韓国のネット芸能メディア「ディスパッチ」は12月5日、俳優、チョ・ジヌン氏(49)が高校時代に車の窃盗や性的暴行で少年院に送致され、成人になった後も暴行や飲酒運転をした疑惑があると報じた。人気俳優だっただけに韓国社会に大きな衝撃を与えた。
韓国社会がさらに驚いたのはチョ氏が翌6日に所属事務所を通じて「私はすべての叱責(しっせき)を謙虚に受け止め、今日付ですべての活動を中断し、俳優の道に終止符を打つことにした」とコメントを発表、事実上の引退を宣言したことだった。
所属事務所は「本人に確認したところ、未成年時の過ちについて確認した」としたが、性的暴行に関しては無関係だとした。だが、報道のどの部分が事実で、どの部分が事実でないかなどは不明だ。
波紋は大きい。チョ氏は2016年には連続ドラマ「シグナル」で未解決事件を追う刑事を演じて人気を集めた。テレビ局ではその続編の「シグナル2」の撮影も終わっていたが、対応に苦慮している。
チョ氏は2004年製作の朴正熙(パク・チョンヒ)軍事政権下の高校の状況をリアルに描いた「マルチュク通り残酷史」(邦題「マルチュク青春通り」)の端役で映画界に入った。その後、「わが兄」「卑劣な街」「悪いやつら」など多数の映画やドラマに出演した。
最近は抗日独立運動に関連した映画に出演したり、関連行事に参加したりすることが多くなっていた。今年8月15日の光復節式典では国旗に対する宣言文を朗読した。17日には抗日運動のドキュメンタリー映画を李在明(イ・ジェミョン)大統領の横で鑑賞するなど、人々に「愛国者」のイメージを与えた。今回の暴露の背後には、チョ氏が「愛国者」として振る舞っていることへの反発があるのではという見方もある。
チョ氏が高校時代にどんな事件を起こしたかは明確ではない。韓国では少年事件の記録や捜査資料は、被害者であっても少年部裁判官の許可がなければ閲覧できない。
約30年前の犯罪で人気俳優が突然、俳優活動に終止符を打ったことで、少年期の犯罪に対してどこまで責任を負うべきなのか大きな論争になっている。
未成年時の犯罪が成年後にまで影響を及ぼすなら、少年犯の更生の道を閉ざすことになるという見方がある。一方で、たとえ未成年時の犯罪であっても、大衆の前に立つ公人なら厳しい基準が適用されるべきであるという意見もある。少年期の犯罪が性的暴行などの場合は、被害者の立場が無視されて良いはずはないという声も強い。
ある弁護士は12月7日、ソウル警察庁長官に、この事件を最初に報道した記者2人を少年法違反の疑いで告発した。この弁護士は「少年法は罪を覆い隠す盾ではなく、烙印(らくいん)なく社会へ復帰できるよう支援するための社会的合意だ。果たして30年前の高校生の過ちを掘り返すことが2025年の大衆に本当に必要な『知る権利』なのか」と主張した。
一方、野党、「国民の力」の羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)議員は7日、大統領や国会議員など高位公職者の少年期凶悪犯罪を国が公式に検証し、国民が直接確認できる「公職者少年期凶悪犯罪照会・公開法」を発議する予定だと明らかにした。
この発議は公職者の少年期の犯罪歴を公表するというものだが、羅議員の事務所は「『少年犯の記録という理由だけで凶悪犯罪の前科が死角地帯に残されたままになるのは不当だ』という世論を立法で解決するというのが趣旨だ」と説明した。
平井久志(ひらい・ひさし)/ 共同通信客員論説委員。
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