1年ぶりにメッセージを送ってみると、現地の深刻な状況を伝える返信が届いた。
「周りの環境はますます厳しくなっています。
送り主はウクライナの首都キーウに住むリュボフ・ソロキナさん(32)。かつて東京に1年ほど住み、日本語教師をしていた経験から現在は翻訳の仕事もしているという。
ロシア軍がウクライナに侵攻した4年前、私がキーウを拠点に1カ月半、取材をした時、通訳を務めてくれたのがリュボフさんだった。当初は「国を守るためなら武器も持つ覚悟です」などと意気込んでいたが、いつまでも終わらない戦争状態に、さすがに精神が疲弊しているようだった。
「40時間電気がずっとなかった。46分間電気が使えるようになってまた停電。スマホの充電もできないし、料理もできないし、掃除もできないし…」
停電によって日常生活は「できない」ことで溢(あふ)れた。このため私はリュボフさんへの電話は控え、2月上旬に1週間ほど、メッセージでやり取りを重ねた。
キーウではエネルギー施設への集中攻撃の影響で停電が常態化している。さらに悪天候により、復旧作業も遅れている。
リュボフさんはマンションの1室に夫と犬と一緒に住んでいるが、部屋の温度は12度。食事はパンやファストフードを1日1回食べる程度で、温かいボルシチはしばらく食べていないという。
「バス動員もあるので外出はできません。(バス動員は)英語では『バシフィケーション』と言い、戦争時の造語です。路上でバスに乗せられ、十分な訓練を受けないまま最前線に送り込まれることも多いのです」
このバス動員の背景には、戦争の長期化による兵士不足がある。
「お姉さんの夫はつい3日前に徴兵されました」
外出する時は、エレベーター用の発電機が稼働している時を見計らい、電源のあるカフェを探し回っている。発電機が壊れたら、自宅の部屋がある24階まで階段を上らなければならない。空襲警報は毎日鳴り響き、真夜中に爆発音が聞こえることもある。リュボフさんはこんな心境を吐露する。
「この壊れていく現実に絶望感の方が強くなっています。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこのほど、米国から戦争終結の期限として今年6月を提示されたと明らかにした。
「仮に和平合意が成立したとしても、ロシア側はウクライナ人への残虐行為を続けるでしょう」
リュボフさんは絶望と不安に打ちひしがれている。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.8からの転載】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。
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