私はなんでも忘れられる。本当になんでもだ。

忘れ物が多いのもあるが、記憶力もない。私の忘れる力については、またの機会にすごい勢いで力説させていただくとして。そんな私が、次から次へと子どもの頃の思い出がよみがえってくる稀(まれ)な出来事があった。

 落語界の同期である桂宮治(かつら・みやじ)くん。前座・二ツ目をともに乗り越えた戦友のような存在。その師匠であり宮治くんが愛してやまない桂伸治(かつら・しんじ)師匠。楽屋ですれ違う程度でごあいさつはしたことがあったのだが、なかなかゆっくりお話しする機会はなかった。

 つい先日、たまたま昼夜興行でご一緒するお仕事があり、「ずっと楽屋にいてもつまらないからお茶でも行こうか」とお誘いいただき、2人で喫茶店で珈琲とモンブランロールをいただきながら1時間半ほどお喋(しゃべ)りさせてもらった。

 はじめてお話しする師匠と2人っきり。そこそこ人見知りな私は、嬉(うれ)しいながらも大丈夫かなぁと心配になっていた。

 最初は落語の話でためになることばかり。はい!と背筋を正して聞き入っていたのですが…。

 師匠が「子どもの頃は恵比寿に住んでいてね」とおっしゃるので、「え?私も高校までは恵比寿だったんです」と言うと、どのあたり? って話になり、まさかの小学校の先輩だったことが判明した。東京都渋谷区立長谷戸(ながやと)小学校。

 「恵比寿公園の上のところだよね」

 「駅前の不二家でさぁ」などなど。

 恵比寿ガーデンプレイスができる前に遊んでた場所とか、ザリガニ釣りしてたところとか、まったく同じ。実際には小学3年生の時に引越しをして転校したそうなので、卒業はしてらっしゃらないそうだけど、目の前の大先輩と一緒に、一気に懐かしい気持ちが身体(からだ)を充満する。

 もう最初の緊張がほどけすぎて、「あぁ。ありましたねぇ!」とか、「わかります!」とか、旧友に話すように連発してる私。

 「担任の先生も同じかなぁ?」と、何人かの先生の名前をあげてくださったんですが…。

 「師匠! さすがに年代違いますから。30歳は離れてますからッ!」って、思いっきり突っ込み。

 「あぁ!同級生じゃなかったね」って。

 私も私で友達みたいに喋りすぎてはいたけど、私のこと、一体いくつだと思ってたんだろう。

 落語界に〝エモ仲間〟ができた瞬間だ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.48からの転載】

ちょうかろう・ももか 東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し高座名を「蝶花楼桃花」と改める。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による「桃組」はいずれも大入り。24年7月、31日連続ネタおろし独演会「桃花三十一夜」を池袋演芸場で開催、大成功をおさめる。

編集部おすすめ