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 年末年始ごろから、企業の社長や役員になりすまし、社員に金銭を振り込ませる詐欺メールが急増。国産つまようじ製造を手掛ける「菊水産業株式会社」の公式Xアカウントも、自社に届いた「なりすましメール」について、報告と共に注意を呼び掛けました。


 今回は菊水産業の協力を得て、この「なりすまし犯」に対し、「菊水産業の経理担当(偽)」として潜入取材を敢行。その驚きの手口と、犯人の意外な「素顔」に迫ります。



 「社長なりすましメール」の手口としては、「支払金がある」「秘密の買収案件だ」などと偽り、LINEなどのメッセージアプリに誘導して送金を指示するケースが主。被害総額はわずか1か月で6億円近くにのぼるとも言われており、警察庁や各都道府県警も注意を呼び掛けています。


 菊水産業株式会社に届いたメールもこれとほぼ同一の内容ですが、注目すべきは、差出人名が「場工」となっている点。


「社長なりすまし詐欺」に“経理”として接触 あれこれ問い詰めたら逆ギレされた話
菊水産業による注意喚起


 菊水産業の社長といえば、「お菊社長」の愛称で親しまれている末延秋恵さんのはずです。場工(ばく)氏は先代社長で、現在は会長を務める人物。しかも会長はPCメールが使えないとのことですから、社内では偽物であることがバレバレだったのです。


 犯人は古い名簿でも見て送ってきたのでしょうか。初手から盛大なミスを犯していますが、メールの文面は至ってシリアスな「詐欺の定型文」でした。

「すぐに会社のLINEグループを作成してください。
現時点では、他のメンバーは招待しないでください。
参加後、職称と氏名が分かるように表示名を設定してください。
完了次第、グループのQRコードをメールで送付してください。
その後、次の作業指示を出します。」

 指示通り(のフリをして)、潜入用のLINEアカウントでグループを作成し、QRコードを送付。すると翌日、グループに「場工」を名乗る人物が参加してきました。

■ 偽会長、偽社長、偽経理……偽者しかいないカオスなLINEグループ

 グループに参加してきた場工氏は開口一番、「今オフィスにいますか?」と定型文を送信。続けて「本日、会社に入金がある予定ですので、会社の振込先口座情報を共有してください」と指示を出してきました。


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グループに参加してきた場工氏


 ここで偽経理(筆者)が「私の方では伺っておりませんが」と牽制すると、「末延秋恵さんから先に受け取るように指示があります」との返信が。なんと早くも現社長の名前が出てきました。自分が会長の名前を語っていることに気付いたのでしょうか。すると間もなく、なんとグループに「末延秋恵」を名乗る人物が参加してきます。


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さっそく現社長の偽アカウントも出現


 偽の会長、偽の社長、そして偽の経理。3人の「偽物」が一堂に会し、奇妙な修羅場と化したLINEグループ。ここから犯人(たち?)による怒涛の指示が始まります。

■ 「386万円」を個人の口座へ?通常では考えにくい金銭管理

 新たに現れた偽社長・末延氏は、まず「私が自分で入金手配をした213万円を受け取るために口座情報を送れ」と言い出します。


 そう、こちらが送金するのではなく、相手が入金すると言い出したのです。続けざまに「後で私から請求書を送る」「このお金は会社の口座に振り込む必要がある」などともっともらしいことを言いますが、具体的な理由は明かしません。


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口座情報を要求される


 いずれ必要になるであろうと思って、架空の口座情報(おたくま銀行)を用意してはいたものの、ここで早くも使うことになろうとは。しかも明らかに嘘の口座とわかるはずなので、もしかすると怪しまれて調査中止の可能性もありますが、話を進めるためにやむを得ず伝えることに。


 すると「わかりました」と一言返信があり、続けて「今、支払う必要がある金額がありますので、利用可能な残高を確認してください」と、新たな指示が出されました。どうやら今度こそ、こちらが送金する側になるようです。ていうか、架空の口座情報で良かったんかい。


「社長なりすまし詐欺」に“経理”として接触 あれこれ問い詰めたら逆ギレされた話
嘘の口座情報を伝える


 続けて「今の時点で、会社口座の利用可能金額はいくらですか」 「今、支払う必要がある金額がありますので、利用可能な残高を確認してください」とのメッセージが。


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次は支払いを行ってくださいとの指示が


 提示された支払額は386万円。そして振込先として指定されたのは、なんと「個人名義の口座」でした。


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振込先には個人名義の口座が伝えられる


 「彼の会社の社長の口座なので問題ない」と強弁しますが、企業間取引で個人の口座に大金を振り込むなど通常は考えにくい事態です。

■ 思い切って仕事の悩み相談をしたら……まさかのパワハラ社長に変貌

 当然ながら、筆者は偽の経理担当なので振込などできません。しかし、このままただ無視するのも癪なので、突然ですが偽社長に「社員としての悩み」を相談してみることにしました。本物の社長であれば的確な指示やアドバイスがなされるはずです。


 「経理体制について相談したいことがある」と個別のLINEへ誘導し、話を振ってみます。犯人としては想定外の展開だったでしょう。 最初は「振込を優先して」と突っぱねていましたが、しつこく食い下がると「明日、私はあなたのオフィスに行って話を聞きます」と譲歩(?)する姿勢を見せ始めました。


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偽社長に相談を投げかけてみる


 しかし、いつまでたっても話が発展せず。「現状のままだと退職も検討している」と伝えても、犯人からは「明確なパフォーマンス評価と報酬・福利厚生の体系が必要です……」といった、生成AIが書いたような無機質な回答が。


 それでも「人員を増やせないか?」と粘り、肝心の振込作業を引き伸ばしていると、ついに犯人の堪忍袋の緒が切れました。


 「振込を完了しないなら、辞めてしまってもいいです」 「すぐに辞めてください」 「私のオフィスに来て辞職してください」と、まさかの「クビ宣告」。通常の企業であれば、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」でもない限り、解雇されることはあり得ません。


 ただ偽物というだけでなく、器の小ささまでもが露呈した瞬間でした。


「社長なりすまし詐欺」に“経理”として接触 あれこれ問い詰めたら逆ギレされた話
まさかの「辞めてください」発言


 完全にキレている犯人に対し、こちらも最後のカードを切ります。「振込手続き中」のフリをしつつ、菊水産業公式Xが投稿した「なりすましメール注意喚起」の画像を送りつけ、「社長のなりすましが現れたそうです!どういうことでしょうか?」と問い詰めました。


 すると犯人は、「終わらなければ出て行ってください」と吐き捨て、それ以降既読が付くことは無し。後味の悪さだけを残し、偽社長とのやり取りは終了しました。


「社長なりすまし詐欺」に“経理”として接触 あれこれ問い詰めたら逆ギレされた話
最後はネタバラシ

■ 代表者名や役員名は簡単に入手できてしまう

 今回の潜入で分かったのは、犯人グループは複数の役になりすまして巧みに連携をとってくること、そして想定外の事態には意外と脆いということでした。


 企業の代表者名や役員名は、ネット上で容易に入手できる時代です。たとえ知っている名前、社長からの連絡であっても、金銭が絡む話や違和感のある指示が届いた際は、一度手を止めて、電話や対面など「別の手段」で本人に確認を取るようにしてください。


 ちなみに、最初に場工氏を名乗っていたLINEアカウントは、一連のやり取りが終わった後すぐに名前を変え、別の人物に「転生」していました。当該アカウントについては当然通報済みですが……LINE側にもどうか対応してほしいものです。


 この変わり身の速さを見ても、「社長なりすましメール」は、いつ誰がターゲットになってもおかしくない状況でしょう。くれぐれもご注意を。


<記事化協力>
菊水産業株式会社(@kikusui_sangyo)


(山口弘剛)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛‌ | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2026012701.html
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