「スパコン」と聞くと「自分には馴染みがない」と感じる人も多いかもしれません。しかし2009年の事業仕分けの際に話題となった「2位じゃダメなんですか?」という言葉を覚えている方は多いはず。
そのときにやり玉に上がったのは、スーパーコンピューター「京」。2019年に運用が停止され、現在は後継機として「富岳」が稼働中。2024年現在、スパコンの性能ランキング「Graph500」のBFS部門で9期連続1位を記録するなど世界最高のスパコンです。
そんな「富岳」で作られたAIが、2024年6月現在「Fujitsu Research Portal」にて公開されています。そこで今回は「2位じゃダメなんですか」で有名な「京」の後継機で作られたAIと、ChatGPTに同じタスクを与えると結果はどう違うのか比べてみました。
スパコン「富岳」とは:「2位じゃダメなんですか」で有名な「京」の後継
スパコン「富岳」は2009年に事業仕分けで話題となった「京」の後継です。京は2005年に文部科学省と理化学研究所によってプロジェクトが稼働し、2009年の事業仕分けで「2位じゃダメなんですか?」で話題に。そして一時、事実上のプロジェクト凍結に陥りました。しかし、その後予算が復活して2012年に稼働開始。
たとえば2014年10月には性能指標(HPCG)で世界トップレベルの高性能を達成したり、Graph500で世界1位を記録するなど、京は極めて高い成果を上げました。
そんな京の後継として、2014年に研究がスタートしたのが「富岳」。京が2019年に運用終了したのを引き継ぐようにして、2020年に試行運用が始まり、今に至ります。なお富岳の性能は、京と比較して数十~100倍ほどと驚異的です。
ちなみにスパコンと普通のコンピュータの違いとは?
スパコンと普通のコンピュータの最大の違いは、その計算速度と処理能力。たとえば富岳は1秒間に約44京回の計算が可能で、これは普通の家庭用パソコンの数百万倍の性能に相当します。この圧倒的な計算速度により、通常のコンピュータでは難しい複雑なシミュレーションやビッグデータ解析が可能となり、たとえば画期的な治療法の発見などにおいて重要な役割を果たしています。
スパコン「富岳」で作られたAI(大規模言語モデル)が一般公開中
そんな「富岳」を用いて開発された大規模言語モデル(LLM)が、2024年5月に一般公開され、誰でも利用可能になりました。
もちろん富岳の成果は多数ありますが、その中でも誰しもがオープンに触れるアウトプットがウェブ上に存在しているのは貴重です。加えてそもそも国産の大規模言語モデル自体が極めて貴重です。ちなみにこの大規模言語モデルにはサイバーエージェント社が収集した独自の日本語学習データなどが使われています。
とにもかくにも国産のデータを学習した国産のAIが、国産のスパコンで開発され、なおかつオープンに無料公開されていること自体がとてつもない成果です。ぜひ一度触ってみることをおすすめします。
そんなFugaku-LLM(富岳 LLM)を利用するには、「Fujitsu Research Portal」にアクセスしてアカウントを作成する必要があります。登録完了後、対話型生成AIページから利用することが可能です。
まずはFujitsu Research Portalにアクセスし、アカウント登録を完了させましょう。アカウント登録が完了したら、対話型生成AIページにアクセスします。
【1】①「技術を試す」をクリックすると、ポータルへのログイン画面が表示されるため、IDとパスワードを入力してログインします。

【2】②「アプリを試す」をクリックします

【3】③「login」をクリックします。再度、IDとパスワードの入力を求められた場合は入力してログインしましょう

【4】④「Create New Chat」をクリックします

【5】⑤「チャット名」を入力し、プルダウンメニューよりモデルを選択します。⑥「CPU富岳-LLM」を選択しましょう。設定できたら⑦「作成する」をクリックします

【6】チャット画面が立ち上がるため、⑧入力欄に質問を入力し、⑨「送信」をクリックします
なお入力欄に書く質問やプロンプトは、ChatGPTやPerplexity、Copilotなどに与えるようなものと同様で構いません。気軽にいろいろ投げかけてみると良いでしょう。
全く同じ指示を「富岳」と「ChatGPT」にするとアウトプットはどう違う?
「富岳」で開発された国産AIが一般公開されていること自体がものすごい成果ですが、一方で「で、性能はどうなの?」というのも気になる点ですよね。そこで今回、Fugaku-LLM(富岳 LLM)とChatGPTに全く同じタスクを与え、アウトプットを比較してみました。
今回試したのは、関西弁で書かれた小説『細雪』の冒頭部分を「標準語に直してほしい」という指示です。小説『細雪』は谷崎潤一郎の作品で、冒頭の文はこんな感じです。
「こいさん、頼むわ。―――」
鏡の中で、廊下からうしろへ這入はいって来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して(以下略)
青空文庫に全文が公開されているため、興味がある方はぜひ読んでみてください。
まずは富岳で、関西弁で書かれた『細雪』の冒頭部を標準語に直してもらいました。

Fugaku-LLM(富岳 LLM)の使い方7
富岳による標準語訳の冒頭部は以下の通りでした。
「姉さん、ちょっと頼みたいことがあるんですが。―――」
鏡の中の後ろ向きに這ってきた妙子の前で、自分で袴を塗っていた刷毛を渡し(以下略)
中々悪くない標準語訳な感じがしますね。ただ略した全文をすべて読むと、訳が微妙だったり日本語としてよく分からない箇所もありました。生まれたてのAIなのでまだまだブラッシュアップできそうな気もします。
続けてChatGPTのアウトプットを見てみましょう。

ChatGPTによる冒頭部は以下の通り。
「お姉さん、頼むわ。」
鏡の中で、廊下から後ろへ入って来た妙子を見ると、自分で袴を塗りかけていた刷毛を渡して(以下略)。
こちらも良い感じの訳です。また細かな点ではあるのですが、長文の訳を任せた際にChatGPTの方が改行が綺麗な印象です。単純に「見やすい」だけでもかなり印象が違うので、とりあえず富岳は長文のプロンプトが入力された際、アウトプットを改行すると良いのではないか?と思います。
ちなみに「正確性」で言えば、意外とどちらも「まあまあ」。
たとえば冒頭の「こいさん」というのは「お姉さん」ではなく、末の妹への呼びかけ。この点は両者とも間違えていました。AIはやはり完璧なものではないのだな、というのも感じられる実験結果でした。
とはいえ「京」の後継である「富岳」で作られた国産AIが公開されていて、しかもその学習データも国産という事実だけでも、筆者としては胸が熱くなるものがあります。
現状の富岳のAIは「こいさん」を「姉さん」だと間違えるように、決して完璧なアウトプットが出るものではありません。
ですが、少しでも富岳のAIに関心を持った方はぜひ登録し、試してみてください。無料で試すことができます。
※サムネイル画像(Image:PatrickAssale / Shutterstock.com)
By OTONA LIFE