2026年が始まり、気付けばもう1カ月。のんびりした正月休みが遠い記憶になり、仕事始めから全力疾走が続いている。

そんな感覚を抱いている方も多いのではないでしょうか。真冬の底冷えも重なり、心身ともに疲労がたまりやすい時期です。あの「何もしない時間」を恋しくなった時、ふと思い浮かぶのが温泉旅ですね。

 今回ご紹介するのは、全6室で静かに過ごせる宿、新潟県の「岩室温泉 割烹旅館 松屋」です。

 岩室温泉は、新潟市西浦区に湧く温泉地。江戸時代に発見され、弥彦神社参拝の宿場町として栄えた歴史を持ち、現在も芸妓(げいこ)文化が残ることから「新潟の奥座敷」とも称されます。昭和の情緒を残した街並みに、10軒ほどの宿や温泉施設が静かに並ぶ温泉地です。

 その中心に立つ「割烹旅館 松屋」は、創業200年以上の老舗宿。かつては芸妓たちも湯につかったという由緒ある宿で、天井や時計、欅(ケヤキ)の戸には明治期の面影が今も残されています。館内は広々として落ち着きがあり、わずか6室という贅沢(ぜいたく)な空間が、自然と心をほどいてくれます。

 この宿の最大の魅力は、真っ黒な温泉。大小二つの貸切内湯「冬妻湯(ひよつまのゆ)」「霊雁湯(れいがんのゆ)」は、滞在中、空いていれば自由に入浴可能です。

 泉質は、含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉。54度で湧く源泉を、どちらのお風呂も掛け流しで利用しています。湯船に満たされた湯は、まるで墨汁のように漆黒。温泉らしい硫黄と、石油のようなアブラの香りが漂います。舐(な)めてみると、強めの塩ダシ味と相まって、煮詰めた豚骨ラーメンのスープのような濃厚な味わいが面白く、思わず笑ってしまうほど個性が際立っています。

 そんな濃い温泉に身を沈めると、湯にグッと強く包み込まれるアグレッシブな感覚が心地よく、日々の心身の疲れを絞り出して溶かしてくれるようでした。また、この季節の冷えた体を芯まで一気に温めてくれ、湯上がりもそのポカポカがずっと続いていました。それだけではなく、温泉成分が肌へグイグイ押し込まれたようで、もっちりとしたうるおい肌も実感できました。

 夕食は、新潟の山の幸と日本海の海の幸をふんだんに使った会席料理です。

 この日のメニューは、カンパチ・ヒラメ・南蛮エビ・ホタテ・マグロのお造り、村上牛の陶板焼き、牡蠣(カキ)、サワラの照り焼き、天ぷら、カモ汁、新潟産コシヒカリの炊き込みご飯など。どれも割烹旅館の名にふさわしいビジュアルと味わいです。どの料理も、できたてを一品ずつ提供してくれるスタイル。

酒どころでもある新潟の地酒とともに箸と盃(さかずき)が進み、心も舌も大喜びでした。岩室温泉の黒湯をイメージした「岩室黒湯ビール」は、岩室の源泉のような、力強くしっかりとした飲みごたえで印象的でした。

 年始からの1カ月は、想像以上に疲労がたまるもの。寒さも本格的になり、心身の冷えも感じる今日この頃です。そんなときこそ、思い切って日常から距離を置く旅が、心身を整えてくれます。全6室の静かな宿で、真っ黒な湯に身を委ねる時間。家でダラダラする土日も気持ちがいいですが、都会の荒波から一線を画した空間で過ごすひとときは、ただ休む以上の英気を与えてくれるはずです。

【岩室温泉 割烹旅館 松屋】

住所 新潟県新潟市西蒲区岩室温泉605

電話番号 0256-82-5120

【泉質】

含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(高張性 弱アルカリ性 高温泉)/泉温54.3度/pH:8.0/湧出状況:動力/湧出量:142リットル/加水:なし(冬季はあり)/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し

【筆者略歴】

小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,800以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)

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