【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、松村北斗主演映画『秒速5センチメートル』(2025年10月10日公開)。
新海誠監督による同名アニメーション作品(2007)の実写映画化です。試写で鑑賞しましたが、切なくてじんわり感動できる作品でした。

では、物語からいってみましょう。

【物語】
小学生の貴樹(上田悠斗さん)と明里(白山乃愛さん)は仲のいい友だちでしたが、明里は小学校卒業と同時に栃木県に引っ越してしまいます。それでもふたりは文通を重ね、離ればなれでも友情は続いていました。

中学生になった貴樹は明里に会いに行き、ふたりは桜の木の下で「2009年3月26日にまたここで会おう」と約束をします。

時は流れ、貴樹(松村北斗さん)は、システムエンジニアに。明里(高畑充希さん)とは連絡をとっていませんが、それでも彼は再会の約束を忘れていませんでした。

【言葉によって思いが少しずつ溢れていく】
『秒速5センチメートル』は、主人公・貴樹の小学校&中学校・高校・社会人の3章からなる物語。第1章は小学校と中学時代で、2人が出会い、友情が芽生え、それが初恋に変わっていく様が爽やかに描かれます。

ふたりともヤンチャな小学生とは真逆のタイプなので、言葉を重ねて理解を深めていく姿は新鮮でした。どこか大人びていて「こういう子いたな~」と自分の小中学時代を懐かしんだりしましたね。


【貴樹のやさしさが残酷さに変わるとき】
高校時代、貴樹(青木柚さん)は同級生の花苗(森七菜さん)と親しくなります。でも2人の気持ちは異なり、貴樹にとって花苗は友だちですが、花苗にとっては片想いの相手なのです。

このパートがとても切なかった。花苗が彼の姿を追う目線、照れ臭そうに貴樹に話しかける感じが「好き!」と言っているようなもんなのですが、貴樹はそれに全く気づかない。それは彼の心にずっと明里がいるから。

いつも一緒にいるのに心の距離が遠いと感じている花苗は、貴樹にやさしくされるたびに傷ついていく……。森七菜さん名演だったなあ。胸がギュっとなるシーンがたくさんありました。

【大人になった貴樹と明里の運命】
システムエンジニアとして働く貴樹はもくもくと仕事に取り組み、会社の人との付き合いはありませんが、実は同僚の水野(木竜麻生さん)とお付き合いしています。2人とも無口で似たもの同士だから、どこかシンパシーを感じたのかもしれませんが、水野さんはずーっと寂しそう。花苗との距離感と変わらない印象がありました。

そんな中、貴樹と明里が桜の木の下で約束をした日以来、近づくチャンスがやってくるんです。
このあとの展開は、ぜひスクリーンで見ていただきたい!

本作はとにかく鈴木史子さんの脚本が秀逸で、学生時代のふたりを社会人になった現代につなげながら、あの頃の思いを抱いたまま、再会のチャンスへと感動をひろげていくプロセスがとても良かったです。

最後の明里のセリフもパンチが効いていましたね。男性のほうがロマンチストで、女性のほうが現実的なんだよな~、としみじみ。松村北斗さんは感情を抑制した静かなお芝居が心に沁みました~。

映像も美しく、初秋にぴったりの映画です。ぜひ劇場でじんわり感動してください。

執筆:斎藤 香(c)Pouch

『秒速5センチメートル』
2025年10月10日(金)より全国ロードショー
原作:新海誠 劇場アニメーション『秒速5センチメートル』
監督:奥山由之
脚本:鈴木史子
出演:松村北斗 高畑充希
森七菜 青木柚 木竜麻生 上田悠斗 白山乃愛
岡部たかし 中田青渚 田村健太郎 戸塚純貴 蓮見翔
又吉直樹 堀内敬子 佐藤緋美 白本彩奈
宮﨑あおい 吉岡秀隆
主題歌:米津玄師「1991」
劇中歌:山崎まさよし「One more time, One more chance ~劇場用実写映画『秒速5センチメートル』Remaster~」
©2025「秒速5センチメートル」製作委員会

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