今、イランで起きていることを前にして、私は何度も言葉を選び直しています。
それは、意見がないからではありません。
今も、世界のどこかで、日常が突然断ち切られ、命が失われ続けています。それは、数字として語られる前に、名前を持ち、家族がいて、昨日まで未来の話をしていた人の人生が、一瞬で奪われているということです。
多くの人が、不安と恐怖の中で暮らしています。特別な思想を持つ人だけではありません。朝、家族に「行ってきます」と言い、無事に帰れるかどうかを心配しながら外に出る、ごく普通の人たちです。
彼らはニュースの中の存在ではありません。誰かの子どもであり、親であり、友人であり、恋人であり、私たちと何一つ変わらない人間です。
けれど世界は、「どちらが正しいのか」「誰が悪いのか」という言葉で、この現実を整理しようとします。それが必要な場面があることも、私は理解しています。
ただ、声を上げることそのものが、状況をさらに複雑にしてしまう社会が、確かに存在しているという事実も、同時に知ってほしいのです。
私は政治家ではありません。
それは逃げではありません。言葉が持つ影響の大きさを知っているからこそ、慎重な姿勢を選んでいるのです。
それでも、「関心を持ってほしい」この一点だけは、どうしても伝えたいと思っています。
世界情勢は、決して遠い国の話ではありません。大国の動きも、地域の緊張も、巡り巡って、私たち一人一人の生活に影を落とします。
だからこそ、単純な善悪や刺激的な言葉だけで消費せず、「そこで今も生きている人がいる」「すでに失われた命がある」という想像力を、どうか手放さないでほしいのです。
一方で、特定の国名や立場を明示せず、言葉を慎重に選びながら発言をしたあと、SNSでは、その曖昧(あいまい)さだけを切り取った無責任な言葉が向けられることもあります。
私が実際には述べていない考えや主張が、まったく別の文脈と結びつけられ、本来の意図とは異なる受け取られ方をしてしまうことがあります。
それらは、発言の内容そのものではなく、憶測や決めつけが一人歩きしてしまった結果です。
言葉を慎重に選ぶ姿勢そのものが、別の思想や立場と結びつけられ、否定の対象になってしまうこともありました。
今、私にできるのは、誰かを言葉で打ち負かすことではありません。ただ、「恐怖の中で生きている人がいる」その事実を、自分にできる言葉で、伝え続けることだと思っています。
関心を持つこと。
想像すること。
誰かを裁かないこと。
その積み重ねがなければ、命はあまりにも簡単に、「数」に変えられてしまう。私は、そうならない世界を、まだ諦めたくありません。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.4からの転載】
サヘル・ローズ / 俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。
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