3月で発生から15年となる東日本大震災の被災地を取材し、復興の状況や人々の思いを世界に発信しようと、神田外語大(千葉市)の学生たちが取り組んできた日本語版と英語版の「震災復興新聞」が完成した。学生たちは1月26日、福島県庁で新聞を内堀雅雄知事に贈呈。

今後、海外提携校へのプレゼンテーションなどで活用し、学生自身の言葉で福島の光と影を伝えていくという。

▼自らの視点で福島を伝える

 震災復興新聞は一般的な新聞と同じサイズのブランケット版で、表は日本語版「福島とともに」、裏面が英語版の「Together with Fukushima」。同大グローバル・リベラルアーツ学部の柴田真一特任教授のゼミに所属する3年生19人が制作に当たった。福島の過去、現在、未来を自らの視点で掘り下げ、日本語と英語で記録・発信する「震災復興発信プロジェクト」の一環。2025年8月には、津波と東京電力福島第1原発事故で大きな被害を受けた福島県沿岸部の浜通りを訪れ、取材した。

 完成した新聞のトップ記事では、新産業の研究開発や人材育成を担う浪江町の「福島国際研究教育機構」や、脱炭素社会に向けたエネルギーとして注目される水素の研究拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」など新しい産業基盤を紹介し、「復興への希望の光」とした。

 また、東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)の語り部の女性が「私たちの経験が生かされていない」「無関心をやめることが大切」と訴える声も取り上げた。そして「被災地に集結する英知を国内外に福島の今を伝えたい」「一人一人が自分ごととして向き合うことが大切な一歩ということに気付いた」と、取材を通じて得られた思いも記している。

 記事の取材や執筆、紙面のレイアウトなどは福島民報社(福島市)がサポート。共同通信社(東京都)の記者らが協力した英語版は、海外の読者にも伝わるよう表現や構成を工夫したという。

▼「遠い存在」から寄り添いへ

 贈呈式での意見交換と、福島民報社に場所を移して開いた座談会で、学生らは苦労した点として「取材で得られた情報がたくさんあり(限られた字数におさめるのが)難しかった」(関口椋久さん)、「誤解がなく分かりやすく伝わるよう気を遣った」(関口舜矢さん)、「英語版は日本語版に比べ伝えられる情報の量が少なく、取捨選択に特に苦労した」(長田紬さん)などを挙げた。

 現地を訪れる前は、「福島は大きな被害を受けたという認識はあったが、自分で調べることはなく、遠い存在だった」(関口椋久さん)という。

自分の中で起きた変化について問われると、関口舜矢さんは「特産品を取材したが、たくさん良いものがあり、地域と関わりながら復興、発展しているのを見て、未来は明るいという印象になった」。

 福島県出身の友人が悲しむことを恐れて福島のことはあまり話題にしてこなかったという長田さんは「自分の目で見ると、みんな前向きで明るい話題も多かった。帰って友達に話をして、新たなコミュニケーションが生まれた」と振り返った。

▼現在進行形の福島に関心を

 指導に当たった柴田特任教授は「学生たちは人と関わることの責任と言葉の重みを実感したと思う。(被災地の人から)直接話を聞いて思いに触れ、寄り添っていく。そのプロセスの伝え方によって、受け止め方は変わってしまう。プロジェクトは今後の大学での学びや社会に出たときに、生きてくるのではないか」と、学生たちの成長ぶりを実感していた。

 神田外語グループの佐野元泰理事長は「AI(人工知能)に勝てるのは、経験を通しての言葉。学生には自分の経験を通した言葉で世の中に語りかけてもらいたい。福島は過去ではなく現在進行形。関心を持つべきなのは、復興がどうなっていくか、どう生かして未来につなげるか。教育界も寄り添っていきたい」と述べた。

 内堀知事は「今回のプロジェクトは、福島の外にいる人が『わがこと』として、われわれと思いを共有してくれたことに感動している」「『風評』を払拭し『風化』を抑え込むためには、福島県の観光キャンペーンである第三の風『しあわせの風』が重要。今回のプロジェクトで皆さんが実践してくれたと感謝の思いでいっぱい」と活動をたたえた。

▼地元産バナナ原料にビール

 贈呈式では、学生たちが企画したビール「綺麗ALE(きれいエール)」も披露された。福島県広野町の広野町振興公社から提供された同町産のバナナ「綺麗」を原料に、クラフトビール製造会社「大鵬」(東京都大田区)が醸造を担当。震災復興新聞のデジタル版へアクセスできるQRコードを印刷してあり「単なる商品ではなく、福島と学生、企業が協働して復興の歩みを伝える発信の形」と位置付けている。大鵬に併設するレストラン「HANEDA SKY BREWING」などでの提供・販売を予定している。

 贈呈式、座談会にはプロジェクトに後援・協力をした企業や団体の関係者も出席し、学生たちをねぎらった。

 福島民報社の芳見弘一社長 未来を担う皆さんの熱い思いがしっかり伝わり、感動した。福島だけでなく日本はいろいろな課題を抱えている。今回のチャレンジは社会の未来を開いていく、そんな大きなメッセージが入ったものだと思う。

 大鵬の大屋幸子代表取締役 福島県の市や町と連携してビールを7種類造ったが、学生からの依頼は初めて。若者と一緒にビールに関わらせてもらって感謝している。

海外の人も多い羽田から福島を発信し、一緒に新聞を盛り上げていけたらいい。

 広野町振興公社の中津弘文代表取締役 多くの町外の人との関わりが地域の町づくりを前進させる力になる。こういう形で関わってもらえるのはありがたい。皆さんの応援に負けないよう、頑張って新たな創生に向けて取り組んでいきたい。

 城南信用金庫の川本恭治相談役 素晴らしい新聞とビールができて感激ひとしお。多くの人に知ってもらいたい。毎年3月に東京・品川の本店で1カ月間、震災を伝えるパネル展をしており、今年も実施する。今日の模様も発信したいと思う。

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