春になると、街で少し大きめの制服を着た小学生たちを見かける。入学の季節だ。

 この時期になると、私は母校のことを思い出す。

 そんな折、母校の会報誌の企画で、恩師の先生方との対談の機会をいただいた。

 1年生の担任の先生、4年生の担任の先生、そして5・6年生の担任の先生に当時の学年副主任の先生。

 小学校時代のさまざまな節目でお世話になった先生方が一堂に会してくださるという、なんとも贅沢(ぜいたく)な時間だった。

 教室や校庭の景色は当時と少しずつ変わっているのに、先生方と向き合って話していると、不思議と心はあの頃に戻っていく。

 まだ幼く小さな自分が、毎日を一生懸命に過ごしていた日々。

 失敗して落ち込んだこと、流した涙、友だちと笑い転げた放課後、授業で必死に考えた時間―その一つ一つが、今の自分の土台になっていることを改めて感じた。

 対談の中で印象的だったのは、先生方がそれぞれ違う教科を担当されていても、子どもたちに伝えたい思いは同じだったというお話だった。

 勉強だけではなく、どう生きるか、どう人と関わるか。あの学校で学んだ時間は、知らず知らずのうちに自分の中に根を張っているのだと思う。

 私の小学校は、6年間、毎年、菊の花を育てる授業があった。校章は菊の紋章の真ん中に「小」の字。

 私たちは「菊の子」と呼ばれ、卒業式では全員で「菊の子としての誇りを胸に卒業します」と体育館で宣言したことを、いまだに覚えている。当時はよくわかっていなかった「誇り」は、確かに私の胸の中にある。

 社会に出ると、早く答えを出すことや成果を出すことばかりが求められる場面も多い。それでも時折、母校で教わった「ゆっくり考えること」や「小さなことを大切にする姿勢」を思い出す。そうした価値観が、忙しい日々の中で自分を立ち止まらせ、支えてくれている気がする。

 卒業や入学の季節になると、人生の新しい一歩を踏み出す子どもたちの姿を思う。

 母校で過ごす日々が、これから歩んでいく長い人生の中で、ふと立ち返ることのできる原点になりますように。

平井理央(ひらい・りお) 1982年東京生まれ。2005年、慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビ入社。スポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターを務め、オリンピックをはじめ国際大会の現地中継などに携わる。13年フリーに転身。ニュースキャスター、スポーツジャーナリスト、女優、ラジオパーソナリティー、司会者、エッセイスト、フォトグラファーとして活動中。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.12からの転載】

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