最近、日系ではないのに日本的な名前を名乗るアーティストを見かける。日本のカルチャーが国境を越え、それだけ世界で親しまれるようになってきたということだろうか。
昨年の夏に行われたパリ五輪の開会式で圧倒的なパフォーマンスを披露したアヤ・ナカムラも、日本に直接の関係はなく、西アフリカのマリで生まれ、幼いころフランスに移住した、フランス語圏で非常に人気のあるアフロポップシンガーだ。「アヤ・ナカムラ」とは、アメリカのテレビドラマに登場する日本人超能力者「ヒロ・ナカムラ」にちなんだ芸名だという。
ロシアでも、日本人の名前とおぼしき「ナオコ」を名乗るストリートミュージシャンが現れた。まだ18歳の音楽学校生で、本名はジアーナ・ローギナ。
今年10月16日、ナオコは、サンクトペテルブルクの路上で反戦亡命ミュージシャン(「外国エージェント=スパイ」に指定されているアーティスト)たちの歌を歌ったとして、一緒に活動していたバンド「Stop Time」のメンバーであるギタリストのアレクサンドル・オルローフ、パーカッショニストのウラジスラフ・レオンチエフとともに逮捕された。
問題とされたものの一つは、亡命したラッパー、Noize MC(本名 イワン・アレクセーエフ)の「『白鳥の湖』協同組合」という反戦ソングだ。ロシアでは歌うことが禁止されているが、それは「バレエが見たい、白鳥たちに踊らせろ」というフレーズがあるからだろう。
ソ連時代、ブレジネフやアンドロポフら最高指導者が亡くなったときや1991年のクーデター未遂事件が起きたときに、テレビが一斉に通常の番組を取りやめてチャイコフスキー作曲のバレエ「白鳥の湖」を放送した。そういう背景があるので、「白鳥たちに踊らせろ」といえば、政権交代を望んでいることを暗に意味するのである。
また「『湖』協同組合」とは、プーチン大統領と彼の仲間が所有する別荘協同組合の名称なので、見事な言葉遊びにもなっている。
10月28日、サンクトペテルブルクの地方裁判所はナオコに3万ルーブルの罰金を科したが、ナオコが亡命ミュージシャン、モネートチカの「あなたは兵士」を歌ったことが「軍の信用を貶(おとし)める」ことに当たるからだという。確かにこの歌には「あなたがどの戦争で戦ったにしても、ごめん、私は反対側にいる」というフレーズがあり、反戦ソングであることは明らかだ。
ナオコたち3人に対して、Noize MCやモネートチカはすぐに支持を表明した。ロシア国内でも、エカテリンブルクやペルミなどで、これらの歌を街中で歌ってStop Timeへの支持を訴えるミュージシャンやプラカードを持って1人デモをする人が現れたが、たちまち逮捕されてしまった。
11月23日、3人はようやく釈放され、ナオコはロシア国外へ去ったようだ。
「ナオコ」の名の由来はわからないが、ロシアで大変人気のある村上春樹の『ノルウェイの森』に登場する「直子」にちなんだものかもしれない。巨大な権力を前にしてひるまず、音楽で立ち向かおうとしている若者たちの姿に胸を打たれる。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.46からの転載】
沼野恭子(ぬまの・きょうこ)/ 1957年東京都生まれ。東京外国語大学名誉教授、ロシア文学研究者、翻訳家。著書に「ロシア万華鏡」「ロシア文学の食卓」など。
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