「このウェブサイトはクッキーを使用しています。続行ボタンを押すと、クッキーの使用に同意したとみなされます」

 こんな表示を見かけることが増えました。

怪しいですね。

 っていうか、怪しいよりも意味が分からないかもしれません。ウェブサイトでクッキーって。何それおいしいの?って話です。ウェブサイトなんて、ITに興味のある人ばかりが見に来るわけではありませんから、もうちょっと丁寧な説明がついていてもいいのではないかと思います。

 クッキー(Cookie)は、ウェブサイトが利用者の端末に情報を保存する仕組みです。

 例えば、ネットショップで買い物かごに商品を入れて、別のページを見に行って戻ってくるとか、会計のページに進むとかしたとき、カートの中身はちゃんと残っています。当たり前に思えますが、もともとのウェブページの作りだとできないんです。ページ間で情報を共有する仕組みがないので、ページを移動すると前のページのことは忘れてしまいます。そこで、クッキーが出てきます。

 ウェブサイトは「この人が買い物かごに入れたのはこれだ」と、利用者のブラウザー(を通してスマホやPC)にそっとメモるのです。それがクッキーです。

 普段の生活でも、クッキーはばりばり使われています。

・ログイン状態を保つ(いちいちIDとパスワードを入れなくていい)

・使用言語を記憶する(いちど「日本語」を選んだら次も日本語で表示する)

・どの広告を表示するか(一度見た商品が別のサイトでも出てくる…結構うざったい例のあれです。これは特に「サードパーティークッキー」と呼ばれ、複数サイトをまたいで行動を追える作りになっています)

 基本的には利用者に便利に使ってもらうための仕組みとして使われています。“宵越しの銭は持たぬ”ふうのウェブページに「お客さんのことを覚えておく」機能をもたらしてくれました。

 ただしこうした便利機能は、悪いことにも使われるのが世の常です。「お客さんのことを覚えておく」は、プライバシーの問題と表裏一体です。

 例に挙げたように、サードパーティークッキーによってある広告会社が複数のウェブサイトと連携して、利用者の行動をクッキー経由で追跡できてしまうことがあります。

 悪用を防ぐためのルールや仕組みは作られてきた(クッキーの範囲や保存期間など)のですが、「知らないうちに追跡されているかも」というのは、感じるだけで不安になりますよね。クッキーに忌避感を覚える利用者がいるのは自然なことです。

 最近では、クッキーを使わずにユーザーを識別する技術も増えています。これをクッキーレスなどと表現し、さらに問題が深く広く潜行する場合もありますが、これはまた別のテーマとしていつかお話しましょう。

 もし「クッキーが嫌だな」と思ったら、ブラウザーの管理機能を使ってください。

クッキーが残した情報を削除したり、そもそも保存させないようブロックすることも可能です。

 ただし、安全と便利はたいていシーソーのような関係になっていますから、全部ブロックすると通販サイトなどで困ったりすることもあります。バランスを考えながら、必要と判断したものは許可しておくのがおすすめです。

【著者略歴】

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/中央大学政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)、「機動戦士ガンダム ジオン軍事技術の系譜シリーズ」(KADOKAWA)。Eテレ スマホ講座講師など。

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