【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは長澤まさみさん主演映画『おーい、応為』(2025年10月17日公開)です。
日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎の娘・お栄(応為)の自由奔放な人生を描いた江戸の女性映画です。

演出は、同じく長澤まさみさん主演映画『MOTHER マザー』(2022)の大森立嗣監督。大森監督と長澤さんの再タッグで、しかも長澤さんは時代劇初主演ってワクワクしますね!

では、物語からご紹介しましょう。

【物語】
葛飾北斎(永瀬正敏さん)の娘であり弟子のお栄(長澤まさみさん)は、絵師の夫の絵を罵倒したことがきっかけで離縁。北斎の家に帰ってきます。絵を見る目も描く技術もあるお栄。

いつも北斎に「おーい」と呼ばれることから、絵師として「葛飾応為」という名前を授かります。女性は嫁にいってナンボの江戸時代に、お栄はやりたいことを自分で選ぶ人生を貫くのです。

【離婚から始まるヒロインの物語】
女性は男を立てて、お世話をして尽くすことが全ての時代にお栄は絵師の夫に「絵が下手くそすぎる」と罵倒しまくります。冒頭からワイルドなキャラ全開なお栄を演じるそんな長澤まさみさんがかっこいいんです!

その後、お栄は実家に帰ってくるのですが、北斎の家はオンボロ長屋で散らかり放題、足の踏み場もありません。しかし、そんな中で真剣に絵を描く北斎。出戻りの娘に対して優しい言葉をかけたりはしないけれど、それが逆にお栄にとっては楽なのかもしれません。


【江戸時代のアウトローを演じる長澤まさみ】
お栄の着物姿は男性のような着流しスタイル。これが高身長でスタイルのいい長澤さんに似合っているんですよ。またお栄は言葉遣いが悪く、愛想もないし態度もでかいのですが、それでも嫌な印象がないのは、長澤さんが正直に生きるお栄を大切に丁寧に演じているから。

お世辞など絶対に言わないからこそ、彼女が絵について何気なく発する言葉にはハッとさせられました。江戸時代にこんなかっこいいアウトローな女性がいたなんて……驚きです!

【永瀬正敏さん、髙橋海人さんもいいけど…】
永瀬正敏さんが演じる北斎も自由奔放で、絵を描くこと=人生のような人。永瀬さん自身も写真家というクリエイターの一面もあるので役にピタリとはまっていました。

また、髙橋海人さん演じる渓斎英泉は、北斎の弟子でお栄の友人。可愛げと愛嬌のある男で、髙橋さん自身と重なるような印象がありましたし、何しろイケメンなので眼福!

というように、俳優陣も華があるし、キャラクターも魅力的なのですが、私個人としては物語に起伏が少ないような気がしました。

なぜかというと、周囲に理解者が多く、お栄に対して “仕掛けてくる人” がいないからではないかと。女性絵師が才能を開花させることが難しかった時代。その憤りや情熱を燃やせる場面がほしかったなあと。原作ベースの作品であること、実在の人物を描く難しさはあったとは思いますが、もう少し「どうなるのだろう」と思わせる何かがほしかったな~。


ただ、長澤まさみさんの素晴らしさを堪能する映画としては大正解かもしれません。“江戸に生きるかっこいい長澤まさみ” をぜひスクリーンで堪能してください。

執筆:斎藤 香(c)Pouch

『おーい、応為』
2025年10月17日(金)より全国ロードショー
監督・脚本:大森立嗣
出演:長澤まさみ 髙橋海人 大谷亮平 篠井英介 奥野瑛太 寺島しのぶ 永瀬正敏
原作:飯島虚心 『葛飾北斎伝』(岩波文庫刊) 杉浦日向子 『百日紅』(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」
(c)2025「おーい、応為」製作委員会

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