


 「過去に自己破産や債務整理、任意整理、個人再生などの手続きをしたことはないでしょうか?」「携帯料金やクレジットカードの滞納を過去にしたことはないでしょうか?」「消費者金融から融資や借り入れを受けていますか?」といったことを聞かれました。


 とりあえず全部経験のないことなので「ないです」と答えていくだけで、確認はすんなり終了。特に突っ込まれることもありませんでした。正直こういった質問を投げかけてくる時点で、一般の企業ではないのだろうなという気がしてきます。


 質問が終わったあと、今度は逆に記者の方から「LINE上で出ていた案内と、いま電話で聞かされた案内は違うようですが……」と質問してみることに。


 オペレーターからは「そういうアプリを使って作業をする仕事もあるのですが、正直あまりお金にならないので」という、事前の触れ込みと矛盾するような回答が返ってきて、そのまま向こうが通話を切る形でやり取りは終了してしまいました。

■ 問題点ありすぎる副業ばかり

 「ふくぎょうのおしごと!」の広告をタップして始まった今回の調査は、最終的には「ECサイトの販売代行」という謎の仕事に行き着きました。


 不思議だったのが、「ふくぎょうのおしごと!」が案内する副業内容はタップのたびに変わる点です。案内される仕事はいずれも「アンケートに答えるだけ」「動画を視聴するだけ」といった「単純作業で高収入」を謳うものばかり。今回潜入した案件も含め、基本的な構造はほぼ同じだと推察されます。


 ちなみに「動画を視聴するだけ」の仕事は、指定された動画を視聴→収益が発生→代理店から閲覧数に応じて報酬が支払われるというスキーム。画面には「代理店 皆に手伝ってもらって広告収益が激増!」という説明も書かれています。


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動画を視聴するだけ


 一見手軽でホワイトな仕事のように聞こえますが、冷静に整理すると「代理店が一般人に閲覧数を水増しさせている」構図であり、ステルスマーケティング規制(景品表示法改正)や各動画サイトの規約違反に該当する可能性があります。


 今回調査した「写真を送ってAIに解析させる」という副業にも、いくつかの問題点が見受けられました。途中で誘導されたページに書かれていた「30万円以上」という高額報酬例は、一般的な副業やフリーランス案件の水準に比べて不自然であり、その根拠も示されていません。こうした表現は誇大広告の典型的なパターンに近く、利用者が誤解してしまう可能性があります。加えて、提供した個人情報や写真の利用方法も気になります。


 電話で案内された販売代行についても、事前の広告と説明に食い違いが見られました。

広告では「アプリで稼げる」と案内していたのに、電話口ではECサイトの販売代行を紹介してきます。この矛盾は、特定商取引法上の不実告知に該当するおそれがあり、「アプリはお金にならない」と切り捨てた点についても、最初から誤認を利用して集客していた可能性を示しているように見えました。


 なお、この「写真を送ってAIに解析させる」という副業のアプリは電話でサービス名称を確認することができました。正規に提供されている実在のサービスでしたが、サービス内容は説明とはだいぶ異なり、実際はポイ活に近いスキーム。また、「新規加入で3万5000円」といった企画も確認できませんでした。やはり最終的には「ECサイトの販売代行」に誘導する意図が強かったのではないかと考えられます。


 他にも、特商法の表示も不自然でした。副業紹介やプレゼント企画であるはずなのに、「販売価格」や「返金・クーリングオフについて」といった項目が並んでいます。こうした記載からは、実際には「何かを販売すること」に重点が置かれている可能性が考えられます。

■ 過去に潜入した、ママ活詐欺とスキームが一致

 そして「ふくぎょうのおしごと!」から案内された副業サイトは少なくとも5種類以上。会社名や住所はそれぞれ異なるものの、特商法ページのフォーマットが酷似しており、背後で同一グループがまとめて運営している可能性が考えられます。


 これは以前潜入した「ママ活詐欺」の手口とも非常によく似ていました。まず、誘導先のサイトにある特商法の表記や運営者情報の記載方法など、今回の案件と共通点が多く見られます。


 当時は「ママを紹介する代わりに有料サブスクに複数登録させる」という仕組みでした。1件あたりの被害額は数千円程度と少額でしたが、複数登録させることで総額を積み上げる方法だったのです。


 そして、1件あたりの被害額が少額であるがゆえに被害が表面化しにくく、過去の事例では警察が積極的に動きづらいと指摘されることもありました。その結果、運営側にとって責任追及を免れやすい構造になっていたと考えられます。今回の副業案件も、形式や誘導の流れに同じような特徴があり、表向きのテーマを変えながら横展開しているように見えます。

■ 被害を防ぐためには、まず立ち止まって

 今回潜入した、大手漫画アプリに掲載されていた「謎の副業紹介サービス」。恐らく多くの人が最初の広告画面で違和感を覚え、次に進んだとしてもLINEの中での説明に強く不安を覚えるでしょう。しかもLINEやさまざまなページをたらい回しにされるのですから、最終的に残るのはごくわずか。


 しかし、わずかでも信じてしまう人がいるからこそ、こうした手口はなくなりません。


 多くの人は「こんな手口アヤシイと分からない人が悪い」と口にしますが、そのアヤシイ誘導こそが「騙される人をあぶりだすテスト」。


 編集部にはこれまで様々なケースで被害に遭った人たちからの体験談が多く寄せられています。みな共通しているのが、「こうした手口があることは知っていた」という点です。知っていても、お金をちらつかせられれば少しの期待を持って進んでしまう。


 特に注意したいのが、「過去に詐欺被害にあった経験者」です。被害者こそさらに取り返そうと進んでしまう傾向があります。


 被害に遭わないためには、まずは情報を知っておくこと。そしてもうひとつ大切なのが「冷静にブレーキをかけてくれる存在」を持つことです。家族や友人でもいい、消費者センターでもいい。最近ではAIがそうした役割を担うこともあります。


 大切なのは、ひとりで判断しないこと。相談することで立ち止まり、被害を未然に防げる人が必ずいます。もし迷ったら、その一歩を踏み出す前に必ず声を上げてください。それが、あなた自身と大切な人を守る力になるのです。


【注意】
今回は、サービス実態を探る目的で潜入取材を行いましたが、一般の方は絶対に真似をしないでください。過去には、同様の取材に対し編集部へ脅迫が届いた事例も複数あります。それほど危険な行為であり、必要に応じて警察など関係機関とも連携しています。繰り返します、絶対に真似をしないでください。


(ヨシクラミク/宮崎美和子)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By YoshikuraMiku | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025092203.html
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