M&A(企業の合併・買収)の促進などを狙いに東証グロース市場の上場維持基準を2030年3月以降に100億円に引き上げる東証の改正有価証券上場規程が12月8日に施行されるなど、M&A促進の動きが加速している。外資系大手総合コンサルの一つEYで20年以上M&Aの助言業務に従事してきたEYストラテジー・アンド・コンサルティング(東京都千代田区、EYSC)の川口宏・代表取締役(52)は「企業価値、時価総額を維持向上できない企業に市場からの退場を促す東証のルール改正は今後のいわゆる“同意なき買収”の大義名分となる可能性がある」と指摘する。
―日本のM&A市場の現況をどう見ていますか。
今のところ活況です。少なくとも我々の普段接している状況からは停滞の兆しは今のところ見えていません。しばらくは活況が続くと思う。
―日本のM&A市場の魅力は何ですか。
海外と比べてまだ低い金利の魅力です。企業買収を全部手元資金で行う買い手は少なく、多くは借り入れも起こす。自分のお金と借り入れたお金を合わせて買収資金に充当するので、買い手にはまだ低い金利は魅力的です。
―活況が続くと一般の人もニュースなどでM&Aの話題に触れる機会が増えそうです。一般の人がニュースに接する際に必要な視点は何ですか。
M&Aは遠い世界の話ではない、という見方が大切だと思います。
―EYは7月1日から、戦略策定から買収契約後の統合支援までM&Aの全支援業務を「一気通貫」で提供する体制を明確にしましたが、その狙いは何ですか。
EYはこれまでM&Aの実行支援業務ではEYブランドで、その上流にあたる戦略策定支援や下流にあたる買収後の統合支援業務においては「EY-Parthenon(EYパルテノン)」ブランドで事業を展開してきました。
7月1日から、それらの全てのサービスをEYパルテノンブランドの下に集約しました。M&Aに関する上・中・下流全てのフェーズでの支援業務を一気通貫で提供できることを鮮明にお客様に示すためです。“パルテノン”はEYが2014年に買収したアメリカの独立系の戦略コンサルファームの社名で、海外では高いブランド価値があります。これまで各フェーズにおいてブランド名が違いつぎ合わせの“パッチワーク的”な印象を与えていたかもしれないEYのすべてのM&A支援業務を、パルテノン名の“統一的”な一気通貫のサービスとして展開することにしました。
―一気通貫体制がスタートした7月1日にその“新生EYパルテノン”のリーダーに就任しましたが、M&Aの全支援業務を統括することになった時、何を真っ先に思いましたか。
就任の内示は3~4カ月前でした。まず、お客様と直接対面する機会は減少するなと思いました。
―その新たな使命ですが、M&A支援業務は多岐にわたり、さまざまな専門家が各支援業務を担っています。EYパルテノンのリーダーとして、それぞれ独自のノウハウ・専門性を持つ専門家集団をどのように率いていきますか。
M&Aの典型的なプロセスは、戦略策定から、初期的交渉、価値の算定、価格交渉、契約の締結、お金の払い込みや株の譲渡などの経過をたどります。買収後は買った企業の価値を発現・向上させていかなければならない。これらの各プロセスの支援業務を担うのは多様な専門家です。会計士や戦略コンサルタント、金融機関出身のFA、不動産の専門家などです。EYパルテノン名で一気通貫のサービスを提供しますが、それは各専門家を“同質化”させることではありません。それぞれの専門の違いをお互い認め合い、違いがあるからこそ総合知的な全体最適の質の高いサービスを一気通貫で提供できる、ということを意識しています。
―EYパルテノンのリーダーとして掲げた目標は何ですか。
5年間リーダーを務めた前任は毎年2桁の成長率を実現しましたので、やはり毎年2桁の成長は続けたい。
―EYパルテノンリーダー就任から半年近くになりますが、仕事面では今年はどんな年でしたか。年末恒例の今年の漢字に倣って、25年を漢字1字で表現してください。
人工知能(AI)の“知”ですね。7月のリーダー就任時のキックオフミーティングで、パルテノンのメンバー数百人を前に「AI元年」を宣言したからです。全メンバーおよそ全メンバーにCopilot(コパイロット、マイクロソフト社のAIアシスタント)を配布しました。ハルシネーション(AIが合成するうそや間違い)の恐れや情報漏えいリスクなどの懸念から、これまでAI使用は推奨していませんでした。全員配布を行うべきかどうかの議論では20人くらいの少人数で試してからの方がいいという忠告もありましたが、Copilotの全員配布を決断しました。ChatGPT(チャットジーピーティー)やGemini(ジェミニ)などのAIテクノロジーは進化し、お客様もすでに使っている。我々が“専門家”を自任するのであれば、お客様よりもAIの分野でも先んじていなければいけない。お客様が使っているのに、我々は使っていないというのでは「致命的な遅れ」になる。そのことをパルテノンの経営陣で話し、これで行こうということになりました。
―26年はどんな年になると思いますか、これも漢字1字でお願いします。
これは25年の“知”と同様にAIに関することで、知に対応する“実”です。実行の実です。確かにChatGPTやGeminiなどのAIは進化しているが、もちろん全部をAIに任せられるかというとそうではない。最後は人間がまとめなければいけない。実行するのはやっぱり最後は人なんです。アイデアを出す知は、AIでどんどんブラッシュアップして(磨きをかけて)、最後の物事を動かす部分は人が実行する。「知と実の対応関係」と言ったのはこのことです。
【インタビューを終えて】
慌ただしい師走にも関わらずやや変化球的な漢字の質問に正面から答えてくれた川口さん。選んだ漢字は“知”と“実”。25年は人工知能(AI)の知に焦点を定め、26年はAIを使う人間の実行に光を当てた。時代の先端を行く大手コンサル会社にとってAIは今、避けては通れないテーマの一つであることをうかがわせる。
仮に川口さんが実行の実ではなく後者の“行”を選んだら“知行”となり、これは中国明の思想家・王陽明の「知行合一」のイメージに引っ張られてしまう。また“実”には、AIとの違いである喜怒哀楽の感情を持つ人間の“肉体”を喚起させる「実体」への読み替えが可能だ。含蓄に富むというのは、この実の持つこの含意の豊かさである。
EYSCのHPには川口さんの「公共心と腹八分目が重要」「何でも“過ぎる”のはよくない。それはビジネスの場でもプライベートでも同様」との味のある言葉が載っている。私生活では「東京からの景色だけ眺めていては駄目」として中央、地方いずれにも“過ぎない” 東京・福岡の2拠点生活を続け、この言葉を文字通り実践している。
“過ぎる”の回避は中国古代の思想家・孔子の「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」(論語)を思い起こさせる。この論語との連関と行を避けた“実”の選択に、川口さんの中国古典の“知“が垣間見える。インタビューでよどみなく語られたM&A関連の専門英語と垣間見せた中国古典の知。ビジネスの面でもまた、その言葉通り、バランスの取れた”過ぎない知“を実践している。
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