【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、人気漫画家・東村アキコさんの自伝漫画の映画化『かくかくしかじか』(2025年5月16日公開)です。
では、物語から。
【物語】
漫画が大好きで「将来は漫画家になる!」と決めた高校生の明子(永野芽郁さん)。美術部で絵を描きながら「美大に進学して、在学中に漫画家デビューし、有名になる!」と思い込んでいました。
しかし、そんな明子の成功への妄想は、美大受験のために通い始めた美術教室の日高先生(大泉洋さん)が一刀両断! 明子の絵を「全然下手クソで~す!これじゃ美大は受からんぞ」とスパルタ式の猛特訓で明子を厳しく鍛え始めるのですが……。
【映像化を断り続けてきた大切な漫画】
東村アキコさんの漫画はドラマ化されることが多いけれど、『かくかくしかじか』だけはドラマや映画のオファーがあっても断り続けていたそう。それは東村さんにとって、自分の半生を描いたとても大切な作品であること、そして、漫画家・東村アキコの土台を作ってくれた日高先生との思い出が詰まった作品だからではないかと。
そんな東村先生が映画化を決断したのは、芝居が上手い永野芽郁さんが明子を演じること&日高先生の役を東村さんの願いで大泉洋さんが引き受けてくれたことがポイントだったそうです。
そして制作期間中は漫画の仕事を止めて脚本・美術・ロケハンなど制作にも深く関わっていた東村さん。
この映画に懸けていた東村さんのその情熱はしっかり映画で表現されていました。漫画家に憧れていた高校生が漫画家になるまでのリアルが本作には散りばめられており、そのひとつひとつがすごく刺さるんですよ。
【スパルタな日高先生が教えた大切なこと】
高校時代の明子は、自己評価がとんでもなく高く「美大なんてちょろ~い」と思っているんですよ。そんな彼女を日高先生は厳しく指導。とにかく圧がすごくて、生徒の気持ちがゆるんでいると竹刀でバシバシと喝を入れ、決め言葉は「描けーっ!」。
今の時代だと通用しない指導かもしれませんが、絵は感性だけでは描けない。技術に裏打ちされて初めて成り立つものであり、この技術は毎日の積み重ねが大切。日高先生はそれを教えてくれているのだと思いました。
【描けなくなった大学時代が重要な理由】
明子は見事、金沢美術工芸大学に合格しますが、大学入学した途端に遊んでばかりで毎日描けなくなるんです。今まで日高先生に「描けーっ!」と言われてきたけど、気合を入れてくれる人がいなくなり、「自分は何を描きたいのか」わからなくなっちゃうんです。
この「大学生活は楽しい~、けど、心は空虚」って感じ、誰もが経験するのではないかと。
先生に「毎日描け」と言われていたのに、描けないから情けないやら申し訳ないやら……という複雑な気持ち。加えて、先生が突然大学に来たときも、友人にも教授にも紹介できなくて申し訳ない気持ち。先生が寂しそうで胸が痛かったです。
でもこのどん底が明子にとって重要な時間。このあと、明子の人生は急上昇するのですから。
【大泉洋が素晴らしい!】
この映画の最重要人物は大泉洋さんが演じる日高先生なんですけど、この大泉さんが本当に素晴らしいんです。
バラエティーなどにも多く出演する大泉さん。キャラの濃さが何を演じても大泉洋になってしまうんじゃないかと思っていたのですが、違うんです。
本作ではずーっと日高先生。それは大泉さんが日高先生のキャラクターの芯をしっかり掴んで離さなかったからだと思います。
永野芽郁さんが演じる明子に感情移入し、日高先生の「描けー!」にビビりつつも、だんだんその言葉が温かいものになっていく。本当にいい師弟関係でした。
明子を演じた永野芽郁さんも表情が豊かで明子の感情の強弱がしっかり伝わるさすがの演技。安定感がありました。また明子の衣装はジャージが多いんですけど、これが可愛い! カラフルでポップな明子の衣装にも注目です。
日高先生と明子の師弟関係を見て、かつての恩師を思い出す人がいるかも。また自分のモヤモヤしていた学生時代を思い出して懐かしい気持ちになる人も。東村アキコさんの半生を描いた『かくかくしかじか』ぜひ劇場で見てくださいね!
執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:東村アキコ/集英社 ©2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
『かくかくしかじか』
2025年5月16日(金)より全国ロードショー
原作:東村アキコ「かくかくしかじか」(全5巻) 集英社
監督:関和亮
脚本:東村アキコ 伊達さん
出演:永野芽郁、大泉洋、見上愛、畑芽育、鈴木仁、神尾楓珠、津田健次郎、有田哲平、MEGUMI、大森南朋
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