時には一人旅が楽しい。誰に気兼ねすることなく、休むのも歩くのも自分次第。
この施設には“音の間”と“色の間”という二つの空間がある。音の間では、森の音に耳を澄ませながら、自由に音を奏でることができる。自分の愛用する楽器を持ちこんでもいいし、1965年製のオールドヤマハと呼ばれるグランドピアノが置かれていて、これを奏でることもできる。まだ大量生産にかじを切る前、合成樹脂やプラスチックではなく、にかわや鹿の皮などの自然素材が用いられ、職人の手仕事によってつくられた希少な一台だ。
色の間では、森で見つけた葉や枝を紙に写すなど、自然に触れながら、自由な感覚で色と遊ぶひとときを過ごせる。色の間にはキャンバスもあり、イーゼルを森に持ち出して自然の中で描くこともできる。
そして、持参したスマホなどのデジタルデバイスは、森の案内人が宝箱に大切に預かってくれる。膨大な情報と絶え間ないコミュニケーションの中で、マルチタスクに追われる日常。他者の視線や評価から完全に解放され、自身の内なる声に耳を澄まし、ありのままの自分を表現できる場所はそう多くない。