未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。ウェルビーイングな暮らしのために、異なるものをつなぐことで生まれる「気づき」を大事に、いろんな「つなぐ」をテーマにつづる連載シリーズ。
■都会と離島をつなぐ
「お金さえあれば、誰とも関わらずに生きていける」。そんな都会の利便性の裏側で、私たちは大切な「生きるすべ」を失ってはいないだろうか。日本に約400ある有人離島。そこには、不自由さや不条理と折り合いをつけながら、しなやかに生き抜くための「文化」が今も息づいている。お金や制度に依存しすぎない、離島発の生存戦略とは。離島と都会をつなぐメディア「離島経済新聞社」(略称:リトケイ)代表の鯨本あつこさんに、これからの時代を生き抜くヒントを聞いた。
――リトケイの活動について教えてください。
日本には約1万4千もの島がありますが、私たちは北海道、本州、四国、九州、沖縄本島の本土5島を除いた有人離島にフォーカスしています。活動は大きく四つで、島の魅力を発信するメディア事業、島と企業や移住希望者をつなぐ連携交流事業、行政と組んでスタッフが滞在して島の振興のお手伝いをする地域魅力化事業、そして近年力を入れているのが災害復興支援です。
――それはなぜですか。
私たちのような中間支援団体は、自分たちがやりたいことよりも、島にできないことをお手伝いすべきだと思っているんです。
2025年10月に行った「未来のシマ共創会議」というカンファレンスでは、「生き残れる島の防災と関係人口」というテーマで話し合いました。東日本大震災以降、防災白書に「公助には限界がある」と明記されたため、民間のネットワークも駆使しなきゃいけない。民間のネットワークとは、離島と関わりのある関係人口のことです。
――2025年10月に東京都の八丈島や青ヶ島で台風被害がありました。
八丈島はボランティア支援を受け入れたくても、水も住宅もないから受け入れられない。義援金を出すにも行政職員が少ないから、ものすごく時間がかかるんです。公助は税金ですし、公平平等でないといけない。それでは、どうしてもスピードが落ちる。
■本当の豊かさはどこにあるのか
――そもそも鯨本さんが離島に引かれた理由はどこにあるのでしょうか。
原体験は小学生の時に訪れた長崎県の壱岐島(いきのしま)の美しさですが、決定打は27歳の時に訪れた広島県の大崎上島(おおさきかみじま)でした。
当時は編集の仕事をしていて、その仕事も楽しかったんです。でも、自分の職能をどこに注ぐかと考えたとき、「自分が心から貢献したいと思える対象のために働きたい」と思いました。そこで浮かんだのが、故郷の大分県日田市のようなローカルなコミュニティーに貢献することでした。
たまたま大崎上島に移住する友達がいて遊びに行ったところ、そこはメジャーな観光スポットこそないけれど、お裾分けが当たり前で、子どもたちが誰にでもあいさつしている。都会では失われたコミュニティーがあって、まさに私の故郷の風景と重なりました。
調べてみると、離島専門のメディアはまだなかったのと、私が経済誌に勤めていたから「離島経済新聞」にしよう、と。そんなノリでのスタートでした。
――島での暮らしから、現代社会の課題が見えてくる?
そうですね。現代の暮らしは、お金さえあれば誰とも関わらずに生きていける「お一人様サービス」に溢れています。でも、お金さえあればというのは、お金がなければ何もできないのと一緒なんです。誰ともコミュニケーションしなくても生きていけるから、結婚する人が減ったり、子どもを産む人が減ったりということに結果的につながっていく。それが、孤独・孤立を招いています。一方、離島はお金で買えるものは少ないけれど、お金がなくても生きていけるすべが残っている。今私たちは「何があれば」ではなく、「何がなくても豊かになれるか」を考えるべき時期に来ているのだと思います。
そこで、「本当に豊かな生き方って何だろう」という答えを探して、離島の人々に出会ってもらいたいと考えています。島と行き来していると、見えてくるものがあります。でも、実際に行ってみないと分からないので、まずは「豊かさを探す」という視点で島に出かける人を増やしたいと思っています。都会は情報過多なので、話を聞いただけで分かった気になりがちですが、結局は体感してみないと分からない。圧倒的に足りないのは経験を伴う身体知。
■価値観のアップデート
――なるほど。島に行って、見て、感じてきてほしいということですね。子育てや教育でも島から学ぶことはありますか。
現代は「制度」に依存し過ぎていると感じます。子育ては本来、「制度」ではなく「文化」です。島だと、集落の大人が全員子どもの名前を知っていて、困っていたら「見ておくよ」といったやり取りが生きています。制度の穴を文化で補っているんですね。制度に依存しすぎると、むしろ人間は脆弱(ぜいじゃく)になります。これから先、人口減少で制度が機能不全になっても生き抜けるよう、島に倣って「共に生きる文化」を自分たちのコミュニティーにインプットしていくといいのではないかと思っています。
教育分野でいうと、人口が減って学校がなくなりそうな島は、島外の子どもたちに来てもらう離島留学を進めています。そこで、留学を検討している親子と島を、モニターツアーや情報発信でつなぐ支援も行っています。
――大人たちが島の文化を体験する企画もあるそうですね。
心豊かに生きるすべを見に行こうという「シマビト大学」の企画で、島の集落文化を訪ねる合宿を行っています。奄美大島では、集落のおじいやおばあが週1回カラオケで集まっている古民家に行って、島の人と交流しました。その時に参加者が言っていたことです。
奄美大島では、誰かが悪いと対立しそうな時、あえて「ケンムンのせいじゃ」と妖怪のせいにするそうです。正しさで白黒をつけず、曖昧な部分を残して折り合いをつける。こうした知恵が、みんなの心をつなげ、豊かにし、笑い合って生きていけるようにしているんだなと。島の人としばらく一緒に過ごすと、こういったことを体感できるはずです。
「心豊か」というのは価値観の話なので、結局その人たちの生き方を見ながら、自分自身の価値観をアップデートすることが大事なんです。誰かを変えるとか、社会を変えるとかいうより、自分の価値観を変えることで、みんながようやく心豊かになれるんです。
――島には、環境問題へのヒントもありますか。
離島の地域ビジョンを見ると、必ず「自然」が計画の中に入っています。
養老孟司(ようろう・たけし)先生がおっしゃっていたのは、「都市生活者は、一定期間だけでも地域で暮らしてみて、万事自分でやることに慣れていかなければならない」ということでした。大災害で流通が止まれば、日本中が離島状態になります。これからの社会を考えた時に、生き残れるのは「支え合う文化」を強化できるコミュニティーだと思うんです。「半径400メートル」の歩いていける範囲で助け合えること。そして、その地域で賄えないものはどこかの地域と広域で助け合う。そういう関係を作らないといけないのだと思います。
■「助けて」と言える社会へ
――離島の文化を発信する鯨本さんから見て、未来世代に必要なものとは?
一番は、「支え合う力」ですかね。作家の佐藤優(さとう・まさる)さんは沖縄の久米島に縁があって、「困った時に『助けてください』と言える力」が最も必要なサバイバル能力だと言われていました。本当に困った時に一人で抱え込んで衰弱してしまうのか、あるいは周囲にSOSを出し、逆に困っている人がいれば手を差し伸べられるか。この力が不確実な未来への最大の備えになるのだと思います。
――都会に住む私たちが、今すぐ始められることはありますか。
子どもも文化も、育てるには時間がかかります。何でも手早く作ろうとせず、じっくり育てることを諦めないでほしいです。島根県海士町には「大人の島留学」もあります。3カ月とか1年とかそういう単位で生活してみて、支え合って生きていくとはどういうことなのかを体感する人が増えてほしいですね。周りが支え合うモードじゃないところに、いきなり「支え合う文化」を持ち込むのは難しい。そういう時は、よくないけれど、災害がチャンスになるんです。養老孟司先生に「どうすれば人の心が変わりますか」と聞いたら、「地震待ち」と言われました。災害の時には、支え合わないとどうしようもないからです。
プロフィール
鯨本あつこ(いさもと・あつこ)
認定NPO法人離島経済新聞社代表理事・統括編集長。
1982年生まれ。大分県日田市出身。地方誌編集、経済誌広告ディレクター等を経て2010年に「離島経済新聞社」設立。広島県・大崎上島で聞いた「この島は宝島」という言葉に感化され現職へ。現在は地元で子育てをしながら、編集デザインの知見を活かし、全国の島々で地域づくりや事業プロデュース、人材育成に携わる。2012年にロハスデザイン大賞受賞。美ら島沖縄大使、沖縄振興審議会離島過疎地域振興部会専門委員などを歴任。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。











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