「『国宝』観(み)ましたか?」数カ月前、会う人会う人に聞かれるので、圧を感じていました。友人の集まりでは「国宝」の話題で「幸せとは何か考えさせられた」「大画面で吉沢亮と横浜流星というイケメン2人を見続けられて目の保養になった」「歌舞伎シーンが圧巻」といった話題で盛り上がっていて、会話についていけなかったのです。
絶賛の嵐で観なければと思いながらも、腰を重くしているのは約3時間という上映時間。一瞬も目が離せないらしく、トイレに行くタイミングがなさそうです。「血」の力や呪いについて描いた作品ですが、「尿」の呪縛も無視できません。そんなとき「ボンタンアメが尿意を抑えるらしい」という説を聞きました。以前、さいたまスーパーアリーナの人気俳優のイベントに行ったら、駅前の菓子店の団子が売れまくっていて、知る人ぞ知るライフハックのようです。砂糖ともち米が血糖値を上昇させ、尿意が抑えられるとか、糖質が水分と結びつく性質があるから、という説があります。
当日、ボンタンアメを持って映画館へ。直前の食事では飲み物は頼まず、何度もトイレに行って尿意の気配を封印。ただ、おいしそうなアイスクリームを見かけ、欲望に負けて直前に食べてしまいました。Lサイズのドリンクを持って入る観客もいてチャレンジャーです。
ネタバレしないように、鑑賞中のトイレの欲求の推移を記します。少年時代の喜久雄と俊介の稽古のシーンは、汗だくの姿に見入っていたら体内の水分が減った感が。
といった流れで、トイレへの欲求は数値に表すと1から1・5を推移し、時々ボンタンアメを食べながら、余裕を残して3時間終了。映画にももちろん感動しましたが、乗り切った達成感に包まれました。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 35からの転載】
辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2025年2月に「江戸時代のオタクファイル」(淡交社)を上梓。