未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」の新連載「弁当の日の卒業生」。「弁当の日」、その日は買い出しから片付けまで全部一人で。
▼卵を割るのが好きな男の子です
受話器から聞こえてきたのは綾川町立滝宮小学校を卒業したMさんの優しい声でした。一瞬にして浮かんできたのは小学生時代の彼女の顔です。彼女が小学校を卒業してからの接点がほとんどなかったのです。今回は母親に電話番号を教えてもらって、県外に嫁いだMさんの声を聞くことができました。
Mさんは小学校を卒業後に県内の中学校・高校・大学と進学していきましたが、その間はあまり台所には立っていません。すべて自宅からの通学で、休日の登校時の弁当も含めて、毎日の料理は母親が作ってくれていました。でも、母親が仕事で食事作りが大変な時は普通にサポートをしてきました。大学では友だちのほとんどが県外からの、自炊の下宿生活者でした。料理ができて当たり前の友だちに囲まれて大学生活を送りました。そのせいか、結婚時に料理に不安はなかったそうです。
いまは3児の母親で、ちょうど産休中です。長男は6歳で、卵を割ったり、ウインナーソーセージを炒めるのが好きでよく台所に来るそうですが、積極的にやらせているわけではありません。実家に帰ったときはおばあちゃんが見守る中、包丁を持ってキュウリを切っています。そんな兄の様子を3歳の妹がうらやましそうに見ていて、0歳児の末っ子もMさんの腕の中からのぞき込んでいるようです。
小学生の時の「弁当の日」の一番の思い出を尋ねると、「初めての弁当作りの時、そわそわとして落ち着きのない不安そうなお母さんのようす」だそうです。「自分が親になって、あの時のお母さんの気持ちがよく分かった」からだそうです。
「得意料理は?」にはしばらくの沈黙がありました。「毎朝の豆腐とわかめと季節の野菜をいれたみそ汁」と答えてくれました。沈黙の訳は聞かずに「だしは?」と問うと、こんどはすぐさま返ってきました。「いりこです」。
三人の子どもたちには記憶に残らないけれど、心の奥底に安心・安全の安らぎの場が形成されている時期です。どうぞ、子育てを楽しんでください。
竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。
そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。